第30話 舞台の流れも大きくる

先程までの疲れも、痛みもまるで感じなくなった桜利は全速力で走った。A地点を通り過ぎたあたりで桜利は遠くに人がいるのを発見した。桜利はすぐに、木の裏に隠れながら近づき様子を伺った。


「だーかーらー、どこからきたの?所属は?何が目的?」


コート姿の男は桜利を襲ってきた男と同じ服を着た男を問い詰めている。問い詰められている方は右肩を押さえ、息が上がっている。


「答えたほうが楽だよ?」


「…うっ、あぁぁぁ」


無言を貫こうとした男の右肩に謎の力がかかり、抑えていた部分から血が再び流れ出す。


「話さない?」


叫んでいる男はそれでも首を横に振った。


「そう、じゃあさようなら」


コートを着た男の横にいる女が頭に一発撃ち込み、傷を負った男は地面に倒れこんだ。一部始終を見ていた桜利はすぐに逃げようとその場を離れようとした。


「そこの、動くな」


コートを着た男はいきなり叫び出した。桜利は自分のことかと思いぴたりと動くのをやめるが、反応はしなかった。


「何言ってんですか?」


「そこの茂みか木の裏に誰かいる感じがしてさ。いたら、手を上げてくれない?上げてくれたら一旦は何も知らないからさ」


その言葉を聞いて、どうするか迷ったが抵抗できる気もしないため桜利は顔を上げずに腕だけ出す。


「ほらね、言ったでしょ」


「なんでわかるんですか?こっわ」


「長年の勘ってやつかな。で、そこの人私たちとやりあう気ある?」


「ないです。まったくないです」


桜利は潔く答えた。


「…何があったか誰にも言わないって約束してくれる?」


「何があったか絶対に言いません」


「あっそ、じゃあいいかな。手を出す気もないから行っていいよ」


桜利の魂の叫びともいえる発言に対して、返ってきた反応は桜利にとってはあまりにも大きな、命の安全を保証するようなもの。桜利は何も見なかったこととして、茂みを走り始めた。




一発の軽い音が響くと、桜利の体が前のめりに倒れた。




「え?なんで撃っちゃったの?」


「どうして逆に、そのまま生かすなんて選択肢をとれると思ってるんですか?私たち諜報機関の人間ですよ」


「でも、声的に絶対求めている情報を持っている人じゃないし…いいかなと思いまして」


「前から思ってましたけどそこら辺の管理だいぶガバガバじゃないですか」


「そんなことないよ。それよりもよく、茂みの中にいる人間に当てられるね」


「最初に腕見れていたので、私の能力ってやっぱ優秀ですよね」


「まぁ、そう思いたいよね」


コートの男は茂みの中に入り桜利を見つけると一回頬をたたいた。


「痛った」


「えぇ?なんで生きてるの?」


桜利が叩かれた頬をなぞっているのを見て、女は驚愕の表情を見せた。


「あれ?なんで俺倒れてるの?」


「そこのお姉さんが茂みの中を走る君を狙撃した」


「じゃあなんで俺は生きているんですか?」


桜利は自分を撃ってきたお姉さんの法を見ながら問いかける。


「いや…私に聞かれても…私、殺したと思ってましたし」


その回答に桜利もお姉さんも困惑する。


「一旦それは置いといて、この子どうしよう」


桜利の持ち物を一通りあさり終えた男は女の方に向けて問いかける。


「消す以外の選択肢ありますか?」


隣にいる女は桜利に向けて銃口を向ける。その銃口を、男はそっと下げる。


「それをしたら、楽ではあるけど...それでいい?」


「いいわけないでしょ。そもそもあなた方は誰なんですか?」


「...寒いし建物で話すか」






桜利は背中に銃を突きつけられながら歩き、A地点の建物の中の部屋に入る。





「これ...どうにかならないんですか?」


桜利は自分に向けられた銃口を指さす。


「まぁ、下手に撃てないから気にしないで」


目の前の男は女に銃をさげるように指示する。


「君は今日行われている試験の受験生ってことで合ってる?」


「あってます。逆にあなたたちは何者ですか?関係者?」


「…国家公認のエージェントだよ」


「「え?」」


桜利と銃を持ってたエージェントが全く同じ反応を示す。


「ちょっと、何バカ正直に伝えているんですか」


桜利に向いていた銃口は隣に座る男の方に向いた。


「いや、さっきこっちが撃ってるわけだからこれくらいはいいかなって。それにここで無理に駆け引きとかしても意味ないのは明白じゃないかな。この子危険?」


その発言に対しては横に首を振る。


「それなら問題ないでしょ」


嫌そうな表情をしながらも、銃口が下に向けられた。


「国の人なら聞きますけど、この島で何が起きているんですか?」


桜利は自分は関係者だといった男にどうしてもわからないことを思い切って聞いてみる。


「逆に聞きたいのはこっちなんだよね。君から何があったか教えてもらってもいい?」


「何で知らないんですか?」


「…私たちは今来たばっかなんですよ。来てすぐに関係者に連絡は取れないし、変な人たちがいるしで、よくわからない状況なんです」


女の発言に対して、隣の男も頷く。このまま黙っていても、会話が続かないことを悟った桜利は今日の出来事を話し始める。ただし、ところどころぼかしながら。


「...昨日読んだ漫画の話をしているわけではないんだよね」


男はあまりの話の内容に、「冗談か?」と桜利に聞くが、桜利は首を横に振った。


「一応、ここまでが話せる内容ですね」


その発言に男は食いつく。


「その言い方だとまだ何か隠してるってことでいいかな」


「次は、そっちが話す順番じゃないですか」


桜利は男の方に目線で伝える。


「…この試験について少し裏話をしようか」




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