第46話 青春の始まり
大手武器会社のPFSが運営している掲示板。世界的な犯罪者などがブラックリストとして挙げられており、高い懸賞金が多くの人間にかけられている。麻薬王、爆弾魔、詐欺師や暗殺者など、さまざまな犯罪に関わる人間が掲載されていた。
20××年5月8日日本時間21時を過ぎた頃、事件が起きた。
掲示板に日本の少年が載せられた。
世界中の人間が何かの間違いではないかと思ったが、その金額が情報に重みを持たせた。
イギリスのとある貴族の屋敷ではこの発表に対して、申し訳なさでいっぱいだった。決心して父親に秘密を話した後に、この手配書の発表を受けたことは彼女の精神に多大なるダメージを与えた。国連に虚偽の報告をしたことについては家族会議ですべて片付いたが、そのあとのこの発表に彼女は部屋に戻り布団に倒れこんだ。
「なんて謝罪をすればいいのか…」
彼女は自室の布団にうずくまり、うめき声をあげた。
また、日本の霞が関のとある建物。
「いやいや、島無くなってんのになんで生きちゃってるんですかしかも、この子は私たちの船に戻ってきてなかったから死んだはずじゃ…」
「これは本当にわからない」
文屋のほうは衝撃でお茶をこぼしてしまった。あの日、船の上で島の爆発を見た在原たちは完全に『死んだ』と判断していた。
「お取り込み中すみません。在原さん、官房長官からお電話が…」
「はいはい」
在原が電話に出ると、まるで死にそうな声で担当が電話越しに話し始めたのを在原は半分聞いて、半分は聞き流した。
「なんでした」
「大焦りしてるよ。この少年の情報から洗い出してくれだって」
「そもそも生きているかもわからないのでは?」
「誤情報ってことはないでしょ。この金額だよ」
普通の犯罪者程度とはくらべものにもならないレベルの金額がかけられている以上その可能性は低いと在原は見ていた。
「守護者全員に外出時の防弾チョッキの着用と武器の装備することを連絡してね。これから、多分危険な仕事も多くなると思うから。六花仙も集められる人は全員集めて一回会議を開かないといけないと思うから、その手配もお願い。遠慮なく私の名前を使ってもらって構わないから」
在原に伝言を伝えに来た職員はすぐに仕事に取り掛かり始めた。
「文屋君も悪いんだけどここからはかなり危険な仕事増えると思うから調整しておいてね」
「了解しました」
文屋もソファーから立ち上がり部屋を後にした。
「本当にこの国に嫌われているんだろうな」
在原は心の中で静かに少年の無事を祈った。
山の中のとある屋敷の中では少年が机に突っ伏していた。
「桜利さんもう逆に喜んでみてはどうでしょうか。こんな大金が懸けられるなんてそれだけの大仕事をしたって証じゃないですか」
「いや、これで開き直るのは意味わからないって」
桜利達がタブレットを見た時桜利の顔写真だけが掲載されており、懸賞金額についてはシークレットとなっていた。そしてつい先ほど、発表された金額は400万ドル。日本円に換算して約4億円を超えていた。
「これでだいぶ見えてきたんじゃない」
風也は手元のタブレットでモニターの表示を切り替えた。
「まず、PFSと共和国は裏でつながってたと考えてもいい。彼らの視点ではなぜか島が無くなっていた事で計画が失敗した。その原因としてはおそらく君のことが彼らの中で浮上した」
「でも、おかしくないですか?桜利さんが生きていることを知っているのは私たちだけのはずでは?」
風也の仮説にネアが質問をぶつける。
「鑑定系統の能力者でたまに『生死の判定』ができる人がいるんだよ。だから、可能性として桜利君にその能力を使って生きていることがわかったってのがある」
「なるほど。一応の説明がつくわけですね」
「うん。PFS側はできれば桜利君を生かして捕らえたいと考えるはずだ。桜利君を捕らえて今回の件の重要参考人として国連に引っ張り出すのが最終目標。そうすれば、当初の目的が果たせるからね」
ここまで話して風也は一度お茶を飲む。
「次に大切なのは日本の視点だ。日本政府は逆に絶対に桜利君を殺したいと考える」
「なぜ?」
「『誰にも言っていない兵器のことを国連で指摘されたのはなぜか?』この疑問を解決できるのが桜利君が生きていることなんだよ。桜利君が生きていることでこんな仮説ができる『追い詰められた少年は自分の持っている情報を全て吐いた結果生き残った』って筋書きができるじゃない」
「あー。今の説明はかなり無理のあるところもありますけど大筋としては悪くないですね」
「今回の件はどの陣営も情報が完璧じゃないから大筋さえあっていれば通せると思うから大丈夫」
風也の説明を聞いてネアは風也の考えている全体像が見える。
「もしかして、俺ってどう転んでも詰んでる?」
桜利は内容こそわからなかったが、とりあえず自分がまずいことだけは理解した。
「普通でしたらほぼ詰んでますね。一つの望みにかけて国に不利益なことを絶対に言わないことを条件に保護してもらうこともできなくはないでしょうけど…」
「まぁそれでもどこかしらで消されているだろうけどもね」
桜利は再び机に突っ伏した。
「大丈夫ですよ桜利さんそんなに悲観しないでください。何のために先生がいらっしゃると思っているんですか」
桜利は顔を上げて風也のほうを見た。
「桜利君のこと鍛えてあげるし守ってあげられるよ。任せないさ」
自信満々の風也に桜利はある質問をした。
「先生って何者なの?」
その発言にネアと風也が顔を見合わせた。ネアはまだ何も言ってなかったのか?と視線で送った。
「『天皇家直系の護衛』だよ。元々ね。理由があって今はその任を解かれているけどね」
「偉い人ってこと?」
風也は首を横に振った。
「別に職に就いていた時から偉い人ではなかったよ。ただの一般人だよ」
「桜利さんこの方はこの国で一番の実力者です。誇張なしで紛れもなく世界最高クラスの戦闘力を持っています」
ネアが横から補足を加えた。
「どうする?」
「…先生前に言ってくれたよね『過去の自分を抱きしめて』って」
考えながら口を開いた桜利はゆっくりと自分の伝えたい内容を話し始める。
「俺は今、あの日島で一緒に戦った人たちが正しかったって言いたい。俺も含めてあの場で命を張って戦った人たちに心から感謝してる。だから強くなりたい。過去の自分を肯定できるように」
風也は桜利をただ見つめていた。
「……うん。もちろんさ」
風也の差し出した手を、桜利は自信を持って握った。
赤宮桜利の青春 あんこし @ankoshi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます