第44話 逃走
『冥』の重さで立っているのもやっとだった。それほどに人型生命体の待つ感情という物は厄介極まりなくそして苦しい……。
と膝に手を置いて踏ん張りならチャウは思っていた。
単細胞生物は感情も、なければ脳なんてミジンコほどしかないのに、生命として『種を守る』というその本能だけは有耶無耶にできずにこの娘に喰らい付いた。
けれどもこんな事ならば……、
人型生命体として感情という『冥』を感じなければならないのなら、
私は
冥の重圧に耐えながら感じながら、
アルベルトを見ると彼は押し潰される様なその重圧にひれ伏すように、地べたにうつ伏せに倒れ
「アルベルト!!」
まさか?
冥に押し潰されて死んでしまったのか?
となんとかアルベルトに近づいてみると、
彼は目から涙を流して嗚咽しながら、
魂の抜けた様な顔をしていた。
私がこんなにも感じずもよい重圧に耐えているのに、こいつは直ぐに重みに耐えかねて項垂れるのかと、なんだか情けなくなって、
出来るだけの痛み重みを声に出して叫んだ。
「ヴォー!!!!!!!!!!!!」
苦しみを声に出してみると、先程まで感じていた『冥』の重みも苦痛も、不思議と振り払えて、そのまま体の中から溢れるアドレナリンの衝動でアルベルトのところまで駆け寄って、頬を思い切り引っ叩いてやった。
「くくくく……やるじゃないか!!」
とハーデースは手を叩いて喜んだ。
「仲間割れかい?それも良いね。虫女、お前なかなか感情的だね。すっかり人間気取りだね。やっぱり女はそうじゃなくちゃねー。」
と小馬鹿にするように嘲笑った。
「うるさい黙れ!!」
冥を払い勢いづいてそう言った。
それから今度はアルベルトに向かって、
「おいアルベルトお前は何がしたいんだ?!メイクウ様を奪回するんじゃなかったのかよ?!こんなところで寝ている場合じゃないだろうが!!」
けれどもアルベルトは微動だにせずに、
口元でもごもごと何かを喋った。
「俺が……AZUL一族が貫いた正義とはなんだったんだ?それが人を不幸にするなら、やはりそれは自己満足でしかなかったのか?」
それを一字一句聞き逃さずに間髪いれずに言葉を返すチャウ。
「そんな事知るか!!だいたいお前は今までAZULの国の為だけに生きてきたのかよ?
そこにお前の考えや意志はなかったのか?
甘ったれんなよ!!お前は自分の生き方に責任もてよ!!」
「………生き方に責任?……。」
そこでまたハーデースが杖を地に一突きした。そうしてまた大きな『冥』の重みが二人を襲いまるで頭が切り離されたかのように、
ふわりふわりと空間の歪みにさらされた。
「ふふふふ感動的だね。大の人間の男が虫女に説教される。やっぱり厄介なのはいつの世も女の方だね。お望みならば、虫女お前の方から消してやろうか?」
と今度は杖をかざして
目を大きく見開いた!!
全身の毛穴が開くのを感じた、
寒気がして鳥肌立ち、
なのに汗が止まらなかった。
冥の重圧で身体中に重みを感じて、
さらにハーデースの威圧で感情が崩壊しそうで涙腺から涙が溢れた鼻水が垂れ、
口の力が入らず涎に塗れ、
全身から老廃物が漏れ出すようだった。
「ぐっあー!◯✖️△⭐︎⁉︎!!✖️▪️〇!!!」
声にならない声で悲痛の叫びを訴えながらチャウがのたうち回って床に転げた。
「ちょっと人と関わったからって、なんでもわかるつもりになるんじゃないよ。負の感情の流動はこんなもんじゃないさ。闇は闇を生み続ける。眩しい光がある限りそこに闇は付きものなのさ。ひーひっひひひぃー!!」
と狂気に満ちた甲高く 悲鳴に近い笑い声が、天井の高い礼拝所に響き渡った……その時だった。窓の外が激しくフラッシュをたかれたように光を放った。
「
雷?!と思うや否や建物に轟音が鳴り響き、
建物を激しく振動させた。
ハーデースは体を踏ん張り、
その一瞬チャウを苦しめる『冥』の重みが軽減された。
「お前!!」
すかさずアルベルトはハーデースに斬りかかり、ハーデースはそれを杖で受けた。
「おい!!チャウ!!立てるか?」
頭を振りながら黙って頷くチャウ。
「やらしいね。自分がへたれんでいたのに、女の悲鳴を聞いた途端立ち上がるなんてね。はー立ち直りが早いねー男前皇子……。
まーもちろんこのままじゃ済まさないけどね。」
杖で剣を薙ぎ払い、
もう一度『冥』の流動を飛ばす為に握り直そうとする…ところが杖に触手?が絡まって手に力が入らない。
「チャウ?!」
「逃げるんだろう?表に早く出よう!!」
コクリと頷き剣を構えると、
「伝心雷鳴!!」
と剣に雷を帯びさせた。そのまま剣を一振りして雷の波動を近くの壁にあてると壁が爆音と共に崩れ去った。その勢いで土壁の砂煙が舞うと、アルベルトはチャウの手をとった。
「行くぞ。」
その影に隠れて二人で建物の外にでた。
するとそこには一頭の竜が待ち構えていた。
万事休すか!?と思いきや……。
「お前は……リラ?!」
メイクウの愛竜のリラだった。
リラは背中に乗れと言わんばかりの顔で、
二人をみた。
「ありがとうリラ。アルベルト乗ろう。そう言ってチャウがリラに跨るとその後ろにアルベルトが跨った。」
そうして二人と一頭はその場から一目散に逃げ出したのだ。
。。。。。。
「ふふふふふふふふふ……くくくくく………はーはっはー!!そうこなくちゃね。
戦いは一方的ではつまらないからね。
面白いじゃないか、さぞ私を楽しませてくれるんだろうね。じゃー私はじっと待つとするよ。どうせメイクウを探しにくるだからね。」
ハーデースはそのまま何もなかったかの様に、建物奥に消えて行った。
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