第19話 舞台を彩る銀ノ天

部屋に残った桜利は柿沼から何を言われるのかドキドキしながら座っていたが、柿沼の口はなかなか開かず先程の会議の途中に静かに消えていた赤坂が戻ってきた。


「皆さんはどちらに?」


「ここで防衛するための大まかな指針は決めたから準備に取り掛かってもらっている」


「そうですか...なるほど」


一瞬、桜利に視線を向けた赤坂は柿沼に視線を戻す。


「そっちはどうだった」


「本部に連絡をして共有をしてもらいました。私が連絡した段階ではまだ、E地点には何も来ていないとのことでした」


柿沼は時間を確認する。時刻は16時02分。柿沼が想定した最悪にはならなかった。


「とりあえず、最悪は回避したかな」


柿沼は話し合った内容を赤坂に伝える。


「んで、どうするかな」


「何をですか?」


「いや、君のことなんだけど」


柿沼は桜利を指さす。桜利としては柿沼が言っていることの意味がわからなかった。


「本当ならここはこれから危なくなるし逃がそうかなと思ったんだけど、さっきのあの流れ的にどうしようかなと思って」


柿沼は桜利は早めに逃がす事を考えていたが、雰囲気的な話を考えると残すべきだと思った。


「どうしたい?」


「残りたいです。ただ、気になることがあるんだけど赤坂さん、俺以外の受験生ってやっぱり来ていないんですか?」


桜利がずっと気になっていたこと。桜利自身は途中で正規ルートから外れてここに来たが、ほかの特に最初に出たオレンジの腕章をつけた生徒はここまで来ていないのかと思った。


「実は、試験を停止するまで一番先頭を走っていた受験生はC地点を通過できていませんでした。なので現在C地点にはほぼすべての受験生が待機しています。ですから、ここで止めるという作戦は最もいい作戦だと思います」


それを聞いて、桜利はまた疑問ができる。


「C地点の課題って何だったんですか?」


「『反復実行』という名前がつけられているものです。受験生は能力の使用と休憩を繰り返しながら数値のテストを行うものです。申し訳ないのですが、正確には内容を口外してはいけませんので」


「ふーん、なるほどね」


柿沼は赤坂の一言で全てを理解した。


「1つ質問をしていいか?赤坂さん。あなたはこの襲撃まがいのことをどう思う?試験官という関係者の視点としてどう思う」


「おかしなことだと思いますね。どこの国なのか、個人なのか、何かしらの集団なのか?何が狙いなのか...」


「まぁそうだよな」


柿沼はそれ以上は聞かなかった。今はそれよりも優先すべきことがあると判断した。


「すまなかった。変な質問をして、今は目の前のことに集中すべきだな」


柿沼が会話を終わらせると3人は外に出る。外ではバリケードの設置や人数配置の話し合いなどが行われている。桜利は手伝えることはないかバリケード設置をしている人に話しかけ、一緒に設置の手伝いをした。


「おい、ボウズ」


「はい」


「お前。実弾の経験ないだろ」


「もちろん、ありませんけど」


「ここで戦うならこいつを使え」


桜利はバリケード設置をしていたおっさんから銃を渡される。


「こいつは、俺の知り合いが作ったゴム弾を使用したハンドガンだ。当たるとめちゃくちゃ痛いが、よほど当たりどころが悪くない限り死ぬことはない」


「いいんですか。こんなものもらって」


「おう。ガキの心を守るのは大人の仕事だからな」


桜利がマガジンを受け取ろうとすると、マガジンの上に天から白い贈り物が送られてくる。


「え?」


「おいおい、嘘だろ。雪だ」


雪が降り始め、桜利を含めその場にいた全員がざわつく。確かに時期的なことを考えると降ってもおかしくはない。桜利たちは気にせずバリケードの用意を進めた。お願いされたところすべての準備を終えようとしたとき、遠くに人影が見える。


「おっさん。誰かいる」


桜利は近くで一緒に準備していたおっさんを呼んだ。おっさんは双眼鏡を取り出す。


「ありゃ、敵じゃない。味方だ。関係者の服を着ている」


桜利はそれを聞くと、誰よりも先にバリケードを越えて歩いている男のもとに近づく。男は額から血を流し、全身ボロボロになっていた。桜利は男に肩をかしバリケードの近くまで連れて行った。


「おい誰か、手を貸してくれ」


桜利の近くにいたおっさんが叫ぶとぞろぞろと人が集まってきた。


「誰か手当をしてあげてください」


「その様子で悪いんだが何があったかは教えてくれないか」


負傷者の手当てをしながら、柿沼は情報を聞こうとする。負傷した男は会話をするために、呼吸を整えるのにかなりの時間を要した。


「海岸はダメだった。E地点は崩壊だ」


荒い呼吸で男はしゃべり始める。


「敵の数はわかるか?どんな特徴があったとか」


「数十人はいた。装備はわからない。樋口さんたちの部隊は壊滅状態になった」


「わかった。ありがとう」


柿沼がお礼を言うとゆっくりと目を閉じた。柿沼が脈をとると、まだ脈はある。


「悪いけど、この人は建物の中で寝かせておこう」


負傷した男は運ばれていった。


「お前ら、もうすぐ来るぞ。予定通りの配置をとれ」


黒田の指揮のもと、全員が迎え撃つための配置をとり始める。


「柿沼さん。悪いけど、俺どこに行けばいい?」


桜利は結局どこにいればいいかわからなくなった。バリケードの近くにいようとしたら、前衛の邪魔になるといわれてしまった。


「うーん、俺の横に居てくれたらいいかな。『伝達係』として動いてほしいかな」


「わかりました」


桜利は柿沼とともに少し離れた場所で見守るような形となった。


「なんかリタイアするとかの話じゃなくなっちゃったね」


「どうなると思いますか?」


「防がないと、みんな死んじゃうからどうにかしてまずここで、勝つしかないかな。勝つ確率は3割位はあるかな」



3割という言葉に桜利は厳しさを感じた。しかし、ここで桜利と柿沼の認識に差ができる。



柿沼は条件がそろえば、確実に勝てると確信していた。




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