第17話 今宵踊る演者の皆様


不気味な警報が島中に鳴り渡る。


「これなんですか」


「非常事態警報だね。これに関しては俺が説明を受けたから大丈夫だよ。今鳴っているのは、自然災害とか本当に予期しない事件が起きた時に鳴るやつだね」


「この非常事態ってもしかして…」


「まぁ、さっきの人たちが絡んでいるだろうね」


「上陸作戦ってやつですか」


「それかもね。でも、まだ何とかなるかも」


「というと?」


「さっきの襲撃時間をもとにこっちがうまく準備できればどうにでもなりそうだと思ってる」


柿沼は先程、偶然手に入れた襲撃決行の時間を知っているという『情報』がこの緊急事態を突破するカギだと桜利に伝える。タイミングよく柿沼のスマホにメールが届いた。


「どうやら、急いだほうがいいらしい。走ろうか」


桜利と柿沼は走ってD地点に向かう。走りながら柿沼は桜利に送られてきたメールを見せた。内容としては、「試験に関しては一時中断し、試験官はチェックポイントに至急集まるように」とのことだった。

その後、桜利が持っていた端末には「試験の一時中断」のみが書かれたメールが来た。





「ここがD地点ですか」


「とりあえず建物の中に入ろうか」


「試験官はIDカードを提示してください。受験生のほうは受験票を提示してください」


桜利と柿沼は担当者に別々の場所を案内される。受験生と試験官で部屋が違うらしく桜利が部屋につくとそこには誰もいなかった。警報が鳴ってすぐに来たから、後から誰かしらくるだろうと桜利は待っていたが一向にくる気配がない。


「あの、俺以外の受験生ってまだ来ていない感じですか」


我慢できなくなった桜利は、受験票を見せた試験官の下に向かった。


「そうですね。まだ、君以外の受験生は誰も来ていませんね。君も心細いだろうし誰か来るといいんだけど」


桜利はそこまで話して自分が襲われたことを思い出し、もし来た受験生が自分の命を狙うものならむしろ来ないでほしいとも思ってしまった。


「あの、誰か来るまで試験官の人たちの集まっている部屋にってもいいですか」


「わかりました。試験官が集まっている部屋で待っていてください」


桜利は監督官が集まっている部屋に向かう。中に入ると、柿沼の姿は見えなかった。制服を着ている試験官ではなく、どちらかというと傭兵の姿をしたいかついおっさん達と先程、受験票を見せた試験官と同じ服を着た人たちが教室にいた。


「おい、ガキ何でここにいるんだ?部屋が違うぞ」


「いや、俺以外の受験生がいなくて」


「それよりなんでコイツそんな防弾チョッキなんか着ているんだ」


「それ関してはここまでの道のりでいろいろありまして…」


「なんかどこかで…あ!こいつ能力のないガキだ」


「それに関してもまた、いろいろありまして…」


傭兵の姿のおっさんたちは何か珍しいものを見るかのように、久々に会った自分の息子に質問攻めするかのように桜利に食いついた。


「おい、少しは静かにできないのか」


後ろの方に座っていた若い男がきつい声を上げる。桜利に群がる集団はその声によって解散させられた。


「申し訳ありません。遅くなりました」


先程入り口にいた試験官が部屋に入ってくる。


「私がここのD地点の監督官の責任者。赤坂といいます」


赤坂と名乗った男は、プロジェクターをつけて島の地図を表示した。


「端的に申し上げると、現在この島の東側の海に謎の潜水艦が確認されました。そのため、現在海軍に応援要請を出し、近海の軍艦をこの島付近に回してもらっているところです」


赤坂はプロジェクターとレーザーポインターを用いて状況を説明してくれる。


「で?俺たちは何をしろってんだい?」


おっさんの中の1人が赤坂に質問する。


「現在、安全確認のために一時的に試験を中断しています。また、樋口代表率いる部隊が東の海岸に安全の確認を行っていますのでそれが終わるまでは待機とのことです」


「なるほどな。出番は特にないわけだ」


桜利はここまでの話を聞いて先程、柿沼の言っていた言葉の意味が分かった。確かここまでの情報だと桜利と柿沼だけが知っている襲撃のことに対しては何も話されていない。このままだと手遅れになるという意味も桜利は理解した。


「少しいいですか?」


「どうかされましたか?」


「実は…」


ここで、桜利は先程の完全装備をした男がいたことについて話した。ただ、柿沼が倒したことは伝えず逃げてきたことにした。防弾チョッキに関しては、少し無理があるが元から着ていたことにした。


「なるほど。それに関しては慎重に進めるべきだな。具体的にどこで見たとかわかるか?」


「敵がアサルトライフルを持っている時点で、かなり危ないってのはわかるからな。警戒すべきだ」


桜利の話の途中から、話し合いが白熱し始める。


「少しいいか?」


部屋の外から柿沼が議論に割り込む。


「そこの少年が話した事にいくつか追加で話しておきたいこともあるんだがいいか?」


教壇に立った柿沼は赤坂からレーザーポインターを借りる。


「まず、さっきの目撃地にもう一回行ってきたが、やはりまだ完全装備の男がいて処理した」


「両方とも?」


柿沼が頷く。しかし、桜利はこれはさっきの話で隠していたところの埋め合わせになっていることを理解した。これで、桜利が知っている事実と説明した事実が合致する。


「んで、もう一つ手にはいいた情報があってどうやら奴らは、襲撃を16時に行うらしいんだけど、今何時?」


「15時55分」


「結構ギリギリだな。早めに対策を組んでおくべきだと思うんだ。できるなら、ここで抑え込みたいしね」


「ちょっと待ってください」


ここまで黙っていた赤坂が話を遮る。


「あなた方の話は理解できましたが信憑性がなさすぎます。こちらで海軍に応援要請を出していますし本部からの情報を待つべきだと思います」


赤坂はいったん落ち着けと伝えてくる。


「すまない。そういわれると思ってそこの廊下に処理した奴らを連れてきた。確認してくれ」


赤坂が確認しようと廊下に出ると男が二人寝ていた。顔を確認したりと赤坂はいろいろと調べ始める。


「確かにこの人たちは試験官でも関係者でもないですね」


「申し訳ないが、海軍の応援がどんなものかもわからないし、こんな奴らの侵入ができている時点で島の上陸を防げるとは思えない。ここで止めないといろいろとまずいでしょ」


「わかりました。こちらで、本部にも連絡をとり対策を仰ぎます。先に話し合いを進めてもらって構いません」


それだけ伝えると、赤坂は部屋を出ていく。


「それじゃあ、対策を考えていこうか」

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