第22話 心が動くのはいつだって魅せられた時

D地点での交戦が始まる前に建物から出ていった試験官の男の言った「社会不適合者」の表現は正しかった。D地点に集まった男たちは現代社会の枠組みに合わなかった。学歴がない、地位がない、そんな社会の余物たちが集まったのが『ガラクタ』という集団だった。



「実力主義といえど、結局そんな言葉は社会の中では幻でしかない」



ガラクタを名乗るものたちの合言葉のようなものだった。幸い、傭兵としての価値はあったため傭兵として働いてはいたがそれ以外に何もない者達だった。そんな男たちは赤宮桜利に惚れたといっても過言ではなかった。

男たちはいろんな人間にあってきては下に見られた。それに関しては慣れていた。いや、慣れてしまっていた。仕方のないことだと思っていた。



でも、あの少年は違った。



『能力がない』という、明らかに考えられないような不利を背負っているにもかかわらず一切なよなよせず、怖気づくこともなく戦い続ける『子供』に魅せられるものがあった。まるで、崖上に凛として咲く花のように男たちの眼に映った。生き残ってくれ…と男たちは願った。






桜利は怪我をした男と一通り話をして外に出た。


「ようやく出てきた」


柿沼が桜利を迎えた。


「元気そうでした」


桜利は簡潔に柿沼に様子だけを報告した。


「了解。君の荷物はその背負ってるものだけ?」


「はい」


「じゃあこの後の流れを説明するね。だいぶ暗くなってきたから、ここから夜戦になる。その前に今ここにいる人を分けて一方はC地点に移動する。残った人は防衛を続ける」


「わかりました。でも、残る人たちが危険じゃないですか?」


「敵も一度、夜戦の準備をしないといけないからしばらくは来れないから大丈夫。夜戦にはそれなりに準備がいるし、守る方が有利だからそこまで問題はないよ。防衛のリーダーを黒田さんがしてくれるから俺も君と一緒にC地点に行く」


柿沼は話し合った全員に「先に移動してくれ」と頼まれ、承諾した。桜利と柿沼は先に出る組と合流する。


「これで、全員ですかね」


「だな」


赤坂はメンバーを確認し全員がいることを確認する。ほとんどが試験官と数名のガラクタのメンバーが移動組として待機している。


「それでは、私たちはこれからC地点に移動します。私が先導しますのでついてきてください」


赤坂を先頭として移動組が雪が降る中を全力疾走する。桜利は幸い、北海道での特訓のおかげで雪道を走ることには慣れていた。D地点からC地点に戻る道はほとんど一本道でできており途中、もしかしたら伏兵がいるかもしれないので警戒しながら進んでいくものの特に何もなかった。


「ここで、一度待機してもらってもいいですか?私はC地点の担当者と話をつけてきます」


C地点に到着すると赤坂は先に建物に向かって行き、桜利達は離れた場所で一度待機する。


「特に何もなく来れましたね」


「そうだね」


「この様子なら他の人たちも安全にこれそうですね」


「...そうだね。早く来れるといいね」


柿沼は桜利に対して、淡々と答えていった。


「皆さん、とりあえず空き部屋入れるそうなのでそちらに移動しましょう」


戻ってきた赤坂が建物に案内する。


「君、もしあれだったら受験生と同じ所に行きますか?ここには一応受験生全員がそろっているから気分的に楽かも知れませんし」


赤坂は桜利に対して気を使ってくれたのかこのような意見を提案してくる。桜利としては嵐士の件もあり、今受験生には会いたくなかった。


「おいおい、そんな水臭いこと言うなよ。同じところを守った仲間だ、一緒にいようぜ」


ガラクタのおっさんが桜利の肩をたたきながら赤坂にそう語った。


「そうですね。俺も同じ所で大丈夫ですよ」


桜利はおっさんの意見に乗っかった。


「それもそうですね」


赤坂に案内されて桜利達は、いったん部屋の中で落ち着いた。赤坂が水と食料を持ってきたため、いったんは食事の時間となる。桜利はガラクタの人たちや試験官のこれまでの経験話を聞きながら、食事をした。


「食事中申し訳ないのですが、皆さん少しよろしいですか。今日の戦闘を踏まえたうえでの今後の動きを話し合いたいとのことで」


赤坂が桜利達のいる部屋に来る。


「俺も言ったほうがいいのかな」


「流石に行かなくていいかな。それよりもいったん君は休んだほうがいいかな」


桜利が聞くと柿沼に止められる。桜利以外の全員がいなくなり急に静かになってしまった。途端に寂しくなった桜利は、食事を終えると背負っていたナップサックの中身を確認し始める。当初、「絶対に使うことなどない」と風也から渡されていたものが役に立ったなと思った。ナップサックの中には使い切った消毒液とビタミン剤、ネアからもらったお守りが入っている。



桜利は帰ったら、ネアに今日の話をたくさんしようと思った。



ゴム弾のハンドガンとマガジンを確認し一息つくと、一気に体が重くなるのを感じる。時刻が20時になる数分前、疲れが波のように押してきた桜利はその場で目を閉じた。






時刻が20時を回ったところ、C地点に近づく彼らに気が付くものはいなかった。彼らは予想していたよりも作戦が進んでいないことに対して焦っていた。故に彼らはここを攻略するのに手段を選ぶ気はない。全力を以てして制圧しきる。さもなければ、背中から撃たれる。


地獄を提供するべく、販売員が押し寄せる。







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