第13話 経験差
荒士の掛け声と共に一斉に襲いに来るのかと思い桜利は身構えたが、周りを囲む受験生は誰も動かなかった。
「おいおい、どうしたどうした。ひよっちまったのかぁ?相手は能力のねえ雑魚1人だぞ。ほら、早くだれか行けよ」
荒士の煽りに対しても桜利を囲んでいる受験生たちは互いの顔を見合うだけだった。桜利と荒士の目が合う。荒士はこの状況を想定していなかったのか周りの受験生のほうに意識が生じ始めた。
静寂の森の中に立つ
「あああああああああ」
棒立ちしていた荒士の顔に桜利は右の拳を叩き込むと、荒士の体は後ろに飛んでいき悲鳴を上げた。
「痛ってぇなカス。ぶち殺されてぇのか」
「集団で襲ってきているのに文句言うなよ」
「ふざけんじゃねぇ」
「こっちのセリフだ」
立ち上がった荒士が桜利を殴ろうとするが、その拳は桜利に当たらず逆に桜利の反撃をもらってしまう。桜利の拳は的確に荒士の体を捉える。
「うおおおおおおおお」
桜利が荒士に反撃を当てると、横から叫び声とともにオレンジの腕章をつけた男が桜利に向かって突進し、桜利は回避しようとするがなぜか動けなくなりそのまま直撃をもらった。
「痛いなぁ」
桜利は円の中心から吹き飛ばされたが、しっかりと受け身を取ってすぐに構え、距離をとる。
「何、その能力?」
「『
「マジかよ」
桜利は突進してきた受験生との体格差から一度、その受験生に集中した。目の前の男は大人顔負けの屈強な体つきをしており、次に正面から当たったら体が悲鳴を上げることを桜利は一度当てられて理解した。
「お前本当に能力がないのか?」
「使えないね。俺もびっくりしたよ」
「…同情するよ」
それ以上の言葉に桜利は反応している余裕はなかった。先程、男の突進をよけようとしたときに体が硬直していた感覚があり、その原因が何かが気になっていた。足元が沼にはまったような感覚が桜利の足元を襲う。
「行くぞ」
足元が重く感じた瞬間に男は突進してくる。桜利は必死に周りを囲む受験生の中から地面に手を置く怪しげな女を見つけ、その女に向けて背負っていたナップサックを投げつけると足元が自由になり男の突進をよけきった。
「気づいたか」
「いくら何でも怪しすぎるだろ。何の能力かわからないけど多分、俺にとってヤバイ能力でしょ」
「お前、強いな」
「雪の中で化け物に遊ばれたからな。悪いけど負ける気はない」
北海道での戦績。162戦0勝162敗。桜利は思い出す。
「これ、ほんとに勝てるんですか?」
白米を口に含んだ桜利は目の前でいっしょにご飯を食べる風也とクーラに不満そうに聞いた。
「「まぁ、無理でしょうね」」
二人に同じ返事をされた。
「桜利君も理解していると思うけどクーラさんはめちゃくちゃ強いよ」
「どのくらい強いんですか?」
「私、もともとはSPとして王族の護衛などをしていましたのでそれなりに腕には自身があるんですよ」
「なんで、こんなへんぴなところで旅館なんてやってるんですか?」
今日一日を通して桜利は自分達以外の宿泊客を見ていなかった。
「いろんな理由があるんですけど、一つは日本のご飯がおいしいからですかね」
「えー」
「桜利様にこれからは私がアドバイスを差し上げようと思います」
クーラは桜利の前の食器を片付けながらアドバイスを与えた。
「まず、相手の攻撃を見ましょう。技によっては一回当たってしまうだけで致命傷になりかねませんから」
次の日も桜利は稽古をつけてもらった。
「クーラさんの攻撃見てたら当たりました」
雪の上で寝転び、ふてくされながら桜利はクーラに言う。桜利が攻撃しようとすると、クーラの足元の雪が壁となり防がれてしまう。攻撃している最中、桜利は背中を雪の剣に襲われた。
「桜利様の戦闘センスはよいものなのですが、能力者に対しての対策をしっかりと考えないと一発アウトになりかねません」
「そうですね」
「ですから、より深く相手を観察し素早く対処方法を考えなければなりません。そして、周りへの注意を怠ってもいけません」
「それができたら苦労しないよ」
「その特訓をいたしましょう。大丈夫ここからは手加減いたしますので」
このやり取りをしたうえでハンデをもらってもなお桜利は全敗していたが、確実に能力者に立ち向かえばよいかを教えてもらい使えるようにはなっていた。
「やっぱり怖さが違ったな」
目の前にいる受験生よりも桜利にはいまだに対面したあのバケモノの記憶が体に刻まれていた。こっちの攻撃は絶対に当たらず、あっちの攻撃は確実に当たるといっていいほどの強者に比べてみたら、桜利は怖さを感じなかった。
突進の受験生とのやり取りを終えると別の受験生が殴りかかってくる。いくら人数がいるとはいえ、同い年の人間しかおらず、乱闘が始まるが桜利は丁寧に捌く。しっかりと攻撃を避けてから反撃を加え、また避けるを繰り返して戦い続けた。
パンッ。
乾いた音が響く。桜利と組み合っていた目の前の男は右腕から血が噴き出て叫んだ。桜利の前にいる荒士の手には一丁の拳銃。
「お前、正気か?」
流石に、桜利も荒士の行動に動揺する。というか、この条件下の中でそれはあまりにも強すぎた。他の受験者もこの行動には動揺した。
「こいつは使う気はなかったんだけどなぁ、周りの奴らが使えねぇから仕方ないよな。それに一番の原因はお前だよ赤宮桜利」
もはや、嵐士は訳が分からなくなっていた。
「てめぇみたいな無能力者は家畜みたいに死ねばいいんだよ」
「何をしている君たち」
荒士が桜利を撃とうとした瞬間、木と木の間から試験官が現れた。
「これは…どういう状況だ」
顔色を変えながら桜利のもとに近づいてきた試験官は問う。
「この白い腕章をつけた人がここで人を襲っているのを見つけました」
先に話したのは荒士だった。
「今話した奴が俺をここでリンチしようと計画してました。俺が抵抗したら持っていた銃で俺を撃とうとして流れ弾が他の人に当たりました」
桜利の目の前には腕を負傷して、苦しんでいる受験生がいる。動かぬ証拠がある以上、桜利がこの場で有利なのは明らかだった。
「双方の言い分はわかった。いったんこの場では収集をつけることはできない、加えて緊急性を要するものもいる。そこの二人以外は、この負傷した受験生を運び出せ。ここにいるものには追って処分が下されるだろう」
その指示のもと撃たれた男は受験生たちによって運ばれていく。
「まずは、お前から話を聞こう。ついてこい」
試験官の指示のもと、桜利はその場から離れた場所に移動させられる。桜利は、かなりの距離を歩かされた。
「ここらへんでいいですか?」
「結構だ」
その言葉と同時に、試験官は桜利の頭を掴み近くの木にぶつけた。衝撃で桜利は意識を失う。
「すまないな、私も『狩人』なんだ」
男は桜利の体を担ぐと、近くの滝に放り投げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます