第23話 流れる星に人は息を忘れさせられる

桜利の右耳に大きな音を捉え、目を開けると外が何やら騒がしい。


「おい、ボウズ起きろ」


「あれ?さっき話し合いに行ったんじゃないの?」


桜利が休む前に出ていったおっさん達が部屋に戻っており、全員が顔に焦燥を浮かび上がっている。


「襲撃だ。敵が夜襲を仕掛けてきた。起きろ、早く」


その話を聞いた桜利は慌てて起きて、廊下に出ようとするが、すでに混乱した受験生が一斉に外に出ようとして満員電車のようにぎゅうぎゅうになっている。


「正面の出口は無理だ」


「窓から出よう」


おっさんの1人が窓を開けて外に出る。


「クリアだ。来れるぞ」


桜利を含め部屋にいた人が外に出る。桜利は受験生が固まっている入り口からは少し離れた場所で外に出た。


「包囲されている範囲がわからない。どこか抜けられそうな場所はあるか」


外は暗く敵の姿は見えない。一瞬、桜利達のいるところから右側のほうが明るくなる。視線を向けると、外に出た受験生がスマホのライトをつけていた。


「バカ。死ぬぞ」


柿沼が叫ぶと同時に草むらの中から突如、横殴りの弾丸が降り注いだ。


「伏せろ」


柿沼が叫ぶと、桜利が身を伏せるより先に1人のおっさんが覆いかぶさった。弾幕の音と割れんばかりの悲鳴が夜闇に響き渡る。桜利は呼吸を忘れ必死に身を小さくする。やがて、弾幕が収まると、受験生が出てきた出口に向けて交戦が始まる。


「お、重い」


柿沼が桜利の上に覆いかぶさったおっさんを下からずらしてどける。


「おっさん、大丈夫か?」


「腹部にもらっちまった。俺はここまでみたいだな。気を付けて行けよボウズ」


最後までしゃべりきると瞼を閉じた。


「しっかりしろ。おい、おっさん」


桜利が肩を揺らすが、反応しない。


「おい、あんましぐずぐずしている暇はないぜ」


アサルトライフルを構えた試験官が近づいて来る。


「最初の爆発は、どうやら会議室に直撃したらしい。そのおかげで完全に指揮系統が壊れちまった。今は向こうで戦闘が起こっているみたいだが、こっちに向かってくるのも時間の問題かもな」


その話が終わるより先に数人の敵が草むらから出て、こちらに向かってきている。


「来たぞ。ここは俺に任せてさっさと行け」


アサルトライフルを撃ちながら、桜利達に指示を出す。


「逃げるよ」


柿沼に腕を引かれて桜利は連れていかれる。どこもかしこも戦闘が行われ、悲鳴が聞こえてくる。走る桜利達の横に何かが転がってくる。


「避けろ」


その声とともに転がってきた何かは爆発し、桜利は抱きかかえられながら草むらの中に放り投げられた。柿沼はここでは『戦闘』というよりも『蹂躙』という言葉のほうがふさわしいと感じた。


「声を出さないで」


柿沼が桜利の口をふさぎながら、小声で語りかける。


「ここからは君だけで逃げなさい」


桜利は首を横に振る。


「一緒についてはいけない」


桜利はさっきよりも強く首を横に振る。


「つらいのはわかる、嫌なのもわかる、でも、今は言うことを聞いてくれ」


そこまで、言うと柿沼は桜利の口元から手をどける。


「それは、俺が足手まといだからですか?」


「それもあるが、それ以上に条件がそろったんだ。ここからこの戦に勝ちにい行く」


桜利はそれを聞いて、耳を疑った。もはや、柿沼が何を考えているのか桜利にはまったくわからなかった。


「すまないが、信じてくれないか」


「…わかりました。でも、約束してください。絶対にもう一度会うと」


「もちろんだ、俺は約束は破らない」


柿沼が桜利の手を握ると、桜利は体を起こす。


「いいか、こっちに向かって進んでいけばB地点に行ける」


柿沼が指さす方向に向かって桜利は走り出す。桜利は、何も考えずに走る。何か考えたらこの足は止まってしまうと思った。振り返れば、二度と前に進めなくなると思った。ただ、まっすぐ走り続けた。桜利は、途中で正規の道を見つけるとその道に沿って進む事にした




さっきまでおとなしかった雪が桜利の感情に添うように強くなり始めた。











オレンジの腕章をつけた受験生がスタートしてすぐ、その男は一服できる場所を探しに、立ち入り禁止区域の中へと入っていった。

配布された地図を見ながら男は森の中を進んでいくと川を見つけた。地図によるとこの川は海につながっており、上流はC地点のチェックポイント付近を通っているそうだ。男は近くの木の根元に座ると、胸元からタバコとジッポーを取り出して一服する。


男はここまでの船旅などの疲れを感じながらぼんやりと川の流れを見つめていた。しばらく眺めていると川に浮かぶ人を見つる。男は特になにも考えずにただ、ぼーっと見ていたがニコチンが回ると「あれは、助けたほうがいいのでは?」と気づき、いそいで救助する。


男が見るにこの少年は幸い、命に別状はなさそうだが、所々青紫色のあざがある。そもそも、川から流れてきている時点で何かしらあったことは予測できた。体が冷えるといけないと思い、近くの枝を集めて火を起した。


男は少年の顔と火の揺らぎを見てとある会話を思い出す。


「何かあったとき頼むね」


「わかってます。俺も、要因ですから」


「そうでもないと思うけど」


「いえ、関係者として彼の人生をおかしくさせている人間として今回はお手伝いしますよ」


「何もないとは思うけど」


「何かしらあるから俺に声をかけたのでしょ」


「...悪いね」


「いい噂は聞きませんからね」


「頼んだよ紫仙先生」



は目の前の風也と握手を交わした。




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