第15話 すべての元凶となる希望の星
桜利が初めて死体を見る。葬式などでも桜利は死体を見たことがなかったためこれが本当に初めての経験であった。突如、桜利は息ができなくなり腹がものすごく強く押され吐き気がし、今にも口から出そうになった。やっとの思いで呼吸してもまだ出てきそうで桜利は呼吸するのに必死になった。
「死体を見るのは初めてか?」
「…はい」
「調子のほうは?」
「なんとか大丈夫です」
「不幸中の幸いは、この死体、ほとんど外傷がないのはまだよかったほうだな」
柿沼の言う通り、これがもしぐちゃぐちゃの原形をとどめていないものだったら、桜利は吐いていた自信がある。
「この人どうしますか?」
「本当なら、ちゃんとした場所まで運んで供養してやりたいところだが、ここは立ち入り禁止区域で人もいないし、そもそも状況が状況だからな。俺たち2人だけだとどうしてあげることもできないからいったんは、置いていくしかないかな」
柿沼も桜利も何とかしてあげたいがどうにもできない。
「とりあえず、殺したと思われる奴らが進んだ方向に何かあるかもしれないから行ってみようと思うが一緒に来るか」
「はい」
桜利と柿沼は、川岸の死体を安全な場所に移動させると、死体に手を合わせてから向かった。川沿いを歩き続けると滝までたどり着いた。
「行き止まりですよね」
「そうだな」
「もしかして、どこか途中の脇道に行かれたとか」
「そうかも知れない」
柿沼は発言しながら、ずっと水面を見ていた。
「あぁ、そういうことね」
柿沼が少し口角を上げながら、ぼそっとつぶやく。
「何かわかったんですか?」
柿沼は背負っていた細長いアタッシュケースを近くの木の下に目立たないように置く。
「30秒だ。30秒俺の姿が見えなかったら、俺とおんなじ行動してみな」
「何言ってんですか?」
「勇気があるならね」
そういいながら柿沼は滝に向かって飛び込んだ。突然すぎた行動に、桜利が動揺しているうちに30秒が過ぎ去っていく。行くべきかどうか悩んでいた桜利だったが、やけくそになりながら滝に向かって自分の身を突っ込んだ。一瞬だが、大量の水に撃たれたので桜利は多少服を濡らしてしまった。滝の裏には空洞があり足元だけが照らされている。
「柿沼さんいる?」
桜利の声は反響して何重にも聞こえてくる。
「いるよ。奥に来てみな」
柿沼の声が奥から聞こえてくる。桜利が奥まで進むとスマホのライトを手に持った柿沼がいた。
「よく来たね。意外と勇気があると見た」
「いや、むしろどうやってここのこと気が付いたんですか?」
「滝の下の水の流れがおかしかったから、もしかしたらと思ってね。半分はラッキーだったかな」
いや、それでも異常なまでの観察力だと桜利は感じる。
「認証システムヲ起動シマス」
「この扉を開けるには何かしら鍵が必要らしいね」
「形からするにスライドするタイプとQRコードをスキャンするタイプの二種類だから、柿沼さんの持っているIDカードでいいんじゃないですか?」
桜利の発言をもとに柿沼はカードを機械に通す。
「確認中、確認中、コチラノカードハ利用デキマセン」
「「え?」」
同時に声が出た。
「IDカードじゃないんだ」
「他に何か持ってるもので使えそうなものありますか?」
「悪いが持ってないかな」
桜利と柿沼は何も思いつかずここで黙り込んでしまう。
「これ、俺たちがくる前の二人組はここにこれたんですかね?」
「俺と君がこれだけの時間かかっているからこれていないかもね。それか、初めからこの場所も開け方も知っていたら…でも、そしたら途中で出くわしてるか」
「そうですね」
桜利はナップサックの中から使えそうなものを探すが何にもない。
「なんだいそのナイフは?」
「必要かなと思って」
「それで壊そうとしてるのか?多分だけどこの扉、めちゃくちゃ頑丈に作られているからちょっとやそっとじゃ壊れないと思うよ」
そんなことは、桜利は言われなくても見ればわかっていた。
「いったん戻るか」
桜利としては奥に何があるか気になりはするが仕方ない。
「そうですね。今何時かな」
桜利は時間が気になり、配布された端末を見るとそこにあった。
「あ、QRコードあった」
桜利の電子版の受験票にはQRコードがついていた。桜利としてはどうして気づかなかったのかと思った。
「あらら、灯台下暗しってやつかな。ちょっと貸して」
「使えるかわからないですよ」
桜利から端末を受け取った柿沼はQRコードを機械に読み取らせる。
「確認中、確認中、セキュリティーコードト認証ガ確認サレマシタ」
音声とともに扉が開く。そこは、真っ白な部屋だった。その部屋の中には無数の配線とコンピューターが立ち並ぶ中、真ん中に大きなキューブが置いてある。
「なにこれ」
異様な光景とまぶしさに桜利は額に手を添えながら部屋の中を見て回る。桜利はパソコンに詳しい人間ではないため、何が何だかさっぱりである。しかし、真ん中四角いキューブがたまに出す音に桜利は不気味さを感じた。
「柿沼さんはパソコンとか詳しいほうですか?」
「…」
柿沼は桜利の問いかけに対して反応しなかった。
「柿沼さん、柿沼さん」
「…一応関係者側だから、受験者全員のうちある程度の情報を見る資格があることを理解してくれ」
「…はい?」
突然何かを語りだす柿沼に桜利はおかしさを感じる。
「その中には受験者の能力も特に注意が必要な子は説明をされる。その中に君も含まれていた。『能力がない子』として。いや、むしろそんなことは最初からどうでもいい」
だんだんとおかしくなっている柿沼を不気味に感じ始める。
「だから一つだけ答えてほしい、この部屋に入ってから君は『何も感じない』かい?」
両肩をがっちりと掴まれ険しい表情で桜利は問われた。
「はい、なんも変わったことはないですよ」
桜利が素直に答えると柿沼の手は桜利の肩から離れた。
「…そうか」
「あの、どうかしてますけど説明してもらえませんか」
「…とりあえずここから出ようか。ここにいると2つの意味で吐き気がする」
重い足取りで、柿沼は部屋から出ていくのを置いて行かれないようにと桜利もついて行き来た時と同じ要領で外に出ると、空は分厚い雲に覆われていた。
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