第3話 蒼い月と儚き王家の話

月の祠にまつわる蒼き月の話


遥か昔の話……。

まだ大陸は統制されておらず、

人々は安定と永住の地を求めていた。

その時代の最中さなか青年『アズール』は船をだして大海へ繰り出した。

長い航海を経て大陸の西部に位置する

自然豊かな島にたどり着いた。



その名も無き島には小さな村があり、

その村には『人間』のほかに『竜人りと』という種族が共存していた。

竜人りと島蜥蜴しまとかげと同じ青い血をもつ種族で、

大陸には存在しなかったが、姿も形も尻尾がある事以外には人間と変わりなく、アズールにとってそんな事はなんの問題もなかった。

村の人は警戒心も無く彼を心よく受け入れてくれ、住む場所も与えてくれた。


竜人りとの青年『ラマ』とは歳も近く、

アズールにとって良い理解者になった。

ラマとは山に登り道を切り開き、狩猟をして食を蓄えて島の将来を語らいあった。

島を住みやすい国として、

統制しようと話すようになった。


アズールにとっての

良き理解者がもう1人いた。

村長の娘『リディア』だ。

彼女は村の勝手がわからないアズールに、

村を案内し、一緒に森を散策したり、

木の実を一緒に採りに行ったりもした。

村人の誰もが2人をみて、

まるで恋仲のようだと思った。


ラマは複雑な心境だった。

島を一つにしようという思いを共有できる 親友が、自分が大好きな『リディア』と

恋仲になっている事が。

ある部分ではアズールを敬愛し、

ある部分ではアズールを憎哀せざるを得ないのだから。


ある日ラマは決意した。

今晩、自分の思いを『リディア』に伝えようと。それで駄目ならば諦めよう。

それで彼らを祝福して、

そして2人で国作りに励めばいい。


滝の裏の祠でリディアを待つラマ。


「ラマ……。どうしたの?こんな所によびたして?」



「うん。リディアはアズールの事が好きなのかい?」


「もちろん好きよ。賢いし、ここに辿り着くまでの冒険記や大陸の話を聞かせてくれる。それに困った時は相談にのってくれるわ。

なんだか頼もしい兄ができたみたい。」


「兄?そうか……。」


「私が好きなのは……。」



その時だった。

激しい轟音が島中に鳴り響き、

大気が震えて、大地を揺るがした。


祠の中ではいったい何が起きているのかわからず、大きな縦揺れで身動きも取れなかった。



「リディアー!!」


「ラマ!!」


2人とも名前を呼ぶので精一杯で、

近づく事も動くことも出来ない。

やがて窟内が崩落し始めて、

岩がリディアの上に落ちてくる。


「リディアー!!」


ラマは必死に体を起こしてリディアを跳ね除けた。崩落した岩がラマの脚に落ちる。


「ぐっグァー!!!」


青い血がおびただしく飛び散る。


「ラマー!!!」


そこにアズールがかけつける。

アズールはリディアから、ラマにこの祠に呼ばれているのを聞いていた。



「アズール!!リディアを連れてこの祠をでろ!!」


「バカ言うな!!ラマ今助けるからな!」


「無理だ。何も使わずにこの岩はどかせない。だから今はリディアを連れて出ろ。

俺はそれからでいいから……。」


「そんなのダメよ。2人でやれば岩くらい動くかもしれないわ。私だってすこしは……。」


「……。ラマ……必ず助けに来るからな!それまで絶対に死ぬなよ!!」



「死なないよ!リディアを頼むよ……。」


「わかった……リディア行くよ。」


「でも!!」


「大丈夫だよ。ラマは死なないよ。」


2人は村まで走った。

後ろは振り向かずに全力で走った。

リディアの手をとって、

揺れと落下物と地割れによけながら、

ただ前を向いて必死で走った。


村を目の前にして2人はようやく足を止めて、後ろを振り向いた。

青い空が燃えるように赤く染まり始めた。



祠の方に空から大きな石が降ってきた。

大きくて黒光りして禍々しく、

真っ赤に燃えた赤い石が……。


それはもうあっと言う間の出来事だった。


それにも関わらず、

隕石が火の尾を燃やしながら、

ゆっくりと滝の裏の祠の方に落ちていくの

景色がやたらとスローに見えた。


そして爆弾でも落ちたかのような、

この世の果てをも感じさせる

爆音を轟かせて隕石は地上と接触したのだ。


その衝撃と立ち上がる粉塵で…島にいる全ての生命が一度活動を停止するように気絶して深い眠りについた。

これが後に語り継がれる。

「red meteor赤き流星」だ。



何日間か、何時間か、はたまた何ヶ月か、

その時この島の時の流れは明らかに停止していた。


アズールが目を覚ました時には、もう何人かの人間と竜人りとが動き始めていた。

誰もが皆その時何が起きていたのかを、すぐには理解できず呆然と時を過ごしていた。

けれどもアズールは違った。

すぐにリディアを探し出して、

彼女が無事なのを確かめると、

その足で祠に向かった。

どこかに隠れているかも知れない。

もしくはすでに誰かが助け出したかも知れない。けれどもアズールは絶望した。


隕石が落ちたのが、

まさしく祠の真上だったからだ。

冷めた隕石はまだ…禍々しく黒光りして、

負や死を思わず不快な臭いを漂わせいた。


そこには『ラマ』の影も形もなかった。

彼は大きな声をあげて泣き崩れた。

ひとしきり涙をながして祠の上を見上げると

大きな丸い穴が空いていた。

その穴から青空がみえた。


「まるで蒼い月をみているようだな。」


その時アズールは決意した。

ラマと2人で語らいあった理想の世界を作ろうと……。



それが150年ほど前の出来事。

このを建国した初代国王の

 『アズール ラクシミ』様の話さ……。



長い時間かけてゆっくりとAzure王国の建国にまつわる蒼き月の話を語ったあと、老婆は用意してもらった白湯さゆを「ズズズ」と音を立てて飲んだ。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


老婆が城を訪れたのは昨晩遅くの事だった。

守衛の男から気味の悪い老婆がいると報告を受けて、アズール騎士団の部隊長『カイン』は城門へと向かった。


紫紺しこんの鎧を好み細く長い特注の剣を腰から下げている。鎧の後ろからは、深く青いダークブルーの尾が凛と伸びていた。

カインは竜人だ。


「婆さん。どうした?」

少し警戒しながら老婆の様子を伺う。


古びたとてもキレイとはいえない、

薄黒い灰色のローブに身を包み、

腰はすっかり曲がっていて、顔まですっぽりとフードを被っていて顔もよく見えなかった。

その割に指には煌びやかな銀色の指輪をいくつもして、明らかに由緒のありそうな魔力の溢れた杖を手にしていた。


「なんじゃ……竜人の小童こわっぱかい。私は王にお目通し願ったのだがね。」


老婆はじっくりとカインの方を見ながら、格好に似つかわしくない高い声でそう答えた。



「うん。わかってるよ。でもね王様だって暇じゃないんだ。」



「そんな事はわかっているよ。けれどね、伝えなければならない事があるんだよ。」



「そうか。そしたら俺が伝えてやろうか。」



「いやおまえさんじゃダメなんだ。王家に関わる話だからね……。」



王家にね……全く面倒な事だ。このままじゃらちが開かないなー……。

どうしたものかね……?そう悩んでいると

後ろから誰かが来る気配がして即座に振り向いた。



「ならば私なら話してくれるかい?セル婆様。」



その男は肩に蒼い月の家紋の入った白地に金色の刺繍をあしらった壮麗なフラックに身を包んでいた。普段は知的で聡明な眼差しに誰もが近寄りがたい存在だが、

驚くほど温和な表情で老婆に話しかけた。


「ノエル殿下。」


思わず後退り姿勢を正すカイン。

老婆はローブのフードをあげてシワクチャな顔をよりシワクチャにして微笑む。


「殿下お久しぶりでございます。」



「そんな呼び方やめてください。おいカインおまえセルポワ様を忘れたわけじゃあるまいな?」


「えー!!マジでか!!セル婆なのか?おいおい、いったい何年生きてるんだよ!」



「セル婆。それでそなたは何を伝えに再びこの地を訪れたというのだい?」


そう言って一頻ひとしき

『蒼い月と儚き王家の話』をし終わると、

自ら抱えた深い深い宿命について語り始めた。



「物事には必ず表と裏があるんだよ。それは時には上と下であらわされたり、善と悪とか、陰と陽とかであらわされたりする。

太陽と月もその一つなのだがね……。

この国の抱える太陽と月の秘密を、

私は今日話さなければならないのさ。

私がね200年近く生きるのを許された理由がねはっきりとわかったんだよ。」



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