転……(4-5)

 深夜の大通り。たむろする浮浪者の中に、一つだけ異質な存在があった。

「……よ……滅びろ」

 何事かを呟きながら、歩く男……いや、性別すら判断がつかない。汚れた巨大なローブの裾を引き摺りながら、口元までフードを被っている。これでは前が見えないはずだが、よく見ると右目の辺りが小さく破けていた。もっとも、表情は読み取れなかったが。

「せ…………自身を呪え」

 月明かりに照らされ、フード越しに反射した眼光はギラギラと白く輝く。しかし爛々と光を放ちながらも、奥の奥まで濁っていた。

 だが、何より異常なのは彼――否、ソレの右手が握る物だ。

「せ……いよ……最大の不幸を喰らえ」

 猫背だが、高い身長だと分かる。しかし、右手に握った片刃の大剣は同じくらい長い。そして波打つ剣身は全てが赤かった。だが、一色ではない。剣は様々な赤で彩色されていた。燃えるような緋。強烈な朱。鮮やかすぎる紅。

 ……誰もが血を連想せずにはいられない、そんな色使いだった。

 だからだろうか。浮浪者達が道を開け、離れていく。

 ソレは呟き続ける。まるで唱えなければ自分が消えるかのように。

「世界よ……地獄に堕ちろ」

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