第8話 試験会場に向かう時の妙な緊張感...なんてものはなく
ピーピーピー
桜利はいつものアラーム音に起こされた。今日は試験当日、天気は曇り。普段の通り顔を洗ってリビングに行く。
「おはよー」
「おはようございます。桜利さん」
桜利は事前の通知で『動きやすい服装で来るように』と指示を受けていた。ネアがそれらしいものを持っているらしいので桜利はそこら辺の用意をお願いしていた。リビングにはそれらしき服が置かれており、桜利が着替えるとテーブルには丼が置いてある。
中を開けると、見事なカツ丼が出てきた。
「ネアさん、マジか」
朝からカツ丼。しかも、大切な試験当日。桜利はどんな感情よりも驚きが勝った。
「ほら、なんか勝負事の日とかはカツ食べると良いって言うじゃないですか」
「うーん、それ前日とかじゃないかな?当日の朝にこれはちょっと重くない?」
「え、私は余裕ですけど…カツサンドに変えますか?」
「いや、大丈夫だよ。いただきます」
桜利はカツ丼のおいしさに、悔しささえ覚えた。昨日の夕飯に出して欲しかったと。
「桜利さん緊張してるんですか?」
「え、まぁとてつもないほど緊張してるよ」
向かい側で同じくかつ丼を食べるネアは桜利の表情が気になった。
「そんなに緊張するもんですかね?この試験受からなかったからって別に死ぬわけでもないですし、世界がおかしくなったりしないのに」
「ちょっとそれは規格外すぎない?」
「要するに緊張しないでねってことですよ」
ネアはそんなことを言いながらニコニコ桜利の前でカツ丼を頬張った。
「先に車のエンジンをかけてきますね」
車で試験会場に向かうためネアは車のエンジンをかけに行くと、桜利はその間に書類などの忘れ物がないか確認した後、仏壇に向かった。桜利が2歳の時に亡くなった母…らしい。桜利は正確には覚えていないのでわからなかった。
線香をあげて手を合わせる。
「お前の母さんは世界で1番の母さんだぞ。まーじでかわいい」とお酒の入った桜利の父である司はいつも言っている。叶うなら一度は話をしてみたかったものだと桜利はその話を聞くたびに思っていた。
「きっと、桜利さんのことを天国から見守ってくれてますよ」
後ろから戻ってきたネアが声をかけた
「そうだといいな」
荷物を持ち、桜利は車の助手席に座る。ネアが車を走らせ向かう目的地は事務所。桜利は行く前に風也に挨拶しに行く約束をしていた。事務所の前に着くと、ネアは車で待っていると言うので、桜利1人で向かった。しかし、入り口のドアを開けても人が見当たらない。
寝てる?のかと思うと1人の少女がこちらを見ていた。何故だかその子は桜利のことを
見るとクスクスと笑いながら奥の部屋に行ってしまった。入れ替わりで、風也がくると桜利をジッと見つめ始めた。桜利は風也と長いやり取りをすることもなく激励の言葉をもらい車に戻った。
「ご挨拶はすみましたか?」
「うん、なんか袋もらった」
ネアは桜利が渡された袋を手に取り、袋の中身を取り出す。
「包帯、消毒液その他もろもろ…過保護すぎるレベルですね。何が起こると思っているんでしょうかね」
ネアは少し引き気味な表情で桜利に袋を返す。
「そういえば、桜利さんこれどうぞ」
ネアが差し出したのはお守りだった。
「ありがとう」
桜利はありがたく受け取り、ポケットの中にしまう。
試験会場に行くための船が出る港の近くまで行くと車が増えてきた。
「なんでこんなに車が多くなってきたね」
「多分全員受験参加者ではないでしょうか。多分この後、後ろに見える船で試験会場に行くのでは」
「うーん、聞いてみようかな。ネア、車ぶつけないでね。怖いから」
了解と勢いよく言いながら駐車場に入り駐車し終える。桜利が車から降りると冷たい潮風が吹く。なぜか降りてから人からの注目を集めており、桜利は何かしたかと、思い自分を疑ったが理由はすぐわかった。
「なぜ皆さん、桜利さんのこと見てるのでしょうか?溢れ出るオーラに気づいたのでしょうかね?」
「どう考えてもネアのメイド服が原因じゃない」
ネアは今、メイド服を着ている。加えて、生来の銀色の長い髪が目立つのだろう。メイド服を着ても目立たない場所を桜利は思いつかなかった。
「そりゃみんな驚くよな」
普段から見ている桜利は別として、ほかの人からすれば、珍しい人にしか見えないのを桜利は改めて実感した。
「外出る時の服装くらいなんとかならないの?」
「なんともなりません」
「なんで?ちょっと恥ずかしいんだけど」
「この服は私にとっての正装ですから」
そこまで言われると桜利は何も言えない。ここで何を言ってもどうしようもないことだと思う。桜利はネアと一緒に受付に向かった。
「受験票をお渡しください。」
「この後って、船で移動するんですか?」
「そうですね。ここで、船の部屋カギをお渡しして受験者の方は乗っていただく感じになります。保護者様はここまでの付き添いとなりますのでご理解のほどお願いします」
そういいながら、桜利はカードキーを渡される。
「じゃあ、ここまでだね」
「そうですね。キスとかしておきます?」
「なんでだよ」
「行ってきますのキスやハグって大事だと思いますよ」
「そういうのはいいから。いってきます」
「はい、いってらっしゃーい」
少し落ち込むネアの声を聞きながら、桜利は船に乗った。
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