第29話 冬青 そよご
ソフィアを通してこの国の君主である、
レオンハルト・アズール王に御目通りする事ができた。王は素性のわからない
今起きている事の詳しくを話してくれた。
そして私は確信したのだ。
この魂は私の求めている『生ける魂』なのだと。そして私はソフィアとレオンハルト王に祈りを捧げる提案をした。
おそらく『継魂儀』を使えば魂の取得は可能であろう。けれども壱与自身がこの場に居ないのに、その生ける魂をどの様に自分の世界に持ち帰ったらよいか……まだ見当がついていなかった。それに……→
。。。。。。
月の無い夜……、
それは書き上げた文面が気に入らなくて、
墨で塗りつぶした様だ。日常に起きた嫌な事をむしゃくしゃした負の感情で塗りつぶした様に、拭っても拭いきれない何かを、どうにかして消し込もうとする心の病みのような闇のでしかなかった。
暗い森を歩く為にレオンハルト王が、
光のベールを魔法で作り出す。
その光のベールはそれぞれを包み込むように光の泡を纏わせた。
そのおかげで自分の周りだけは仄かな光を放つ。その光を受けて森に自生する
その光を頼りに前に進むことにした。
一国の王でありながら、レオンハルト王が、
自ら先頭を歩き、皆の道標になり前を進む。それを頼りに4人で月の祠に向かう。
どれくらい歩いただろうか?
闇夜を歩くという事は
時間的な感覚を麻痺させる。
ましてや地理感のない知らない土地だ。
歩いても歩いても闇ならば、
本当に前にすすんでいるのか?
という不安気持ちにさせる。
そんな事を考えながら前に進むと、
前方になにやら
その樹は雄雄しく立ちはだかり、
けれども
深い闇の景色の中、妖艶と言えるほどに、
華やかに白桃色の花びらをいっぱいに広げてして存在感を示していた。
あまりの美しさに、
つい歩みを止めてしまった。
白とも桃色ともとれる花びらは
暗い夜の森を文字通り華やかに彩る。
あまりに幻想的で美しく、
トキマカセノミコトは
急いでいるにも関わらず
思わず足をとめて見入ってしまったのだ。
「美しい。夜ざくらのようだな……。」
と故郷の風景を思い出し口にだす。
「きれいでしょう?この時期にしか咲かない『rosé《ろぜ》』という花の樹です。トキマカセの世界にもあるのですか?」
とソフィアが言った。
「うん。ありますよ。よく似た花の樹が、『さくら』という樹です。けれども……。」
『さくら』とは
少しだけ違うところがあった。
その大樹の木の枝や花の間のところどころに、丸くまとまった枝葉があるのだ。
それが美しくも奇妙な感じがした。
「けれども『さくら』にはあの様な美しくも奇妙な丸い枝葉はありませんから。」
「あら……本当ね。でもトキマカセ、
あれは『rosé』の枝葉ではありません。roséに寄生する。『
「そよご?!」
それに……→トキマカセは悩んでいたのだ。
壱与にはなんとかすると言ったものの、
何かよい方法はないかと調べてはみたものの、やはりこの小さき世界の限られた歴史と書物では手がかりをみつけるのは難しかった。
「
「冬青はいわゆる
体内に取り入れて、他の木の上で排出する。
生態系においてごく当然の事だけど、この冬青の種子はその木の枝に寄生して、太陽の光を浴びて、時々冷たい雨に晒されて、青い冬を越えて、心地よい春風を浴びて、親樹と共存するの。
もちろん親樹にとってもメリットはあるわ。
冬青の黄色い小さな実はとても甘い香りを出すの。だから沢山の鳥が親樹に集う、
そうすると葉を喰らう虫たちはみんな鳥たちが啄んでくれるわけ。」
『共存。』トキマカセにとってそれは、
今何よりも探し求めている手段だった。
『
力を加えれば、あるいは魂の共存は可能かもしれない。
。。。。。
新たな力を創造する。
それは「危険」と隣り合わせの「挑戦」である。
『新しい術を創り出すという事は想像力の具現化だ。どの様な術を求めているのか?それにはどんな物を組み合わせがよいのか?それはその物をよく知り、その物を受け入れ、
その物を一つにしたいという、創造主の想像力が鍵となるのだ。」
亡き師でもある、父の言葉が突然蘇る。
「失敗を恐れるが故に前に進めないのは、
やはり生き抜く上での大罪である。」
「どうしたのトキマカセ?冬青に何か興味があるの?」
「ソフィア様。この冬青という宿木の種子は手に入れる事は可能でしょうか?」
「もちろん。ほら。」
そう言って足元に落ちている黄色い可愛らしい木の実を拾ってトキマカセに手渡した。
トキマカセはそれを手にして、
また4人で祠を目指した。
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