第34話 声よ届け...友達のもとまで
雪の止んだ島を歩く魔女は死体を1つと自分が送った人形を浮かせて1人の少年の死体の前で立ち止まる。少年、赤宮桜利の体はここでの壮絶な戦いを物語っており、全身がボロボロになっていた。魔女は桜利の体を道の真ん中に移動させた。
「
魔女の発動した魔法で桜利を中心とした半径500メートルの木や草はすべて消滅した。浮かしていた死体と人形を地面に落とし、男の死体から血を抜き始める。
「足りんな」
ぼやいた魔女は周辺の死体を集め始める。幸い死体なんてものはそこらへんに転がっていたので、死体を浮かせて運び、中から血を集める。魔法で集めている間、魔女は雪の上に魔法陣を書き始める。桜利を中心として、更地にした範囲をまんべんなく使って作成していく。やがて、雪の上に超大型の魔法陣の下書きが完成した。
「足りんな」
球体状にまとめて集められた血を見ながらぼやいた女は、また死体を集め始めた。死体を浮かしては血を抜き、また浮かしては血を抜く。抜いた血を先ほどの魔法陣に流して完成させていく。途中、修正を加えたり、追加の血を集めたりして、ようやく血に染まった巨大な魔法陣が完成する。
魔女は魔法を使う前に、ふと目に血を抜き切った死体が入った。女は皮と骨だけになった死体を全て燃やして骨だけにし「
…
長考の末、魔女は試験管の血を半分魔法陣に注ぎ、半分は自分の口に注いだ。試験管を投げ捨て、桜利の前まで行き、魔女は歌い始める。分厚い雲の下で、空の彼方の天国の、その先まで届くように、白く染まった地の底の、地獄の底まで届くように、その美しい歌声を響かせた。魔女も初めてこの魔法陣を使うためそもそも起動するかもわかっていない。だからこそ、全力で歌った。喉が壊れても自分自身で回復させながら絶唱し続ける。
やがて、魔法陣は赤色の輝きを放ち始める。魔女は桜利からすぐに離れて、その経過を見届けようとしたが輝きは一瞬にして失われてしまった。
「失敗」と判断した。
本来、まだ完成していない魔法陣を無理やり起動させたといっても過言ではなく仕方ないと魔女は自分を納得させ、仕方なく帰宅することにする。
「...やっぱ、やっぱそう来なくちゃなぁ」
桜利の体を飲み込むように現れた芽は成長していく。成長が止まると次は魔法陣の血の中から1枚の花びらが桜利のもとにできた木に蘇る。1枚、また1枚と花弁が宿り木へと還っていく。最後の1枚の花弁が戻ると満開の桜の木ができた。桜の木ができると魔法陣は消え、桜の木もすぐに消えてしまった。魔女は桜利に近づき様子をうかがうが、起きる様子はない。しかし、先程までなかった心臓の音は静かに音を奏で始めていた。
魔女は桜利の体を浮かせて島の中央に向かって歩き始める。もう1人、あっておきたい人物に会うために。
真っ白い世界が桜利の開い目に、映し出された。重さのわからない自分の頭を持ち上げて上半身を起こす。白色がただ目に入るだけで、ここがどこで自分がどうなったかわからない。しばらく周りを見渡していると、遠くに人影があることに気がついた。桜利はその人影に近づくとそれが人であって人でないことに気付かされる。人影の形をしたそのボヤけたナニカ達は並んでいた。
「俺もここに並べばいいの?」
桜利はその列を整理している巨大なナニカに話しかけてみる。ナニカは列の後方を指す。
「あっちが最後尾?」
ナニカは質問に対して、肯定の意思を示した。温かな優しさが桜利を包み込む。
「え?」
突如、桜利の前にいるナニカの体を刀が貫いた。温かさを与えていたナニカは急に熱が失われたような冷たさを桜利に与え、消えていく。一瞬、桜利に向けて笑い、完全に消えた。
桜利の前には変わるように別のナニカが現れた。しかし、桜利はこのナニカに対してモヤついた感情が湧いた。家の前の自販機、すぐ近くの公園のブランコ、よく行く近所のスーパーのお惣菜コーナー、強い匂いが鼻を刺激した謎の部屋、そんなことを桜利が思い出しているうちに世界は白から野原に変わっていた。
レジャーシートが引かれており、皿の上には拳ほどの大きさのおにぎりが2つほど乗っかっている。
「食べてもいいの?」
ナニカは肯定する。桜利はおにぎりにかぶりつく。お腹は空いていなかったがおにぎりを美味しく感じた。あまりにも食べやすいそのおにぎりを桜利はぺろりと平らげた。
「あ、ありがとうございます」
桜利はナニカから受け取った味噌汁を啜る。ほんのり甘さを感じる優しい味がした。桜利は久しぶりにこんなにのんびりと、心穏やかに過ごせているなと感じた。春のような暖かな香りを鼻で感じ、心地よい風が桜利の頬を撫でる。
「このままずっとここにいたいなぁ」
桜利は、自分の前にいるナニカの様子が先程からおかしいことが気になった。ずっと桜利に向けて「悲しい」「寂しい」などのマイナスな雰囲気ばかりを出している。
「ありがとう。優しくしてくれて」
ナニカは桜利の視界の奥にある黒い一点を指す。
「あそこに向かえばいいの?」
桜利の問いにナニカは肯定した。桜利は腰を上げ歩き始めた。
「ご馳走様。おいしかったよ」
途中、足を止めて振り返り桜利を見つめ続けたナニカに向かって手を振り、また歩き始める。
桜利の背中が見えなくなってもなお、ナニカは桜利の進んだ方を見続けた。
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