第11話 序盤は焦らず慎重に

桜利と同じくスタートする組の受験生はスタートの合図とともに走り始めた。桜利は最初の混雑を避けるために少し遅れて出たが、タイムを競い合うのが試験内容でもあるので途中から走り始めた。木が生い茂っている、自然豊かな試験会場を桜利は走り続ける。配布された端末からアクセスできる掲示板に受験についての細かな詳細が書かれており、給水地点なども記されていた。最初のチェックポイントのA地点まで、かなりの距離があるのを地図で確認していた桜利はとにかく体力消費のペースを気にしながら走り続けた。最初の給水地点はA地点と同じ場所と表記されている。


しばらく走り続けると、会場の雰囲気とは合わないような大きな建物が見えてきた。


「受験票の提出をお願いします」


建物に到着すると入り口で桜利は端末に登録されている電子版の受験票を表示する。


「はい、ではこちらにどうぞ」


試験官についていき桜利は部屋の前に案内された。


「こちらのA地点では筆記テストを行ってもらいます。制限時間は特にありません。解答が終わり次第、前にいる試験監督に解答用紙を提出してください」


桜利は教室の中の指定された席に行くとテスト用紙と筆記用具が用意されていた。桜利のほかにも受験者はまだ数人残っており、桜利も急いで用紙を裏返してテストの内容を確認する。内容としては英語の問題で、それほど難易度は高くないようにみえた。桜利はいくつかわからない単語がありながらも、何とかして全問を答え終えた。


「解答用紙を預かりましたので、そちらのドアから次のチェックポイントを目指してください」


桜利は解答用紙を試験監督に渡すと部屋を出ると、出口の前にペットボトルの水が置いてあり、ご自由にお取りくださいと書かれているので桜利は一本手に取り建物を出る。桜利がテストを終えた時にはほかの受験生はすでに教室にいなかったので、桜利は自分が最下位にいると思い走り始めた。


桜利が走って進んでいくと、目の前に崖が現れた。高さはわからないが登れるような高さではなく迂回できる道を探そうとした桜利だが、崖の下で数名の受験者が端末と睨めっこをしていた。


「何してるんですか?」


桜利が声をかけると振り向いた受験生は、一瞬表情を硬くした。


「なんかさ、端末を利用することで『重力系統』の能力を使えるようになるらしいんだよ。それを使ってこの崖を超えるのが試験の鍵なんじゃないかって話でよ」


「なるほど」


能力の無い桜利にとってはなんの関係もない話だった。しばらくすると桜利が声をかけた受験生たちは崖の上に到達した。それを離れたところから見ていた桜利は、一旦地図アプリを開きなんとか迂回できないかを考える。崖の右側は道というわけではないが進めないわけではなく、立ち入り禁止区域にも入っていなかった。桜利が迂回路に選んだ道は木の根っこが地面から出てきており、歩きにくい道だった。なんとか桜利は崖の上までたどり着いたが、崖の下にさっきの受験者は見えず桜利は急いでB地点に向かった。


「こちらがB地点になります。受験票の提示をお願いします」


桜利が受験票を見せると建物の中に案内された。


「ここではA地点と同じ筆記試験を1科目とヘルスチェックを受けてもらいます。テストに関してはA地点の時と同じように受けてもらいます。その後の指示は提出した試験監督の説明に従って行動してください」


桜利はさっきほどと同様にテストを受けた。


「お願いします」


「赤宮桜利さんですね。確かにテスト用紙をお預かりしました。出て隣の部屋でヘルスチェックを受けてください」


桜利は出てすぐ隣の部屋に入る。


「受験票を出して」


桜利は椅子に座ると、対面に座る白衣を着たおじさんに受験票を見せた。


「はい、じゃあ診察してくね。まずは、脈から」


脈のあとは、本当に簡単な検診のみを受けて終わった。


「特に異常は無いからこのまま続けてもらって構わないよ。これは、検診とは関係ないことだけど君が最後の受験生だから急いだほうがいいかもね」


「わざわざ、ありがとうございます」


桜利はその話を聞いて、桜利は内心焦り始めた。現在、桜利のいるB地点から次のC地点まではかなり離れているため途中の給水所までは後先考えず、桜利は走り続けた。桜利が給水所に着くと受験生が一人残っていた。桜利としてはなんとか、一人の受験生に追いつけた。


「ちょっと待ってくれよ」


「なんですか?」


「君、その白い腕章、最後のほうに出た組の人でしょ」


「まあ、そうですけど」


「俺、田沼っていうんだけど最初早くに出ていったんだけど、途中でおなか壊しちゃって遅れちゃってさ」


桜利が見ると田沼の腕にはオレンジ色の腕章が巻かれている。オレンジの腕章をつけていた桐菜と同じ組でスタートしているならかなりの時間腹痛に悩まされていたことになる。


「お腹のほうは大丈夫なんですか?」


「それはもう大丈夫なんだけどかなり離されちゃってさ。このままだとタイムがやばいことになりそうでさ」


「たしかに」


「そうなんだけどここだけの話さ、オレンジ色の腕章ってなんかいいことがあるらしくさっきメールでこんなの送られてきたんだよね」


田沼は桜利に端末の画面を見せる。『迂回ルートについての説明』と書かれたメールが田沼のメールには送られていた。もちろん、桜利にはそんなものは送られていない。


「え?なにこれ」


「ここで会ったのも何かの縁だと思うんだ。俺一人で行くのは少し怖いんだけどさ、一緒に行かないか」


「わかりました。ついていきます」


桜利は一瞬迷ったが、行ったほうがいいと考える。正規の道とはずれた茨の道へと足を踏み入れた。


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