第24話 舞台を丸ごとひっくり返す

桜利の背中を見届けた柿沼は草むらから出る前に、邪魔なジャケットを脱ぎワイシャツになる。草むらの外の様子を確認すると、ほとんどの戦闘は落ち着いている。柿沼は桜利から借りたままのナイフを手に取ると草むらから出ていき、近くの男が反応する前に喉元を刺した。



返り血を浴びないようにゆっくりとナイフを抜く。



「手を挙げて、そこに跪け」



1人を刺すと、目の前から男が2人ライフルを柿沼に向けながら警告する。


「却下」


警告を無視した柿沼は右側の男に詰め寄ってナイフを刺し、左の男には裏拳を当てる。ひるんだ男の腹に拳を打ち込む。倒れこむ男からライフルを奪うと頭に弾丸を撃ち込んだ。


「問題ないかな」


柿沼のボヤキを聞いた兵士たちは、激高し詰め寄ってくるが、柿沼は倒れた男からナイフを奪い、詰めてくる敵の命を奪っていく。柿沼は残った1人の太ももにナイフを刺した。


「おい、お前の上司はどこだ」


「...」


柿沼は男の髪を掴むと、顔面に膝蹴りを入れる。


「おい、仲間はどこだ」


恐怖した敵の眼を見据えて柿沼は問いかける。敵から見る柿沼の眼は驚くほど深く輝いており、男は本当に一瞬、右の森を見た。


「言うわけないだろ」


「そうか。じゃあな」


柿沼が背負っていたアタッシュケースで顔面をぶん殴ると、男は気を失ってしまった。


「右か」


柿沼は一瞬の視線のブレを見逃さなかった。背負っていたアタッシュケースを手に持ち森の中を進んでいき、陣の前にたどり着いた。


「なんだ貴様」


「お前らこそなんだ」


柿沼は横から突きつけられたライフルを無視して敵陣の中を歩く。


「この中の代表者はどいつだ」


「私だが」


柿沼の問いかけに長身の男が反応する。


「いや、違うだろ」


「なぜそう思う」


「弱すぎる。お前が代表者だったらむしろ、こんなに警戒した俺がバカみたいじゃない」


柿沼は真面目な顔をして答える。柿沼のことを周りの兵士はその回答に「バカだろ」と思った。敵陣のど真ん中で、そんな煽り行為するなんてよっぽどのバカでしかない。


「貴様死にたいのか」


「死にたいなら自分で死んでるよ。お前らじゃ殺せないし」


「貴様ぁ」


激昂しながら目の前の男は柿沼に一発撃ち込むが、アタッシュケースに防がれてしまう。


「外部ヨリ規定値以上ノ衝撃ヲ感知及ビ生体認証ノ一致ヲ確認 ロックヲ解除シマス」


突如、響き渡る電子音とともに柿沼の持っていたアタッシュケースが開く。


「久々だな」


「ごちゃごちゃとぬかしやがって」


「うるさい」


柿沼はアタッシュケースの中にあった『刀』を取り出し、振り上げる。先程まで口の回っていた男は自分の右腕が地面に落ちていることに気が付くのに、数秒遅れた。


「うわぁぁぁぁぁぁ」


気づいた男はその場で暴れまわる。


「殺せ、殺せ、こいつを生きて返すな」


「慌てすぎでしょ」


目の前の男を斬った柿沼は、突撃してくる敵を斬り倒す。柿沼は被弾を避けるため、敵兵を盾にするようにして動き回るため、ライフルを使うと『味方に当たる』と考えさせて抑制させている。


柿沼の動きを止められないと感じ始めた兵士たちは、だんだんと後ずさりし始める。


「いったんこの場にいる奴全員斬って行くから安心しろ。誰も残しはしない」


人斬り刀が自我をもって、静寂な森の中を暴れまわり恐怖の悲鳴を生み出す。数分後、その場にいた全員の息が止まる…ただ、1人の男柿沼を除いて。


「ひとまず、終わったかな」


柿沼は代表者だと名乗った男の持ち物を探ったところ、前にも見かけたトランシーバーを持っていた。メモに書いてある番号を入力してみる。


「こちら、作戦本部。隊の番号と代表者の名前をどうぞ」


「いま、どこにいるの?」


「繰り返す、隊の番号と代表者の名前をどうぞ」


「すみません、よくわかりません。このトランシーバーを持っていた部隊は全滅させたから早く助けに来な」


それだけ言うと、柿沼はトランシーバーを壊した。半ば強引にしかし、確実にこちらに来るように仕向けた。


柿沼は気温の下がり方を考えるとあんまり時間をかけすぎるのは良くないと思い、サクッと終わらせて桜利と合流する。約束を果たすにはこの方法が最適だと感じた。屍の上に腰を下ろし、この後の計画をゆっくりと練る。









「なんなんだ…この惨状は」


現場に着いた兵士の口から漏れた一言はまるで夢を見ているような光景からだった。同じ服、同じ格好をした同僚の死体が山となって目の前に存在していた。


「ようやく来た」


その屍をまるで玉座かと勘違いした座り方をする男は敵が来るのをまっていたかのように答えた。


「で、この中にそっちのリーダー入るの?それともまたお留守番しているの?」


柿沼の問いかけに対して、後ろの方からゆっくりと大男が出てくる。


「俺がこの作戦の総指揮権を持っているものだが」


「早かったな」


柿沼はもう一回くらい、偵察を送ってくるかなと予想していたため、意外と早い登場に驚いた。


「まず、いくつか聞かせてもらおう。その腰を下ろしている山はお前が作ったのか?」


「そうだな」


柿沼の答えに関して、前に出た男以外は若干、表情が引いた。男は表情を変えずそのまま質問を続ける。


「俺は今、200人規模の人数でここに来た。降参する気はあるか」


「ないね」


柿沼は即答する。


「だろうな。貴様に敬意を持って全力で叩きのめす。総員、用意」



柿沼の周り全方位からライフルの銃先が見える。ライフルの引き金が引かれた瞬間、無数の弾丸が柿沼に向かって突っ込んできた。




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