第31話 大人の事情と秘密のお話
「この試験が行われるより、結構前にね『帝東高校の関係者が軍関係者と内密になんらかの取引をしていた』っていうのがわかったの」
桜利にとって知らない話が始まる。
「その話ってニュースとかでやってました?」
「やってないよ。テレビ側がどちらか、もしくは両方から圧をかけられていたと思う」
普段から、ニュースを常に見ている桜利でもその話題を見たことはなかった。
「徹底的に情報規制を敷いたらしいからね。知らなくて当たり前。それと加えて、この島での特別試験ここ数年の結果が外部に出されていなくてね」
桜利はその話に身に覚えがあった。風也と初めて会った日、情報の少なさについて話した記憶がある。
「それで色々調べると、どうやら結果を隠し始めたのとほぼ同時期に軍との関係を持ち始めたことがわかったんだ。そして、何かあるかもと思ってここに来たってわけ」
「時間をずらして終わり際に行くことでうまく侵入できると踏んだんところ、こんなありさまでついてしまったんですよね」
桜利と男と女のそれぞれの話を聞くことで、両者とも自分の置かれている状況が見えてきた。
「政府の関係者ならうまく話を通して、もっと早くに対処できなかったんですか?」
「この受験者の中には各業界の有力者のお子さんも参加していてね。『下手に口を挟むとそっち方面にも問題を作りかねないから』って言われて却下されちゃった」
桜利の質問に対して男が答える。
「他になんか聞きたいこととか話したいこととかはないかな」
会話が始まる前は2人を警戒していた桜利だったが、2人の話を聞き今日の自分の経験とすり合わせると、納得のいくことが多いことからある程度信用をすることにした。今日の自分の出来事をもう一度思い出す。
「そろそろ、行きませんか。あまり長いし過ぎてもいいことはないでしょうし」
「それもそうかな。だいぶいい話が聞けたし殺さなくてよかったでしょ」
「...はい」
女のほうが切り出し、男と女は席を立った。
「そういえば、なんかおっきな機械みたいなのを見ました」
その発言に部屋の扉に手をかけた男の動きが止まった。
「機械ってどんなもの」
「この部屋の天井くらいの高さの正方形で、周りにはコンピューターとか配線がたくさんあったんだけど、あんまり関係ないかもです」
「多分、監視カメラとかのサーバーでは」
女のほうが答えたが、男のほうはまだ動かない。
「...それはもしかして白くて大きなルービックキューブみたいな感じだった?」
「そうそう、おっきなルービックキューブ見たでね、一緒にいた柿沼さんの気分が悪くなっちゃったのですぐにそこから出たんですけど」
「...柿沼って人は何者?」
「何者かはよく知らないんですけど、めちゃくちゃ強い人です」
「能力は何かわかる?」
「なんか紫色の炎を出していました」
「...わかった。その大きな機械がどこにあるかわかる?」
桜利は地図を広げると山のほうから流れている大きな川を指さす。
「この川をたどっていくと、大きな滝があるんです。そこの裏側に洞窟みたいなのがあってそこにありました」
男のほうが自分の持っている地図にメモしながら地図とにらめっこを始める。
「文屋君。悪いけど残業になるかも」
「わかりました」
男が部屋から出ていくと、文屋と呼ばれた女と桜利もついていく。
「君もついてくる?」
男の誘いに対して、桜利は少し迷った。桜利は1人でいるよりもこの人たちと一緒にいたほうが安全かもしれないと感じていた。
「いいえ、俺はA地点のところから小型船でこの島から出ようと思います」
「私たちがどれくらいかかるかわかりませんからね。私的にはそっちのほうが懸命だと思います。A地点までの道は私たちが通って来ているので安全でしょうし」
「...わかった」
男は自分のスマホでメッセージを送った。
「今、部下の1人に連絡して君のことを拾ってもらえるように頼んでおいた。これ持っておいて」
桜利は男から一枚のカードをもらう。
「これGPSだからこれ持っておいて。そしたら部下が君のこと見つけて拾ってくれると思うから」
「回収した後に殺されたりしない?」
「大丈夫。君はこの事件の重要参考人だから丁重に扱うことを約束するよ」
男と文屋が歩き出そうとする前に、桜利が引き止める。
「最後にお名前聞いてもいいですか?俺は...」
「言わなくていい。私は少なくとも、君の名前を聞くのはよくないかなと思っているから。ここから出たら今度ゆっくりお話しよ」
エージェントの二人は桜利に背中を向けて歩き出す。桜利は背中が見えなくなるまで、2人から視線を外すことはなかった。桜利は渡されたカードをナップサックに入れ、A地点に向かって歩き始める。途中、倒れている死体から桜利は、使えそうなナイフとピストルを拝借した。文屋が言っていた通り、桜利は襲われることもなく進んだ。
「軍関係者と高校側が秘密裏に関係を持ち、公にできない取引を行っている」
この情報が入った政府は内密に、文部科学省及び陸軍省に説明するよう命じた。各省の大臣は省内の調査にあたって結果を報告した。
「一部の陸軍省の人間が高校側に対して、外部に漏らしてはいけない重要な情報を漏らした」
両省からの返答は似たようなものだった。「この回答は我々が求める『十分な説明』が行われているものではない」と内閣総理大臣は判断し、第三者委員会を設置した。調査を命じられたのは、六花仙のを筆頭とした内閣直系のエージェントの『
「この高校の一般受験は面倒な連中が多く関わっているみたいだから、あんまり深入りはするな」との連絡を受けた在原は考えが固まった。
「そうだ、現地へ行こう」
「いや、バカなんですか?普通にまずいでしょ。上からやめろって口止められているんですよ」
六花仙の在原の考えに関して、横から文屋の鋭い意見が飛んできた。
「でも、高校側は普通に試験の実施をするみたいだからそのほうが早くない?」
「首切られますよ」
「...どうも嫌な予感がする」
在原はぬるくなったコーヒーを喉に流し込む。
「悪いけど、誰かついてくる人いない」
在原の声かけにぞろぞろと手が上がる。日本人特有のあの空気が流れ始める。
「なら、私が」
「「「どうぞどうぞ」」」
文屋は頭を抱えたが、自分以外に適任がいないこともわかっていたので素直に受け入れた。
「それじゃあ、文屋君。試験日当日の夕方に行こう。それまでに調整しといてね」
こうして、六花仙の在原及び文屋は遅すぎるタイミングで島に上陸した。
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