第2話 初めましてではなく
桜利はドアをノックしてみるが返事がない。誰も出てこないのでゆっくりとドアを開ける。見かけより重い。
「すみませーん」
桜利の声だけが響き静寂が広がり誰も出てこない。奥のほうからゴトンという音とともに女の子が顔を覗かせる。
「あのー」
話しかけようとした瞬間にすぐに顔が消える。代わるように奥から、男性が出てくる。顔にはシワが少し現れている。
「何ようで?」
見た目の割にまだ声は若々しい。
「あ、高校のことで話をしに来まして…えーっと父から何か聞いてませんか」
話しながら桜利の声は段々と小さくなったが思い出したかのようにポケットから手紙を取り出して渡す。男が手紙を読む中で時計の秒針の音だけが響く。
「焼き芋売ってないけど」
「いや、違います」
「ごめんね、冗談だよ。こっちへどうぞ」
奥に行くとコーヒーの香りが桜利の鼻をくぐり抜ける。ソファーに案内され腰をかけると、思ったよりも腰を持っていかれたので座り直した。
「まずは、自己紹介からかな。私の名前は鷲宮風也」
「赤宮桜利と言います」
「それじゃあ、早速本題に入りますかね。受験校は帝都東京高校であってる?」
「あってます」
風也はソファーから立ち上がり、後ろの棚と睨めっこを始める。
「すみません。鷲宮さんは普段何をされてる方なんですか?」
「普段は、ここで教育関連のお仕事をさせてもらってるよ。ここは事務所。この上で部屋を借りて暮らしてるんだ」
桜利が辺りを見渡すと教育関連の資料やらファイルが並んでいる。
「これが君の行きたい高校の資料かな」
渡された資料のページをめくると、最初の文字が目に入る。
「ごめんなさい、この『特別試験実施校』ってなんですか?」
「あ、それはここの学校と姉妹校の京都にある学校で行われている体力試験みたいなやつらしい。詳しいこと公表されてないんだよね」
「じゃあ、対策できないってことですか?」
「あ、それは大丈夫。詳しいことがわからないだけで大まかにはわかるから。何ページか後に書いてあるはずだよ」
言われた通りに何ページかめくると書かれている。その中で、一つ桜利に引っかかるものがあった。
「あの、ここに書いてある『能力練度』とは?」
「あーえー?それ必要なのか。説明するとね、本来能力の測定は日本では高校入学と同時にやるの」
「じゃあできないんじゃないですか?」
「出生後に打たれる薬の効果って個人差あるけど大体、中学3年の終わり頃には切れてることが多いから検査キット使えば君も調べられるよ。まぁ本当はもっと早く知れたりもするんだけどそれは内緒」
「なら別に中学入学の時とかでも良くないですか?早くから使えた方がいい気がするんですけど」
「それは現代社会的な問題が生まれるからかな」
桜利は続けて何ページかめくって驚いた。
「これ島でやるんですか?」
「そうらしいね。ちなみに京都は山だよ」
「これってもしかして体力勝負ですか?」
「最初に言ったよね」
微笑みながら検査キットらしきものを机の上に出す。
「とりあえず、先に検査してから話をしよう。多分結果が返ってくるまで時間かかるだろうから」
言われた通りに機械に手を置く。
「ちょっとチクッとしますよー」
やたら仰々しい音と共に手のひらがチクッとする。ほんの少し痛い。
「はい、終了。手をどけていいよ」
「なんかチクッとしました」
「小さな針で少し血を出して血液検査してるからね」
桜利は手のひらをジロジロ見るが、特に目立った外傷はなく本当に小さい穴を開けられたらしいが、全くどこに刺されたかわからない。
「それじゃあ、結果出るまでは別のことをすることになるんだけど私がどうして君のお父さんと知り合いかの話でもしようか」
「あんまり気にならないんですよね。父親が職業柄いろんな分野の人と仲が良いので。それよりはなんで能力を子供のころは使えないようにさせているんですか?」
桜利は先程の話で疑問に思っていたことを口にした。
「中学校ではあまり触れられないことかもしれないけど、さっきも言った通り社会問題の一種なんだ。少し歴史的な話をすると大昔は能力者同士が戦っていたことがあるんだ。日本でいうと明治くらいまで」
「学校の社会科の授業で習いましたね」
「これはヨーロッパも同じだった。その後大きな世界大戦が二回起こったこともわかるね」
「もちろん。日本が負けたことも知ってますよ」
「問題はここからだったの。冷戦下において各国は能力者の研究を行っていった。これによって『人間が人間を兵器として使う』ことが現実的になってきた」
「ん?なんか逆戻りしてませんか。昔みたいになっているっていうか…」
「ちょっと違うんだけどそこはいいや。冷戦下では実際に、人同士が殺し合うこともあったそうだからね。その中でひどくなっていったのが優秀な子供の身柄を売り買いするいわゆる人身売買が横行したわけ」
桜利はその話を黙って聞いていた。自分の知らない世界を伝えられた気分はいいものではなかった。
「で、それを防ぐために日本では出生後すぐに能力を制限させる薬を体に打つのがルールになっているんだよ」
「なるほど」
そこからかれこれ30分くらい話は続き、桜利は左耳から右耳に話を流していている。突然、2人の間にあるパソコンにメールの通知が来る。
「来たんじゃないかな。どれどれ」
マウスでカーソル操作をしてメールを開いた。
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