転……(4-7)

「――油断大敵っ!」

 がばっと起き上がると、歩と紗智が驚いた顔で僕を見ていた。

「ど、どうしたんですか? 静夜さん」

「……学習能力はあるみたいね」

 どうやら机を枕に寝ていたらしい。

「なんか怖い夢を見た気が……痛っ」

 本当に不思議なことだけど、顔面が痛い。何かあったのだろうか?

「そ、そんなことより静夜! 紗智が情報を拾ってきたわよ」

「情報……瓦田君の情報が出たの?」

 最初に聞き込みをしてから三日が過ぎたけど、進展はなし。当然のごとく、瓦田君も見付かっていない。その間、僕達は休む時間も惜しんで聞き込みを繰り返した。学校はもちろん、大通り以外でも調査を行ったが……無駄だったわけだ。

 しかし今日、紗智は情報を得たと言う。僕が意気込んで訊くと、

「関連があるかは分かりませんよ?

 ……公式な発表はされてないみたいですが、学校で噂になっている事件があります。今朝、生徒の誘拐未遂があったというものです。

 生徒はある倉庫まで連れて行かれたものの、自力で逃げたそうです。

 今は騎士隊で事情聴取らしいですけど――」

 ここまで言ってから、紗智は頭を抱えた。

「どうした?」

「これ……学校中でめちゃくちゃ広まってる噂ですよ? なんで二人共知らないんですか。友達が話したりしてませんか?」

「友達……」

 途端に僕と歩が沈んだ声を漏らした。……どちらも教室では相当浮いている存在だった。僕は突然試合相手に大怪我を負わせた危険人物。歩の方は親切すぎて逆に鬱陶しがられている……お節介というやつだ。意外なことに紗智は飾らない性格もあって、交友関係が広い。本人曰く普通らしいが。

「……いいです、何でもないです! ごめんなさい!

 とにかく、瓦田でしたっけ? 関係があるのなら、その倉庫に連れられた可能性が高いです。どうします? 騎士隊も動くはずですから、行動するなら急いだ方がいいですよ」

 ――もっともだ。騎士隊が出たら何も出来ない。だが逆に言えば、

「騎士隊に任せるっていう手もあるよな?」

「まあ、そうですね。サチとしてはそっちが楽でいいです」

 僕が考えていると、歩が溜息と一緒に言った。

「……順番が違う」

「え?」

「だから、順番を間違えてるのよ。任せるかどうかは今決めなくていい。とにかく、その倉庫に行くべきだと思うけど? その場に行ってから考えなさい」

 そして微笑い、言う。

 ――善人になりたいんでしょう?

「……そうだね」

 その一言で、心は決まっていた。さすがは生粋の善人だ。

「準備が出来たら、その倉庫に――」

 トントン、と扉が叩かれた。僕達は項垂れる。ここを訪れた人物は今までで一人しかいない。

「……どうぞ」

 控えめに扉を開けて中へ入ってきたのは、やはり天野さんだった。

「私も連れてって下さい」

「いや……でも」

 どうやら外で聞いていたらしい。その表情は頑として譲らない様子だった。

「なら一人で勝手に行きます!」

 僕達三人は顔を見合わせて……諦めることにした。

 ――不確定要素よりはマシかな……?

「分かったよ。一緒に行こう。でも僕達の指示に従うこと、いいね?」

「あ……はい。ありがとうございます!」

 一気に広がった微笑みに不安を抱きながら、僕達は倉庫へ向かうことにした。

 ただ――

「……」

 紗智が一瞬、僕を軽蔑するように睨んだ気がした。

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