第30話 空の迷い子、魂を繋ぐ

チクタクと時を奏でる音たちが、

進むべき道へといざなう様だった。

景色のない光と闇の織り混ざる

灰黒いその先にいったい

どんな世界が待ち受けているというのだろうか?期待と不安が交錯し続けながら、

一歩一歩と確実に足元を踏みしめて前に進んだ。ついに先に見える世界の光をみつける。


「ここはどこだ?」


光が見えた割には辿り着いた場所は

闇の中だった。

仕方がないので闇になれる為に暫くその場で立ち止まり目を瞑った。


「暗闇になれるには目をつむってね、それから10数えるのよ。」

そう昔母親から教わった通りに頭の中で10数える。それからゆっくりと目を開けると闇の中の景色が少しづつあきらかになる。


「洞窟……?何かの祠だろうか?」


実体がないせいか、なんとなくフワフワと地に足がつかない様な感触がする。

それに自分がいったい周りの人間に見えているのか、(まだ人には出会っていない)どうしてこの知らないで世界で生ける魂を探し出したら良いものか……よく見ると祭壇の様な物が組まれている。


「どうやら祭壇をくめるような生き物(人であって欲しい)は存在するようだな。」


その祭壇には何やら禍々しい黒光りした石が……。


「なんだこの石は?」


危険と感じながらもその石に手を触れてみる……すると頭の中に強烈な思念が流れこんでくる。

まるで新しい記憶を植え付けられている様な、白い真っ新なノートに次々と文字式と知らない言語が書き込まれていく。

するとどうだろう。

まるで昔からこの場所に住んでいたかの様な気分に陥るのだ。



「誰かそこにいるの?」


思念の流れが終わったその時だった。

よく見ると祭壇に向かう為の道らしき方向に、ボンヤリと光が灯っている。

どうやら人がいるらしい。

しかも言葉も理解できるし通じそうだ。

ただ……自分の姿は見えているのだろうか?

という疑念が払えず声をかける気にはならなかった。


段々とこちらに近づいてくる。


「あなた……誰?こんなところで何してるの?」


「見えるのですか?」



「?どういう事かしら?見えるに決まってるじゃないの。それとも何?あなたは幽霊かなにかというわけ?」


あながち間違えではないが、ややこしいので

黙っておくことにした。


「いえ。あの……私は気がついたらこの場所にいたのです。つまり正直ここがどこだかわからないのです。」



「空の迷い子ね。」


「空の迷い子?」


「そう。時々ねこの祠にはどこから入り込んだかもわからない、生き物がいるのよ。鳥だったり、獣だったり、ひどい時は魚の死体なんて事もあるのよ。この祠には水の流れはないのにね…でもね人がいたのは初めてよ。だからどうやって辿り着いたか是非聞いて見たいものね。」



経緯を話すべきか正直なやんだけれど、

説明をするには少し難しすぎた。


「申し訳ないがどうしてこの場所にいるのか、あまり覚えていないのです。私はトキマカセノミコトと申します。ある目的の為に旅をしています。」



「あら、ごめんなさい。私ったら名乗りもせずに話しかけて。私はこの国の神官長を務めるソフィアと言います。トキマカセノミコト……長い名前ね。」


「トキマカセとお呼びください。」


「わかったわ。トキマカセ。それであなたのいう、ある目的とは何?理由によってはこの場で立ち退いてもらわなければなりませんよ。」



そう言いながら杖をトキマカセの前に構えてみせた。


「……少し難しい話になりますが、単刀直入に言いますと、私は時の神の御使でございます。それでその時の神のお告げで、ある魂を救い出しにやってきたわけです。」



ソフィアは杖を下げて少し真面目な顔つきで話かけた。



「なるほど。初めから悪意はないのはわかっていました。時の神?ですか。気質みたいなものかしら?正直存じ上げないですね。

どの様な神様なのか私にはわかりませんし、

到底簡単な話ではなさそうね。

でもね……なんだか今会ったばかりのあなたにいう事でもないんだけどね、実は私は救うべき魂というところで心当たりがあるのです。聞いていただけますか?」


「え?心当たり?!」



「はい。もしかして関係ないかもしれないそれでも聞いてくださる?」



「はい。私に協力できる事ならばさせてもらいます。なので是非教えていただきたい。」



「実は我が国の王妃が双子を妊っておられるのですが、原因不明の腹痛にみまわれているのです。それもあって今日はこの祠まで祈りを捧げにきたのです。いろいろと試してはみたものの、何も得る事ができず困り果てていたのです。もしかしたらトキマカセに救いを求めている魂というのは、その双子の姫様の魂ではないでしょうか?それはいささか都合ほ良い考えでしょうか?」



ドクンと脈動の音が体の中に響き渡った。

トキマカセミコトの中で全ての時を繋ぐ糸の絡みがスルスルと解れていくようだった。

何かが何かを求めていて、

その何かに巡り合った時、

それはきっと偶然なんかではなく、

必然だったのだと悟った。



「いやソフィア様。今日この祠に私が落ちて、ソフィア様が祈りを捧げに来なければ、

きっと魂たちは交錯してすれ違っていったかもしれない。私はその双子の魂を是非お救いしたい。」



運命の巡り合わせとは長い時間をかけたものではなく、突然現れるものなのかもしれない。



そしてはた2人は城へと向かった。





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