第12話 ある日~森の中~事件に~出会った


田沼の指示に従いながら、桜利は正規の道からずれた道を進み、かなり奥深くの立ち入り禁止区域の中に足を踏み入れていた。


「待って、田沼君だっけ?本当にこの道で大丈夫なの?」


「大丈夫って何がだよ」


「地図で確認してるけど、今いるここは立ち入り禁止区域だから本当にこの道であっているのかなと」


桜利は内心ついてきたことを少し後悔していた。船の中での注意も減点の対象として記録されているとしたらここにいることがばれた時、どれほどの減点を食らうかわからないし最悪の場合の失格も桜利の頭をよぎった。


「ちょっと考えてみろよ。オレンジの俺に来て、白のお前に来てないってことはどう考えても、これはオレンジの奴らにしか来てないメールってことだろ。きっとほかのオレンジ色の腕章の奴らもこのルートを使ったに決まってるって」


「まぁ、俺のところにはそんなメールは来ていないけど」


「どう考えても、普通の道からずれた『裏ルート』ってやつだろ。なら、多少立ち入り禁止区域を通っていてもおかしくはないだろ。それともここで引き返すか?」


後ろを振り返った桜利はその深い森を目にして引き返せないことを悟った。そして田沼の言葉に、桜利は納得せざるを得なかった。確かに田沼の言っていることは正しいかったが『なぜあの時、田沼は自分を誘ったのか?』この疑問が歩いている桜利にはずっと付きまとっていた。



「1%でも疑問に思ったことは戦場では疑っていいよ。疑問は大切な感覚だからね」



桜利は風也との特訓の中で何度もこの言葉を言われてきた。桜利は田沼にあってからずっとこの言葉を意識して行動していた。



「ただ、疑いすぎは注意ね。信頼というのも大切なものだからね」



旅館でクーラさんを疑いすぎた時には風也から少し注意をもらった。その経験からその塩梅の見極めが桜利には難しかった。


「わかった。疑ったりしてすまなかった。先を急ごう」


桜利は謝罪して田沼とともに再び歩み始めた。


「悪いんだけど先に行ってくれないか。ちょっと腹の調子が…」


「大丈夫か?」


「あぁ、後で必ず追いつく」


「わかった。先に行かせてもらう」


かなり進んだ先で田沼の調子が悪くなったことから田沼と離れて桜利はさらに歩き続けると、森を抜けて少し広い場所に出る。その中央に人が立っていた。


「こんなところで何してるのかな?」


問われた桜利は回答に困った。


「もしかして、何か悪いことしてるんじゃない?」


「そんなことを言っているあなたは何をしているんですか」


「うーん、暇だったんだけどちょうどいい『ウサギ』がいたから狩りでもしようかと思って」


「は?」


桜利はまったく何を言っているのかわからず、心の底からの疑問が声に出た。


「お前みたいな『白色』に教えてやるよ。この試験になんで腕章の色があるかわかるか?『オレンジ』は能力と血統が優秀、『アオ』は特待、『アカ』は一般。ここまでは普通だ」


「で、白は?」


「『不適』お前、能力ないんだろ。何のために生きてるの?」


桜利はその言葉に一瞬、刺される。


「そんなことをなんであんたが知っているんだよ」


「俺の名前は馬場 荒士。何で知ってるかなんて、そりゃあ、お前、こんなの最初から『出来レース』に決まってんだろ。俺のところには、全ての情報が運営側から流れてきているんだよ。赤宮桜利君」


桜利は衝撃のあまりに言葉を失った。こんなことが現実に起きるのかと疑い信じられなかった。


「これはじゃあ、急いで行っても意味ない感じなの?」


「そもそも、ここから抜け出せると思ってるのか?お前はゴールたどり着く前に終わりだよ」


馬場のその言葉とともに森の中からぞろぞろと、受験生が出てくる。腕章の色はほとんどが『オレンジ』と『アオ』で『アカ』がちらほらといた。その中には途中で別れた田沼の姿も見える。


「あ、田沼とかいう人」


「悪いな」


にやにやしながらまるで思ってもいない言葉を田沼は桜利に伝えた。


「社会はな、赤宮桜利。『能力主義』なんだ。能力の強さこそが絶対。そんな中でお前みたいな能力のない奴なんて家畜同等なんだよ」


「…」


覚悟はしていたが他人から言われてると厳しい言葉が桜利の心に突き刺さる。


「だから、ここで楽にしてやろうと思ったわけだよ。お前なんて生きていても何の意味もないんだからよ。ここにいる奴らはお前を楽にするゲームの参加者だ。もしお前を楽にできた奴は見事この試験の『確定』を俺が与えるってわけ」


「一つ聞きたいのは、なんでお前はその『確定』のチケットを配れる権限を持っているんだ?」


「俺の家系は代々、議員として国に貢献してるからな。『確定』の一つや二つ配ることだってできるんだよ」


桜利は今までの荒士の言動をゆっくりと噛み砕いていく。荒士の行動に対して、桜利自身がこの後どのように対応していく必要があるのか、慎重に考える。


「怖くなったか?言葉も出ないか?今からお前がどんな表情をするのか楽しみだ」


逃げることは可能だろうか?周りは囲まれているし、そもそもこの辺の地理に対しての理解が浅いから不可能だろう。


では、戦ってみるか?いや、囲まれてるし、三十人近くいるからどうやっても無理だろう。


潔く投降してみるか?いや、どんな目に合うかはわからないがいい未来は迎えられないことが荒士の発言からわかるだろう。





桜利は思いついた選択肢の中で一番後悔しない選択肢を選ぶことにした。





「そろそろ、いいかな。それじゃあ行こうか。首を取った奴には『合格確定チケット』をかけたウサギ狩りのスタートだ」



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