第10話 会場入り

桜利は島に降りてその場を歩き回っていると、試験官から呼ばれ運営のテントに向かった。


「結論から話すと、受験資格に関しては問題ありません。このまま受験していただいて構いません」


「本当ですか。よかった」


目の前の監督官は頷き、いったん桜利は安心した。


「ただ、この後詳しい説明があると思うのですが、試験の内容的に能力がないと厳しい可能性があります。それに関して予め不利を背負うことになると思いますが大丈夫ですか?」


「具体的にはどんな不利を背負うのか教えてもらえませんか」


「それに関して現時点ではお伝えすることはできかねます。この後、受験生が全員がそろい次第、説明が行われますので」


「わかりました。不利を背負うことに関しては大丈夫なのでこのまま受験さてもらっても大丈夫ですか?」


「わかりました。では、待機してお待ちください」


テントから出ると、受験生が列になって並んでいた。桜利も近くの列に並ぶが何の順で並んでいる列かわかっていない。しばらく待っていると、他にも数列か出来上がりかなりの人数が並んだ。


「これより試験時に利用する、端末を配布する」


監督官の一人がスピーカーで話すと列ごとに端末が配られる。桜利が端末を受け取ろうとすると、端末が手元からすり抜け落ちてしまい慌てて拾った。


「現時点で、端末がない方は手を高く上げてください。いなそうですのでで試験の概要説明を行います」


試験官がマイクを隣の人物に渡す。


「今回の試験運営の代表を務める 樋口だ。よろしく」


丸刈りで軍服を着た樋口という男が自己紹介をした。


「今回の試験に関しての説明を行う。試験の内容はスタート地点からゴール地点までのタイムを計測することだ。途中の各地点で課題を行ってもらう。課題の内容については各地点で発表される。受験生諸君が持っている端末の中の地図アプリを開いてもらいたい」


桜利は指示に従い、端末の地図アプリを開く。


「この中の地図にAからEまでのチェックポイントが表示されていると思うがこのチェックポイントで課題を受けてもらう」


桜利が見ている地図にはAからEまでのチェックポイントの位置が示されており、ほかにも地図上には立ち入り禁止区域と書かれたエリアも表示されていた。


「チェックポイントでの課題の結果はのちにタイムとともに合否に影響するので全力を持って取り組むこと。また、地図に描かれている立ち入り禁止区域に入った場合その時点で失格とするためくれぐれも侵入しないこと」


桜利は立ち入り禁止区域を地図で見ていくと島の大部分を占めており、試験で使う道のほとんどは一本道となっていた。


「最後になるが、受験生の人数を考慮してスタートを何組かに分けて、ずらして順番にスタートしてもらう。スタートの順番によってタイムが左右されることはなく組ごとにタイムが計測されるのでそこは後からスタートする組が不利になることはない。端末に番号が送られるので、自分の番号が呼ばれ次第集合するように。何か質問があるものはこの後、試験官に聞くように」


解散となり桜利は一人準備運動をしていた。周りは桜利と同じくストレッチなどをする人や、会話をしている人がいる。桜利に知り合いは誰もいないため、準備運動が終わるとやることがなくなってしまった。


「あ、いた」


「あぁ、どうも」


右腕にオレンジ色の腕章をつけた桐菜だった。


「赤宮さん…でしたっけ?」


「えっと、水亭さんですよね」


「うん。腕章は白色なんだね」


桜利は船から降りるとき白色の腕章をもらい腕に巻くよう指示された。色が何を意味するかは桜利を含めた受験生への説明をされていない。


「食べる?」


桐菜は船の中で上げた洋酒入りのチョコを桜利に差し出す。


「大丈夫です。今は、おなかすいてないので」


「そう」


少し残念そうな顔をしながら桐菜は黙ってしまう。


「洋酒入りのチョコが好きなんですか?」


沈黙に耐えられなくなった桜利がきりだした。


「いいえ。そこまで好きではないですね」


そこで会話が終わってしまうが、すぐに桐菜の方は招集がかかった。


「では、お先に。…あの、気を付けてください。特に何かあることはないと思うけど」


小声で何か話してきた桐菜だが、桜利はどういった意図なのか意味がわからなかった。ほどなくして、桜利は番号を呼ばれる。スタート地点に向かうと、かなり多くの受験生がいたが、桜利は自分と同じ腕章を探すが見当たらない。



「この組が最後の組となります。スタート合図後は、詰まりやすいのでお気をつけください」


それを聞いた桜利が周りを見渡すと、何か異様な雰囲気を感じた。視線がどうも自分に集まっている気がした桜利は一瞬迷ったが、最後尾まで下がり最初はゆっくりと進もうと考えた。緊張している感覚は桜利にないが、周りの音が大きくはっきりと聞こえてくる。ただ一つ気になることとしては、桜利は自分と同じ白色の腕章をつけている人が見つからなかった。


「それでは、これより試験を開始します」


試験官の合図とともに先頭の人たちが一斉に走り出す中、桜利はゆっくりと進み始めた。


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