第6話 試される大地
ハンカチをとったことを桜利がネアに伝えたところ豪華な夕飯が出てきた。桜利はたくさん褒められ、髪の毛がくしゃくしゃになるくらい撫でられた。
桜利の受け身の特訓の次の特訓内容は『射撃』だった。
「いや、この特訓必要ですか?」
「実はね、記録が残っているときの島での試験内容には射撃があるんだよ。詳しい内容はわからなし、もしかしたら必要ないかもだけどやっといて損はないかなと思って」
風也の説明に納得した桜利が初めに行ったのはバーチャル空間での射撃だった。それでも身に着けるものは実際のものと同じ重さのため初日は終わった後に倒れこんでしまいネアに迎えに来てもらった。
それから1か月ほどたったある日、今日は9時集合。
「おはよう」
「おはようございます。今日もマラソンからですか?」
「いや、ちょっと別のことをしに行くから少しここで待ってて」
そういうと風也は桜利を事務所の前においてどこかに行ってしまう。その後、桜利の前に一台の車が止まった。
「乗って」
中から顔を出した風也は促し、桜利は指示されるままに車に乗り込む。
「これからどこ向かうんですか?」
「君の家」
「え?何しに?」
「いろいろな荷物を受け取りに」
そんなことを言いながら車を走らせ自宅前まで来た。
「ネアいる?先生がなんか用事で~」
「あ、もう準備できてます」
桜利が呼び出そうとした途中で出てきたネアの足元には大きめのカバンがいくつか置いてあった。風也も家の前に車を停めて降りてきた。
「お久しぶりです。コチラがお願いされてたものです」
「わざわざありがとう、ではしばらく桜利君を借りるね」
車に乗り込んだ桜利は窓越しからネアのいってらっしゃいの声をもらい風也は車を走らせた。
「どこに向かっているんですか?」
「北海道」
まったくの予想外の言葉が飛んできた桜利は後ろの座席で驚いた。
「え、何しに?」
「今の季節の北海道が最後の特訓にもってこいだからかな」
それだけ言うと車を走らせ空港に向かった。
どのくらいの時間がたったかは桜利にはわからなかった。目の前には白銀の世界が広がっており、現在桜利はこれから生活をする予定の旅館の部屋で待機していた。
「それじゃあ行こうか」
部屋に呼びに来た風也に連れられて極寒の冬の北海道の外に出る。幸い、今日は晴れており風もほとんどなかった。
「この方が協力してくださる旅館のオーナーのクーラさんです」
「よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
紹介されたのは綺麗な金色の髪に青色の瞳を持った長身の女性だった。
「じゃあお願いね」
風也に言われるとクーラは地面の雪に両手をつっこむ。クーラが何か唱えると地面の雪全体が変化し始め、あっという間に雪の中にフィールドが完成する。
「なんですかこれ?」
「最後の特訓のために作ってもらったこのフィールドの中には10体の雪の人形が設置されてるからこれで倒せたら君の勝ち。人形の撃ってくる雪玉に当たったら君の負け。もう一度、最初からやり直し」
そういいながら、桜利に一丁の拳銃とマガジンを風也が渡す。
「これ実弾ですか?」
「まだ、実弾じゃないけど多分この特訓の後半からは実弾にすると思う」
「いいんですか実弾で?」
「ここら辺の土地は全部クーラさんのものだしそもそもこんな山奥に誰も来ないから大丈夫。どこから実弾の銃を持ってきたかは聞かないでね」
桜利が連れてこられたのはかなり山の奥のほうで、ここに来るまでに桜利は自分たち以外の人は見なかった。
「それじゃあスタート」
桜利がフィールドに入ると雪の壁があり、壁から少し顔を出すと雪玉が飛んでくる。いったん壁の裏に隠れ桜利は渡されたマガジンをはめ込む。安全装置を解除して壁から体を出して撃った。桜利の弾は頭をとらえ、雪の人形は消える。
「だんだんと難易度が上がっていくから頑張ってね」
装着したイヤホンから風屋の声が聞こえた。これが最後という言葉に緊張している様子を、風也はモニター越しの桜利から感じた。しかし、風也の予想を裏切り桜利はそのまま調子よくスラスラと進み、10体を倒しきってしまった。
「もう終りですか?」
「用意してもらったのは全部終わっちゃったね」
初めて聞くような驚きの声が風也から聞こえてきた。
「先生は俺がどのくらいかかると思ってたんですか?」
「1〜2週間くらいかかるかなと思ってた。どうしよう」
「よろしければ、私がお手伝いしましょうか?」
悩んでいる風也に声をかけたのはずっと横で見ていたクーラだった。
「いいの?」
「本来、あまり良くないのですが、力を貸してほしいと『お願い』されていますから」
「じゃあ、明日から桜利君の特訓相手になってもらおうかな」
「わかりました」
「よろしくお願いします」
「じゃあ、今日はこの辺で終わりかな。桜利君は先に戻ってお風呂に入りなさい。クーラさんは悪いんだけど明日以降の内容の話し合いをしたいんだけどいいかな」
「わかりました」
桜利は旅館に戻り、貸し切り状態の温泉を堪能した。
そして翌日。昨日と同じ場所に桜利は来たが、昨日のフィールドは消えていた。
「では、失礼します。『
昨日とは別に桜利にも聞こえるくらいはっきりした声で唱えると、クーラを中心に地面の雪が変化していき、また別のフィールドができる。
「桜利君への特訓はこれが最後になりそうかな。今からクーラさんと戦ってもらいます。このマガジンに入ってる弾はあたっても問題のない弾だからそこは気にしないでね」
「実弾でもかまいませんよ」
その強気ともいえる発言に風也は何も言わない。
「この戦いが実質、これから君が長く戦う『能力者』との第一戦目になる。今まで教えたことを全部出し切ってみな」
「わかりました」
風也がフィールドから出ると桜利の前のクーラが話しかけてくる。
「お手合わせよろしくお願いします」
「お願いします」
笑顔で挨拶するクーラに返す桜利はこの時はまだ知らなかった、笑顔とは真逆の特訓に…
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