第45話 勝手に国を救ったら、勝手に世界の敵になる

「桜利さんが寝てる間にそれはもういろいろとあったのですがその中でも一番大きかった出来事がこれなんですよ」


モニターに出た一枚の新聞記事を桜利は眺めた。新聞の見出しには『日本の国際地位が低下か』と大々的に書かれている。記事には大々的に報じられており、スピーチをする外人の写真もついていた。


「解説してもらってもいい?」


「桜利さんが試験を受けてから一週間程経ったころですかね。東アジア共和国が、日本が国際的に禁止されている戦略破壊兵器を保有していると報告しました」


「もしかしてだけど…俺が見たものって」


「おそらく共和国側の言っている兵器だろうね。この兵器はかつて、冷戦下で米ソが開発したものなんだけど、運用までは行かなかったんだ。運用されていたら、考えられないレベルの被害が出たと考えられていて、環境付与型能力装置は現在、国際法の大量殺戮兵器に分類されていて研究開発が禁止されていて、日本もその条約に署名をしているよ」


「じゃあ、日本は条約を破っていたってこと?」


桜利の質問に風也は頷く。


「で、どうなったの?」


桜利が問うとモニターに映っていた新聞が変わった。


「こちらがその数か月後に出た新聞です。結論から言うと島がなくなっていたので日本は助かりました」


「かなり、国連は荒れたけどね」


「え?あの島無くなったの」


モニターの表示が変わった。


「こちらが現在の衛星から見た島の座です。どうですか?島はありますか?」


「無いじゃん。なんでないの?」


「それはまだわからないけど一つあるとすれば、何らか要因であの白いキューブが爆発して島が消えた可能性は考えられる。高校側は海底地震による自然災害でこの事件を締めくくったけどそれよりはしっくりくると考えている」


風也の説明に桜利は疑問が浮かび続けていた。


「それって結構、強引じゃないですか?」


「それで納得するようにいろいろとやってたからね。ニュース番組の情報改変、世論の操作、偽造した地震の研究結果と考えられることはすべてやったから今はこの事件についてはだいぶ下火になっているよ」


「それはほんとの話?」


疑う桜利の目の前に現れたのは桜利が眠っている間のニュース番組の動画だった。そこで放送されているのは確かに桜利が受験した高校と島が出てきているが、桜利の知っている事実とは異なることが語られている。その異様な光景を桜利はただ静かに見続けた。


「異様だね」


率直な感想を桜利は思わず漏らしてしまった。


「実際に経験した人から見ればね」


ここまで話すと風也はネアが淹れた紅茶を一口すする。レモンの香りがふんわりと部屋に漂った。


「先生、質問していいですか?」


「もちろん」


「なんでこんなことが起きたの?」


「もう少し、言語化してみな。それだけだと良くないからもっと具体的に」


軽く答えてくれるかなと思っていた桜利は意表を突かれてしまった。桜利は風也に言われた通り自分の中で何が疑問になっているかを考えた。


「なんであの島が試験の日に狙われたの?どうして襲撃が起こったの?」


「上出来かな。まだ、確かな情報がそろっているわけではないからあくまで推測のお話になるからそこは理解してほしい」


風也の説明に桜利は頷いた。


「まず、一番最初に伝えたいのは今回の襲撃の目的はこれだと思ってる」


モニターに映ったのは先ほど見た一番最初に見せられた新聞だった。


「日本のアジアでの国際的地位の低下のほうが目的で、そのための手段として襲撃をしたのだと思う。試験の日に被せたのは仮にあの島に兵器があったとして警備が厳重だとしても、試験の日だけは通常と異なり混乱が生まれる可能性が高いからかな」


「どうして兵器があると知られていたの?」


「多分関係者の中に裏切った人かスパイがいたかな。おそらく、東アジア共和国に情報を売った人が日本のどこかにいるはず。後これを見てほしい」


モニターに映っていたのは襲撃時の監視カメラの映像の一部だった。


「関係者からもらった監視カメラの映像なんだけど、この茶色の戦闘服は十数年前に半島のほうで活動を行っていた工作員のものと同じなんだ。ここからは少し歴史のお話になるんだけど、東アジア共和国という国はまだ世界的に見れば建国して間もない国なんだ」


モニターが切り替わり、共和国の地図が映し出された。


「建国まで長い内戦を経て統一されたこの国の強みは豊富な鉱山資源と人の数。これを生かして建国してから工業力を伸ばしていき、現在は世界でも有数の大国になりつつある。そんな彼らが次に狙うものは何だと思う?」


「うーん、国を強くすることとか?」


「ほぼ正解」


ここで桜利が当たったことで逆に襲撃の理由がわからなくなってしまった。


「それとこれはどんな関係があるかわからないんだけど」


「アジアでも先進国としての地位がある日本の評価を落とせば相対的に自分たちの地位が上がるって考えたんだと思う。『強くする』よりも『地位の向上』が花丸の回答かな」


そこまで聞いて桜利は納得がいった。


「でも、結果はダメだったんでしょ」


「桜利君が原因でね。さっきの話していた中の途中での防衛戦が今回の鍵だったと思う。話を聞いただけで実際はわからないけどね」


「…先生はあそこで戦った人たちは間違ってないと思う?」


「知らないところで勝手に日本を救ってくれたのに感謝しないわけないだろ。本当によくやったと思うよ」


その言葉に桜利は自分にもわからない感情が沸いてくるのを感じた。ともに戦った仲間との記憶が少しずつ蘇ってくると同時に桜利は一つ思い出したことがあった。


「一つ思い出したことがあるんだけど、途中で茶色じゃなくて黒色の服を着たものすごく強い人に会ったんだけど…ん?あれ?」


違和感、言葉にならない違和感が桜利を襲った。


「黒い服の特殊部隊は多いからわからないかな。何か思い当たる節とかありそう?」


「そうですね…」


風也に問われたネアはポチポチとタブレットをいじり始めた。


「桜利さんもしかしてこんな服の人たちですか?」


「そうこれ。この服を着た人たちもいた」


「よりにもよって…なんとも運命的だね」


風也が思わず笑ってしまった。


「PFSですか。いろいろと噂は立ってましたけどまた、面倒なところが来ましたね」


「PFSの説明を求めます」


「大手の武器会社。表向きは世界中に銃や弾薬といった武器を販売している会社で一応誰でも購入は可能だよ。裏向きは裏世界の様々な出来事に関わっているなんでも屋さんかな。この服はPFSの戦闘員の戦闘服だよ」


そこまで話すと風也は席を立ち上がった。


「いったんここらへんで休憩しようか。また後で続きを話そう。これがPFSのやってる裏のことの一つの『掲示板』だよ。ここに賞金首のリストが乗っているんだ」


タブレットの画面を桜利に見せると同時にリストが更新された。




「「「え?」」」




画面をのぞいていた全員がキョトンとしてしまった。更新後のトップ画面に映ったその男、赤宮桜利の名前を見て。

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