第14話 ついに出会ってしまう

桜利が重たいまぶたを開けると曇り空が広がっていた。全く状況がわかっていない桜利だが記憶だけは少し残っている。間違いなく、あの試験官にやられたのだが、そのあと何があったかがわからず、どうして自分の服がこんなに濡れているのか謎だった。


「よう、目が覚めたか」


試験官の服を着た男が火に木の枝を入れながら桜利に話しかけた。


「体、冷えてるだろうからこっちに来きな。その格好は寒いだろ」


桜利は急いで体を起こして警戒する。


「あなたも俺を狙っている人ですか?」


「何の話?」


完全に警戒している桜利に対して、男は気にもしないで暖をとり続ける。


「なんの話か知らんがもし、仮に俺が君の命をとるんだったら川から引きずりあげたりしないし、起きる前に殺すけど反論はあるか?」


その発言に桜利は反論できないが警戒を止める気もなく、2人の間でなんとも言えない時間が過ぎていく。


「警戒するのはいいことだが、度合いの過ぎたものは何事もかえって身を滅ぼしかねないことだけ伝えておくぞ」


深いため息の後、男は桜利に忠告を受け桜利も自分の失礼さを恥じた。大人しく男の言うことを聞いて火の前に座ると、桜利は体と心を温められた。


「先ほどは疑ったりしてすみませんでした」


「別に気にしていない。落ち着いたらでいいんだが、なにをそんなにまで疑っていたんだ?」


「それはですね…」


桜利は荒士との一件から覚えている範囲のことを話した。


「なるほどな。信じがたい話だが、君の顔の傷や状況から見て本当のことなんだろうな」


桜利はこの話を受け入れてもらえると思っておらず内心驚くと同時に、少し安心した。


「そういえばどうして、こんなところにいるんですか?いや、そのおかげで助かったんですけど」


「くどい言い方をすると俺はここでは『部外者』だからな。誰もいなそうなところを煙草をくわえながら歩いていたところ」


「くどくない言い方をするとサボっていたと」


「そういうこと」


言いながら、男はIDカードを桜利に見せる。


「この試験の試験官は二種類いる。一つはもともとの関係者。もう一つは、今回の試験のためだけに雇われた『傭兵』みたいな連中」


「あなたは『傭兵』側の人だと」


「そういうこと。詳しくは省くけど俺らみたいな傭兵は歩き回って不正してるやつがいたり、リタイア者がいないかなどの見回りで内部的なことは何一つ聞かされていないんだ」


桜利は、自分を落とした人間がどっち側の人間か気になり始めた。


「先に言っとくけど、君を落としたのは多分前者、関係者側だと思うよ」


「どうしてですか?」


「俺たち雇われた側の人間はこのIDカードに発信機ついてるから、お互いの位置情報がわかるようになってる。俺がほっつき歩きながら、タバコ休憩してる時に位置情報をちょくちょく見てたけど誰も立ち入り禁止区域の中に入ってなかったから」


「そうですか。IDカードを別のところに置いてから来たとか?」


「それを考えてもいいけど、どちらにせよ普通じゃないね」


「そうですね」


そこで話は途切れてしまう。


「…君、この後どうする?試験を続けるか?」


このまま続行するのかと聞かれた桜利は悩んだ。正直、多少のけがなどであれば続行するが、今は事が事であった。命の危険にさらされる試験を続ける気はさすがに桜利にはない。


「リタイアしようと思います。ただ、お願いがあるんですけど…リタイアしてからの手続きの時、一緒にいてくれませんか?また、襲われるかもしれないので」


桜利はここで一つ保険を作りたいと考えた。誰もおらず、一人でいるよりも少しは信用できる人を横においておきたい。


「別にいいけど、俺そこまで強くないよ」


「今はそういうのより信頼できる人のほうがいいので」


「わかったよ。君の安全は僕が保証しよう」


男は桜利の前に手を差し出してきたので、桜利はその手を握った。


「俺の名前は柿沼だ。よろしく」


「赤宮桜利と言います」


「それじゃあ、とりあえずここから離れるか。一応ここも立ち入り禁止区域だし」


「え?そうなんですか。それなら早く行きましょう」


桜利と柿沼は川沿いを歩き始め、しばらく歩くと対岸に人が見えてきた。


「あ、人」


「ん?なんか様子が変だな」


桜利と柿沼は小声で会話し、木の陰から様子を見ることにするが、しばらく見ているが特に変わった光景が広がるわけでもなく。


「何か変なんですか?」


「今、詰め寄っている男は首からIDカードを下げているからいいんだけど、対面の二人は何も持っていないんだよね。『傭兵』として来た人たちとは一通り顔合わせをしたけれど、あんな人たちはいなかったし」


「『関係者』の人たちじゃないんですか?」


「『関係者』の人たちは胸元にバッチがついているはずなんだけど、ついていないでしょ」


桜利が目を凝らして、よく見てみると確かに彼らの胸元には何もついていない。


「あと、なんか妙な雰囲気を感じるんだ」


桜利は柿沼同様、ずっと見ているが全く何も感じない。先程まで、詰め寄っていた男性も今は落ち着いている。話がまとまったのか、双方が背を向けて歩き出した。


「終わったみたいですね」


「だな。俺たちも行こう」


桜利が対岸に背を向け歩き出した瞬間、柿沼は桜利の身を自分のもとに引っ張った。


「ちょ、なんですか?」


柿沼は対岸を指差す。桜利が指さされたほうを見ると、詰め寄っていたほうの男が倒れている。


「殺されたか」


「え?」


「さっきの2人組に何かされているのが一瞬見えた。もしかしたら、何かされたかも」


「様子を見に行きましょう」


「いや、さっきの2人の姿が見えない。あっちの方に行ったのは見えたけど、それ以降の動きが分からないから時間をおいてから見に行こう」


「わかりました」


桜利と柿沼はしばらく隠れながら倒れた男を見続けた。しばらくして、水から頭が出ている石をわたり対岸に渡った。


「どうですか」


「…死んでる。脈がない」


桜利はその場で硬直した。




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