第16話 竜騎妃メイクウ 〜朱に染まれば赤〜
黒い闇玉はジワリジワリと存在感を増していた。その横にリラとメイクウはゆっくりと速度を落として降り立った。竜というのは体は大きくて凶暴なイメージを持ち気味だが、
人間と同じで賢い竜ほど静かに気高く存在しているものだ。メイクウは愛竜のリラを撫でながら餌である
「まったくこんなもののどこが美味いというのだろうか?まったく安上がりな
「ぐぇ!!」
黒い球体に近づきながら自分の作品の仕上がりを見る様に闇玉を見回す。
「う〜ん……いい感じじゃない?」
じっくり見回した後に殺気のような気配を感じて振り返る。すると銀色の狼がこちらに牙を剥いている。
「なんだお前は?腹でも空かしているか?」
「ガルルルル……!!」
「なるほどね。この男はお前の主人というわけか。まーそう腹を立てるな。別に命は取りはしないさ。ただ私の思う通りに動いてもらうだけだよ。」
「ガルルルルら……!!」
赤く鋭い視線で睨みつけるメルト。
「綺麗な瞳だね。でもそんな目で見つめられてもな……。なんて言ってもわからないわよね。お願いだから少し黙ってくれる?」
「グワン!!グーウォン!!」
「聞き分けの悪いやつだね。本当に……お前が悪いんだよ。恨みっこ無しな。」
杖を構えるメイクウ。
「
辺りに薔薇にも似た臭気が漂う。
嗅覚の強いメルトは、たちまち香りの魔力に呑まれる。歯向かう力もなくヘタレ混む。
「ちょろいものね。お前は少しそこで寝ていなさい。なに…お前の主人を殺しやしないさ。この男はこの国をの王族なのだろう?
ただ少し私の手伝いをしてもらうだけよ。」
気を取り直してもう一度アルベルトの闇玉を見つめる。なんだか常に誰かに見られているような視線を感じる。それが何かしてはいけない事をするような、間違えを起こさない様に監視されているような、そんな罪悪感にかられる。不安極まりない心情がメイクウの心を揺さぶる。
「くっそー。いったい何だというのだ?ただ私は冥竜王様の抱えている不快な気持ちを
払拭したいと思っているだけじゃないか?私は……私は間違ってない……。」
私は間違っていない!!
私は間違っていない!!
私は間違っていない!!
なんの為に戦うのか?
「それは国の再建の為じゃないか!」
なんの為に進むのか?
「それは冥竜王様の
何の為に生きるのか?
「何の為に生きるか?何のために?うるさい。うるさい!!うるさーい!!」
頭の中に流れ込む詰問に耳を塞いで、否定するように、首を横に振り続ける。
「私は負けないわ。誰かが私を否定するればするほどその否定には絶対に負けない!!」
もう一度杖を強く握りしめてそして唱える。
「
アルベルトを取り巻く闇玉にピンク色の光が
まとわりつく。やがて黒き闇のモヤは光に中和されてアルベルトはその場に倒れ込む。
AZUL王国の蒼き鎧は赤く染まってしまっている……。
「ふふふ。これでいいんだ。これで良いんだよね?ふふふ。ふふふふふ……。」
いったい誰に聞いているのか?そう思うと笑いが込み上げてきた……。肩で息をしながらひどく動揺しながら激しく鼓動するその心拍数を落ち着かせる為に、ゆっくりと息を取り込み目をつむってゆっくりと二酸化炭素を吐き出した。
その時左側からメルトが飛び込んできた。
「グワン!!」
心を取り乱した後で、気の抜けたメイクウに腕にメルトの牙がつき刺さる。
「ぐぁー。
さらに鋭く牙を剥くメルト。
「ガゥゥゥ……。」
腕から赤い血が流れて痛みに耐えて
それを見てもう一度飛びかかるメルト!!
ところが……、
「ギャン!!」
メルトはすごい力で何かに殴りとばされた。
「大丈夫か?メイクウ。」
「ふふふ。大丈夫よ。ありがとうアルベルト。」
そこには赤い鎧を纏ったアルベルトが立っていた。
「メイクウ……この狼どうする?」
「ふん。別に放っておいたらいいんじゃない?」
口から泡を吹いて白目を剥くメルト。
「そうか。それで、俺は何をすれば良いのだ?」
「そうね。私ね、もう一つやりたい事があるから付き合ってもらうわ。その後にとりあえずラマの町に戻りましょうか?あの町の統治はあなたに任せるわ。」
しかしこのアルベルトってなかなかい男ね。
「行こうアルベルト♡」
「あー。」
愛竜のリラに跨るメイクウ。
「何してるの?後ろに乗りなさいよ。」
「うん。」
竜は飛び立ち次の目的地へ向かう。
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