第21話 誰かが死ぬたびに、一歩大人になっていく

右側の戦闘が落ち着くと同時に、正面の戦闘も落ち着き始めた。


「後退だ。後退しろ」


敵の指揮官と思われる男が声を張り、それと同時に敵は後退していく。桜利達は3度目の防衛に成功した。


「それで、被害状況は?」


柿沼は黒田や赤坂などの指揮を執っていた人を集め、各地の状況の整理を始める。


「まずは俺からいいか」


先に話し始めたのは黒田だった。


「正面の守備を行ったが、先程の戦闘でかなりの損害を受けた。特に前衛を張っていた三人がかなりの被害を受けた。加えて、スモークグレネードを利用した敵の攻撃に対して、何とか防げたはいいもののバリケードも一部壊された」


黒田の報告の後、他の場所の報告が始まるが状況はどこもよくはなかった。


「このままだとじりじりと削られてここを突破されかねない。何か手はないのか」


黒田が一通りの報告を受けた後、柿沼に尋ねる。


「今、赤坂さんがC地点に確認をとっているからそれ次第にはなってしまうんだけど..ここに今いる人間は何人くらい?」


「動けるものが40名ほど、怪我などを負っているものが20名ほどだな」


予定より怪我を負った人が多くなってしまったなと柿沼は思う。


「ここで時間を稼ぐ組とC地点に向かう組で隊を分けようかと思う」


「...そうなるよな」


柿沼の発言に対して、誰も明るい表情をしなかった。この組み分けは言ってしまえば、『戦って死ぬ』か『逃げる』かのどちらかということを全員が理解していた。


「あんまりいい話じゃないが、これに関しては全員で相談すべきだ」


「そうだな。俺はあの少年に別の仕事を与えるからその間に集めておいてくれ」


柿沼の指示に対して、他のものは同意してその場を離れた。


「おう、ボウズまだ逃げてなかったのか」 


「逃げないよ。お疲れ様」


桜利は戦闘が終わってから被害の状況をその目で見るようにと柿沼に言われ歩き回っていた。


「あ、いた」


「柿沼さん。話し合いの方は?」


「まだ、続きそうだね。建物の中に負傷していた人がいるじゃん。あの人に『どれくらい動けるか』とか聞いてきてもらってもいいかな?」


「わかりました」


桜利は素直に柿沼の言うことに従って建物の中の医務室に入っていった。


「体は大丈夫ですか?」


「うん、もうだいぶ楽になったよ。自分でも歩けるくらいにはなった。外はどんな様子なんだい?」


「今、3度目の交戦が終わったところです。今はこの後どうするかの話し合いが行われています」


「...そうか、よく持ちこたえているね」


「いろんな人が頑張っているからですかね」


桜利はそれだけ伝えると立ち去ろうとした。


「待った、もう少し話をしないかい?君のような受験生に命を救われたのも何かの縁だと思うんだよ」


「いいですよ」


桜利は快く快諾したが、ベットにいる男はうっすらとこの子はまだ戻すべきではないと感じていた。







「集まってもらって悪いな。赤坂さんから報告がある」


柿沼は集まった人たちの前に立つと赤坂に場所を譲った。


「はい、現在まだC地点に異常はないそうです」


「いいか」


「なんでしょう」


赤坂の報告に対して、男が手を挙げた。


「どうして、C地点に残りっぱなしなんだ。早めに脱出すべきだったろ。特に俺たちが時間を稼いでいたんだから」


「その意見に関してなんですが、どうやら海軍の援軍を要請してから派遣された船と連絡が取れなくなってしまったそうで」


「おいおい、マジかよ」


「そうです。私たちは現在制海権をとられてしまっている状態なので、この島から出ることができないのです」


赤坂の発言に質問した男以外も動揺した。


「籠城することになるのか。食料とか大丈夫なのか?」


「そこら辺に関しては問題はないそうです」


赤坂はここまで話すといったん下がり逆に、柿沼が前に出る。


「こっから大事な話なんだが。当初、ここに残る組とC地点に移動する組で分けようと思っていたんだが赤坂さんの報告の内容的に全員でC地点に移動しようと思うのだけれど、どう思う」


柿沼はもともとここで、時間を稼ぐ組と、その間にC地点に移動する組を考えていたが籠城する余裕があるということならなるべく戦力を固めておくべきだと判断した。


「いや、待ってくれ。俺はここに残る」


そこで発言したのは前衛を張っていた男のうちの一人だった。


「先程の戦闘で足をやられてな。このままだと足を引っ張るお荷物になっちまう。だったら、ここで少しでも時間を稼いだ方がいろいろと都合がいいだろ」


「いや...確かにそうかもしれないがいいのか?」


ここに残るということは確実に死ぬこと以外の未来は訪れない。そんなことはここにいる誰しもがわかっている。


「待ってくれ、なら俺も右腕が言うことを聞かないからここに残らせてくれ」


「俺もここに残らせてくれ」


初めの男の発言をきっかけに「ここに残りたい」と言う者が多く現れた。


「この人数なら、指揮をとれるものもいたほうがいいだろう。何より残るのが大半俺の部下である以上、俺も残る」


そういったのは黒田だった。


「...悪いな」


「俺たちガラクタの連中はみんなこんな感じで今日まで生かしてもらってきたんだ。その順番が俺らに回ってきただけだろ。なぁ、そうだろ」


黒田の問いに対してガラクタに所属している男達が応えた。


「こんなわけだ。ここは俺たちガラクタに任せろ。ただ、頼みがある」


「なんだ」


「傭兵部隊、ガラクタの代表として、一人の男としてあの少年を生かしてほしい」


黒田の鋭く思いのこもった視線が柿沼の眼に届く。


「…約束する。よし、ここから移動するものは最低限の物資だけ持って移動の準備を。それ以外は今すぐに焚けるだけの灯りを焚いてくれ」


腹をくくった男たちはそれぞれの思いを胸に行動を始めた。



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