第18話 この幕の主演
「俺がこのまま仕切るけど異論がある人とかいる?」
柿沼の問いかけに対しては、誰も手を挙げなかった。
「まず、第一にどうして廊下の男たちがいた理由なんだけど、あくまで推測だが彼らは『マッピング』をしていたんじゃないかと考えてる」
「その根拠は?」
「彼らの持っていたスマホからどこかに対して定期的にメールを送っていた。その内容は、この島の地図とどこに何の施設があるかを細かく送っていた。この事から俺たちは、地理的な面で不利を背負うことがあると考えるべきだ」
「ちょっといいか。確かに俺たちも地理的に把握していない部分があるが、いくら何でもこの広い島全体は調べきれないんじゃないか?」
柿沼の話に対して待ったをかけた人物の疑問はその場にいる他の人たちも思っていた。特に森林などの深いところに関しては柿沼自身も把握できていない。
「それに関していえば逆で、むしろ調べる機会が多すぎる。ここにいる人間はわかっていると思うが俺たちは『立ち入り禁止区域』には入ることは許されていない。だが、俺は立ち入り禁止区域であの男を見つけた。つまり、俺たちが見れない間に偵察する奴らは広い範囲を調べている可能性が高いってことだ。俺が禁止区域に入ったことはこの際、」
柿沼の意見に対して、質問者は納得がいった。
「じゃあ、どうする?」
「いったんはここで、進行してくる奴らを抑える。俺の見立てだともう上陸は始まっているだろうから今のうちにここで迎え撃てるように準備をしたい」
「そのことについて一つ聞きたいのだが、樋口さんが部隊を率いて海岸に向かっているはずだ。俺は、軍関係者だがあの人は地上戦ではかなりの実力がある。そうそう簡単に突破されるとは思わない」
これまで黙っていた、試験官の制服を着た男が話す。
「樋口という男がどれだけ強くても、正直止められるとは思っていない。理由としては多分上陸の際には海側と元から偵察として中にいる奴らから、挟み撃ちにされると考えている。無線で作戦の決行時間を先に侵入していた奴らに伝えたということは、彼らが何らかの形で干渉してくる可能性が高い」
「なるほど。では、なぜE地点に援軍として向かわない?」
男は質問を重ねる。
「こっちが情報戦で負けているからかな。言い方は悪くなるがより多くの命が救えるように慎重な行動が大切だと思っている」
「それは、仲間を見殺しにするということかな?」
試験官の服を着た男は柿沼に対して、嫌な言い回しをする。
「そうなる」
柿沼は迷いなく即答した。
「ふざけんな。さっきから聞いていれば、推測だのなんだので語りやがって」
「おいおい、若いのいったん落ち着け」
「黙れ」
一番後ろに座っていた試験官の男が柿沼の答えに対して、声を荒げ前にいる柿沼のもとに向かった。近くにいたおっさんがなだめるが聞き入れようとしない。
「大体なぁ、俺はここにいる連中をほとんど信用してねぇ。どうせここにいるほとんどなんて、軍落ちか何もできねぇから傭兵なんて職業やってるような『社会不適合者』みたいな奴らだろ。どうして、そんな奴と俺が『手を取り合って助け合いましょうね』なんてことしなきゃいけないんだよ」
「熱くなるのは結構だが、そこまで言うのであれば、あなたが指揮をとってくれてもかまわない」
「黙れ、陸軍の強さも知らない素人風情が」
男は柿沼に吐き出すように話し、部屋から出ていく。
「どうする」
「悪いが、これから戦うのに背中から撃たれる心配まで考慮する気はない」
柿沼は出ていった男に関しては無視する方針を示す。
「確認だが、この作戦に関しては自由参加だ。参加したくない人はここで出て行ってもらって構わない」
柿沼は改めて確認をとるが、誰一人席を立つ気配がない。
「いいんだな」
「ここで一番実力がない奴が逃げ出さないのに、大人が逃げられんのかって話だ」
そういいながら、おっさんが桜利を見る。
「あ、俺ね。だってここで止めなきゃまずいでしょ。どこに行っても危険なら、ぐずぐずするのはね…」
「ほらよ、この肝の座り方だ。こりゃあ大物だぜ」
「間違いねぇな」
おっさんのかけ声に周りが呼応する。
「それじゃあ作戦なんだが、ここには試験で使うバリケードが存在するらしい。それを起点として陣形を組んでいく。すまないがこの中で戦術に長けている人はいるか?」
柿沼の問いかけに対して何人かが手を挙げる。
「すまないが私に任せてもらえないか」
そこで、手を挙げたのは先程、柿沼に質問をした試験官の男だった。
「先程の同僚の非礼を詫びたい。それと同時に責任をとらせてほしい。一応、何度か実践の経験はある」
男の申し訳なさそうな表情が教室の中の人間には映った。
「じゃあ頼む。他にも手を挙げてくれた人は手伝ってやってくれ」
立候補した男たちは早速、準備のため部屋を出ていく。
「ほかの人に関しては現地での配置確認にしたいんだがいいか?」
「では、俺が指揮をしてもいいか?」
スキンヘッドに黒のサングラスをかけた男が立ち上がる。
「俺は黒田という。今回の傭兵部隊『ガラクタ』の代表者だ。これでも経験はかなり積んでいる」
桜利はむしろその見た目で積んでなかったらおかしいだろとツッコミたくなった。
「わかった。じゃあ、あとは黒田の指揮に従ってくれ」
「よし、野郎ども。仕事の時間だ。行くぞ」
黒田の号令でぞろぞろと教室を出ていく。
「君は居残りね」
桜利もガラクタの人々と一緒に外に出ようとしたが柿沼に止められた。
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