第25話 かけひき①

「眩しい!!?」


それはよく寝た後の朝日を浴びる時の様に眩しすぎて、ディアナは目を開こうにも開く事が出来なかった。



いったいなんの光なの?

すっかり深い眠りについてしまって、

前後の記憶が曖昧だ。

目が開けられない。

というかここはどこだったかしら?と、

うっすら夢現ゆめうつつと現実の世界を受け入れ始める。

昨日はいろいろとありすぎた……。

月の祠に祈りを捧げて、

タケルと出会い、

アルベルト兄さんが黒い闇に包まれた……


そういえばアルベルト兄さんが戻ってきたんだっけ?あれそれは夢?

いや……それは現実のはずだ。

その後たしかノエル兄さんの提案でみんなで睡眠をとる事にしたんだった……。

段々と目が慣れてきて目の前の光景がみえてくる。

けれども今ディアナの目の前では夢であってほしい出来事が起きていた。




「光の剣リュミエール悪しき力を薙ぎ払いたまえ!!」


ノエルの剣が光を纏う


『tondre』


ノエルが光を纏った剣でアルベルトに切りかかる。


けれどもAZUL王國の騎士団長は一筋縄ではいかない。しっかりと自身の槍で受け止めて

ヒラリと避け切った。



「ちょっと待ってくれよ。どうしたんだよノエル兄さん。正気の沙汰かい?」


と苦笑いしながら槍を握り直す。


「君こそ正気かいアルベルト。その闇にまみれたすすけた心でよくもまぁ平然と話ができたものだね……。」


と真剣な眼差しで両手でもう一度剣を握り直した。



「カインそっちはどうだい?

かよわいただの女性だったかい?」


「ノエル様……そ…それが……こいつは……。」


ディアナはあまりにも衝撃的な出来事に声も出せなかった。今まで二人の兄はお互いを尊重し合い喧嘩などした事がなかったからだ。どうしたら良いか分からずカインの方は目をやる。ところが……




「クラムだろ?お前クラムじゃないのか?」


少し上擦った、らしくない声でそう言った。



「ふふふふ。知ってか知らずかわからないけれど……メイクウ様も罪なお人ね……。」

と小声で薄笑い呟くチャウ。



「お兄様!!」



「やっぱりクラムなのか!!」



「……とでも言われたいの?悪いね妹ちゃんの体は私の支配下にあるだよ。それでも戦う?」



「妹を支配だと……お前いったいなんなんだよ?!」



「知りたいの?残酷な真実を?」



「残酷な真実?どういうことだよ……。」


「私は眠りの森の池に住んでいたレムヒルよ。お前がこのを池に連れてきてくれたんじゃないか。」



「レムヒルだって?!じゃーまさか……」



「そうさ。身に覚えがあるだろう?お前が目を離した隙に群れで襲ってやったのよ。そして最終的に群れの中で一番優れたこの私が、この女の宿主となったわけだ。

ところがだ……、

しっかりと巣食う前にお前達の母親の魔力で抑えてこまれてしまってね困っていたんだよ。」




「巣喰う?レムヒルは吸血して生きる生物じゃないのか?」



「全く…察しの悪い男ね。レムヒルっていう種族はね、ただ生き血を吸って生きている下等な生き物じゃないんだよ。動物や人に寄生して母体を乗っ取るそういう生き物なのさ。つまりお前の妹は私が乗っ取った。それだけよこと。」


まるで上から馬鹿にしたようにそう言った。


「貴様……今すぐ叩き切ってやる!!」


剣を構えてチャウに斬りかかるカイン!!

チャウはうすら笑いながら、急に表情を変える……。



「お兄様やめて!!」


ひるで剣をおろすカイン。



「お兄様……助けて……わたし……わたし……」


「クラム今助けてやるからなー!!」


「わたし、こわいーー……なんーてね(笑)」



「くっくっそー!!」



「甘ちょろいやつだね。妹には手出しできないよね?ふふ、ならば妹の体でずたすたにされるかい?」



そう言いながらチャウは手の平から謎の触手を伸ばした!が……。



陰念いんねん



ディアナが放った黒き火の鎖がチャウの触手を払い除けた。


「カイン何してんのよ!!」



すっかり傷心した様子で力が入らないカイン。

自分にとっての汚点であり、恥であり、申し訳ない気持ちでもあり、生きる目標でもあったクラムの存在が、完全に他の者の魂に塗り替えられてしまった。



「ディアナ……俺は……俺のせいでクラム……妹はこんな奴に巣喰われてしまった。俺があの時クラムを言い聞かせて、眠りの森に連れて行かなければこんな事ににはならなかったんだ。」



「何の話よ。今はそんな事言ってる場合じゃないでしょう!!しっかりしてよ。」





「お取り込み中悪いけどね、正体がバレてしまった今ここに長いは不要なんでね、退散させてもらう事にするよ。アルベルト行くよ。」



ノエルの攻撃を避けながら隙を見て入り口側に下がるアルベルト。


「待て!!」

とノエルが呼び止める。



「アルベルトもお前が……」



「ふふふ。いやまさか。媒体できるのは一つだけよ。アルベルトは元から裏切り者なんじゃない?ふふふ。」



とまたもや馬鹿にしたような口ぶりで話す。


「ふざけないで!!アルベルト兄さんはそんな人じゃないわ!アル兄さん早く目を覚まして!!」



「ディアナ……ノエル兄さんになんとか言ってくれよ……。」


と同情を誘う目でディアナを見つめる。


「アル兄さん……。」


「女々しい奴だ。ディアナ聞く耳持つな。今のこいつはアルベルトではない。」



「アルベルト早くこっちへ来て。」



「チッ!!くそっー……。」

と舌打ちして小さく呟くアルベルトにディアナは嫌悪感を覚えた。



「ところで…」


と、険悪な話をかえるようにチャウか先程までの生意気な態度を改めて話はじめた。


「物は相談なんだけどね第一皇子様。正直な話、我々も手ぶらで帰るわけにはいかないのよ。私たちはね、この城を手に入れる為に、この鬱陶しい大樹を薙ぎ払うようにおおせつかったわけ。でもね、そりゃ一筋縄では行かない事くらい察しがついているわ。だからね、私のこの体もアルベルトも傷つけないかわりに、この結界の解き方を教えなさいよ。」




「ふふふ。交渉かい?なかなか知的な母体を、手に入れたのだね。けれどもチャウ、お前がお前自身の母体を傷つけるわけはないし、

それにアルベルトを傷つけないという保証が何処にあるんだい?」



「そうねそんな保証はないわ。それはもう正直な話信じてもらうより仕方がないわね。」



「面白いひとだね。それでは我々のメリットなどないではないか。」



「ではこうしようか……。」


そう言ってしばらく黙り込んだ。


「どうしたの?どうしようというの?」

沈黙に耐えきれずディアナが言った。



「ふふふ。ごめんね。お待たせして…こうするのよ。」


突然床から触手が伸びてカインの首に刺さった。

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