第24話 夢跨ぎ②

「……ひろ…美宙!どうしたの?ボーっとして……。」


「え?」


「え?じゃないわよ。珍しく自分で起きてきたと思ったら、ボーとしちゃって……ほら次の三者懇談のプリント書いておいたしね。

忘れずに学校に持っていきなさいよ……ってちょ、ちょっとお醤油!!こぼれてるって!!もう。なにしてるの……」


なんとなく先程まで見ていた壮大な夢の世界からまだ心は抜け出せずにいた……。

内容はよく覚えていないのにね。


「あっそういえば、今日夕方に修理しにくるからね。」


「何の話?」


「やだ何言ってんの?あなた本当にボケてるわね。昨日言ってたじゃない、鏡無いと髪のセットができないって。とりあえず割れた鏡を直さないと。」



「え?割れた鏡?それって八咫やたの鏡?」



「ん?何それ……?あなた本当大丈夫??『ヤタノカガミ』ってなんのこと?割れたのは鏡台の鏡じゃない。昨日急に割れてしまって……お母さんの嫁入り道具だったのにね。」



「あ……うん。」



なんなんだ?八咫鏡って?

だいたい八咫やたなんて漢字…見たことも習った事もないのに、口にした時にはすっかりその漢字を思い浮かべていた。

私はいったい何を見てるというの?

そう思うと急激に強烈な頭痛がしてきた。


「ちょっと美宙?どうしたの大丈夫?」



。。。。。


「……さま……メイクウ様。」


「おかあさん……ん……?誰?」


「ヨハンでございます。大丈夫ですか?」


「あ……あー大丈夫よ。それで……なんの用?」


「はい。部屋から大きな呻き声が聞こえて聞こえてきたもので……何か不具合があったのかと……。」



「大丈夫だ。」


「ところで、メイクウ様のご指示通り、この町を我々赤き月の民が治め、庶民を啓蒙けいもうする準備が整いました。メイクウ様もご準備いただけますか?」



「啓蒙……?あー。わかったわ。」



「では、私は部屋の外で待機しておりますので準備ができたらお声かけください。」


「うん。」



……なんだったんだ?今のは……


確かに時々自分ではない何かの夢を見るが事はしばしばあったが…今回は少し異質だった。しかも

何か違う名前で呼ばれたような……、

それに……サンシャコンてなんだ?

武器か?それに……茶色い液体で皿が満たされたような……。

そして優しく温かい愛に包まれたような

そんな気持ちだった……。



「ふふふふ……バカな……ヘタレの夢だな。いったい私は何を望んでいるのだというの?笑えるわ。」



まるでメルヘン世界に迷い込んだような、

世迷事よまよいごとのような夢に少し笑えて、少し腹が立ち、そして少し寂しい気持ちになった。



「あーあ。まったく面白くない。AZUL城の陥落こそ、一筋縄では行かなかったが、この町を落とす事など赤子の手を捻るようなものだったなー。」


などと夢の動揺を紛らわすために、

大きな声で一人呟く?


「アルベルトを行かせてしまってすごく寂しいー気持ちだわ。こんなんだったらチャウなんか行かせないで私が変装でもして、一緒に行ったらよかったわ。こんな町ヨハン一人でなんとでもなりそうじゃない。」



「あの……。」



思わぬところから声がして「ビクッ」する。



「何よヨハン!!まだそんなところにいたの?!びっくりするじゃない!!」



「メイクウ様。すいません。少し気になる事があったもので……その…一つご意見させていただきたいのですが、今メイクウ様がここを離れたら誰がこの民たちに、竜人りとこそ、この島の本当の種族で歴史に伴い世界は竜人中心に回すべきだと演ずるのですか。それに……。」



「ちょっと待ってよヨハン…あなた私を買い被りすぎよ。私は竜人ではないし、この町の連中にどうして竜人中心の政治を説き伏せるというの?前町長は竜人なわけだし、そういう意味ではヨハンお前の方が演説には向いていると思うけどね。」


「メイクウ様!」


「ふふふ。慌てたらダメよ。大丈夫、私はここから逃げたりしないわ。あなた達とともに冥竜王様の為にこの星を制するわ。」



「その言葉とても心強いのですが…。」



「何よ、まだ何が不満があるわけ?」



「不満というか……申し訳ありません上官であるメイクウ様に楯突くわけてばありませんが、私はあのアルベルトという男が気に食いません。」



「ふーん……どこが?」



「それは……なんとなくです。メイクウ様は

あいつを染めてるつもりかもしれませんが、

私から見たらメイクウ様の方があいつに染まってきているように感じます……。」



なんなのこいつ何様?……なんか苛つくわ。

これだから男っていうのは面倒くさい。

まさかとは思ったがチャウの言った通りか。

まー可愛さも罪かしらね……。

そう思うと笑えてきた。



「ふふふ。なんだお前……嫉妬か?私がアルベルトを可愛がってるのが気に食わないのね。」



「めっメイクウ様!!」


少し呆れた表情から怒りの顔つきに変わる。


「ふざけないで!!星の命運のかかった戦いに私情を持ち込ままないで!!」


すっかり真顔になるヨハン。


「も、申し訳ございません。」


後退りして膝を立てて座り込み、

必死に許しを乞う。


「こっちへ来なさい。」


やけに優しい声色に余計に叱責されるのではないかと恐怖にかられて声がでない…。


「ヨハン。」



そのままヨハンを抱きしめて頭を撫でる。


「お前の気持ちはわかったよ。けれども私は私のしたい様にするよ。お前はそれでも私に着いてきてくれるかい?」



すっかり力が抜けて神妙な面持ちも、

緩んだ男の顔になる。


「もちろんです。メイクウ様。」


全く。

男なんてめんどくさい…。

女よりずっと嫉妬深いじゃないか。

どんな戦士も、

どんな術師も、

結局男のということは

変えられないのね。

本当にバカでそして愛おしい生き物……。

ちょろいものだ。


しかしそれよりも……

私の中にみつく

いくつかの人格……。

記憶なんて物はほとんどないはずなのに、

潜在意識の中では存在を示している。

少なくとも二つだ。

一つはイヨとかいう女、

そしてもう一つは

ミヒロとかいう女。

なんだかいつかこの二つの人格に私の心は巣食われるのではないだろうか?という漠然とした不安が拭えない。

とはいえ……具体的に何かが起きているわけではない今、私に出来るのはきっと与えられた使命を全うする事だ。


やってやるわよ。

侵略と征服。

そして冥竜王様への恩義を返して私は、

私の人生という

大きな空を自由に飛び回るのよ。



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