第45話 合流
ハーデースが追いかけてくるのではないかとヒヤヒヤしながら後ろを気にしていたが、
どうやらその様子はなさそうだ。
「よしよしリラ……ありがとうな。けれどもなんでお前あそこにいたんだ?」
と手綱を優しく引きながらメイクウの愛竜『リラ』に話しかけているとアルベルトが真剣な顔で聞いてきた。
「チャウおまえこの竜と話せるのか?」
「そんなわけないでしょう!!バカじゃないの?……。」とつい鼻で笑う。先程までの威圧された緊張感がスーと抜けていく様だった。
「リラが一人で来たって事はやっぱりメイクウ様はハーデースに連れてかれたんだね……でも助かったよ本当に。」
「それでどこに向かっているんだ?
メイクウの居場所はわからないだろう?」
「とりあえず私たち二人じゃ……今のままじゃ何もできない…だから……。」
「だから?」
「都合のよい話だとは思うけど、AZULの……お前の兄や妹達に助けを求めたらどうだろうか?」
「……そうだな。けれどもチャウ……。」
と何か思うところがある顔でチャウをみるアルベルト。
「なに?」
「いや……なんでもない。それ以上の考えは思いつかないな。じゃーAZULの森の外れの小屋へ向かおう。」
。。。。。
AZULの森の小屋には嵐の後の静かさというか、そんな筈はないのに平穏な日常のような時間が訪れていた。
一昨日の戦いからみんな疲れ果てて、
すっかりと眠りについた。(おそらくノエル以外は……。)
開きっぱなし扉から穏やかな陽の光と爽快な風を感じながら4人で食事の準備をしていた。
切りっぱなしの木を使ったシンプルなテーブルに非常食様のスープと、硬くて歯の折れそうな水気のないパン、それからその辺から採取した野生の草で作ったサラダに、やはり非常食様に置いてあるピクルスを適当に刻んで汁事かけた物が並べられて居た。
質素な食事を前に皆は手を合わせて食べる物への感謝を神に祈った。
それからみんなで硬いパンを手に取った。
「つまりカイン。あの触手女は本当に君の妹だということかい?」
とガリガリと音を立てながらパンに齧り付きながらノエルが言った。
「はい。あいつ自身もそう言ってましたし、
それだけじゃない。姿形がどうとかではなく、クラムの……妹の
歯を食いしばりながら、パンをガリガリと噛み砕き怒りを抑え込むカイン。
「バカにしやがって……。」
その横でディアナはパンをスープに沈めて、それをスプーンで押しながら染み込ませて、音を立てずに口に運んだ。
「カイン……。大丈夫よ。きっと救い出す方法があるはずよ。それにアルベルト兄さんもどうにかして正気に戻さないと……。」
「まー考えすぎてもわからない物はわからないでしょう。果報は寝て待てなんて言いますからね。待つのもまた、彼等や彼女たちの己の力を信じるという事なんじゃないかな?
どれだけ悩んでもわからない物への答えなどでないものですから。」
とピクルスの酸っぱさや感じながら
「タケルの言う通りですよ。今はまず食事をとって戦いに備えないと………。まずは城下町『ラマ』に密かに潜入してみよう。」
とノエルが結論付けた。
とその時だった。
今まで入り口から心地よく入ってきていた爽やかな風が、急に止んだかと思うと。
獣の匂いをさせた強風へと変化して小屋の中に吹き込んできた。
「どうやらそうも言ってられないようだぜ。
全く休む間も与えられないのかよ。」
とパンを口に放り込んで必要以上に咀嚼しながらカインが立ち上がって入り口の方は歩き出した。
。。。。。
その少し前……。
眉間にしわをよせて
平気な顔をしてリラの手綱をひいているが、
時折意識が遠のくような、血の巡りの違和感を感じざるおえなかった。
「チャウお前やっぱりダメージが残ってるんじゃないのか?」
アルベルトもチャウの異変を感じていた。
後ろでチャウの腰につかまりながら、
時々力が抜けるのを感じて居たからだ。
「大丈夫だ……。」
何度かその押し問答をしたが、四回目にその質問をした時に彼女は答える事が出来なかった。アルベルトは半ば強引に腰から手を離してチャウのの手から手綱を奪い取り、左手でチャウを抱きながら右手で手綱を握りリラを制御した。
途端に気が抜けたのかチャウはガクリとアルベルトに身を委ねて意識を失ってしまったのだ。
「ちょっと待ってろよ。小屋までもう少しだ。おい、リラ少し大人しく言う事聞いてくれよな。お前のボスも奪還してやるからな。」
「グゥオゥーイ。」
とリラが叫んだ。
何となく伝わった気がした。
そのまま手綱を軽く引いて、
小屋の方へゆっくりと降下していくと、
入り口からカインが出てくるのが見えた。
。。。。。
空の彼方が落ちる時 SKYFALL 雨月 史 @9490002
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