第17話 時任尊 〜時の繋がり〜

「まずは状況の整理が必要だね。」


とノエル様が言った。

当たり前の様だが実はとても難しい冷静な判断だ。人は混乱に差し掛かった時に冷静さを失う。昔大きな震災があった時に当時の首相は原発でわめき散らした……なんて話もある。大義を果たすという事はそれなりに大きな器がひつようなのだ。リーダーたるもの小さな器では務まらないのだろう。

だから「状況整理」とはリーダーが持つまさに気質その物なのだろう。




「そもそも今回の来襲の相手は赤き月ヴァーミリオの軍勢のようだ。」



「ヴァーミリオン?」



「数百年に一度現れる不吉な赤き月の事よ。カインは『red meteor』って知ってる?」



「あーAZUL王国建国のきっかけとなった巨大な隕石の事だろう?」



「そうよ。その隕石はヴァーミリオンかはの落石といわれているのよ。」


とカインに説明し終えたあと、今度はノエル様の方に顔を向き変えて話を続けた。


「けれどもノエル兄さん、あの竜騎士たちがなぜヴァーミリオンの軍勢だとわかったわけ?」



「ディアナ、良く知っているね。お前はどこでそんな情報を得ているのかい?」

とノエル様が関心したように言った。



「ソフィア様から教えていただきました。」



「そうか……質問は何故ヴァーミリオンの竜騎士とわかったか?だったね。それは私もお前と同じでソフィア様から教えてもらったのだよ。」


「敵襲がヴァーミリオンだと、ソフィア様が言われたのですか?」


「いや……そうではなくて人種の事をね、教えてもらったのだよ。ヴァーミリオンの民は人間とは違って尻尾をもつ種族つまり…、」


とその先を話すことに少し躊躇しているような素振りをしている。するとカインが


竜人りと……ですよね?」

と言った。



「あー。その通りなんだ。カイン君はあの竜騎士たちを見たのかい?」


「はい。先程ここに辿り着く前に竜騎士の、群衆を見ました。その時は確証はもてませんでしたが、竜人ではないかと感じていました。」


「そうか。このオーヴァルにいる竜人りとはね、長い歴史の中で何度かヴァーミリオンが接近した時に流れ着いた者達の子孫で固有人種ではないんだ。ようするに竜人りとはヴァーミリオンの生体だという事みたいだ。」


「そうなんだ……。」


僕にしてみれば、そもそもこの世界の生態系をわかっていないわけで、驚くも驚かないもなかった。むしろ生物学的な論文を読んでいるようで少し興味が湧いた。


けれどもディアナにとっては衝撃的な事実だったのだろう。彼女はその事は知らなかったようでカインの方を見つめる。


「そんなさみしそうな目で見るなって。別に俺が悪い事をしたわけじゃないんだ。竜人であろうと人間であろうと関係のない事だ。」



「うん。わかってるよ。別に変な目で見てるわけじゃないよ。ただ少し驚いちゃっただけよ。」



「カイン君のの言う通りだよ。人間だろうが竜人だろうが関係ない。私はただ君が少し動揺すると思って話すのを躊躇っただけだよ。それにこれから私たちはその竜人りとたちと戦う事になる。同じ種族同士が戦うというのは、とても辛い事だ。それでもカイン、君は私達についてきてくれるかい?」



カインは覚悟を決めた顔つきでノエル様の方を見た。


「俺にとってはAZULは大切な故郷です。それには人種とか生態とか関係無いでしょう?

俺は家族を護りたい。そしてアルやディアナと共に生きていきたい。それが俺の答えです。」



「わかったよカイン。正直君がいてくれてとても心強いよ。」



「ありがとうございます。」


ディアナもそれを聞いて安心したようだ。

目を閉じてほっと一息といった表情をしている。


「ところでノエル様。」


「どうした?」


「ヴァーミリオンの竜騎士との戦い方を考えるのもいいのですが、俺はひとまずアルベルトを助けたいのです。」



「ノエル兄さん…私もカインと同じ意見です。アル兄さんの呪い?を解きたいのです。それで私たちは城に向かっていたわけですが……お兄様は今この隠し通路を通って城から来たのですよね?神官長は……ソフィア様は今どちらにおられるのですか?」



「うん。そうだね。だがこの道はおそらく今は使えない。」



「え?なぜですか?お兄様は今そこを通ってきたのですよね。」



「先程大きく大地が揺れただろう?あれはソフィア様の極大呪文による結界が張られた音だ。ソフィア様はAZUL城を護るために自身の魔力を注ぎ込む結界をはったんだ。この建物の中にいたから外がどうなっているかわからないけれどおそらく……」


そう言いながら自分が出てきた地下道の鉄の扉を少し開けて見せる。


「やはり……ほら見てごらん。」


そこは下が見えない程に何かの木々の根が張り巡らされていた。


「なんだこりゃ?」


「ソフィア様の気質は『樹』らしい。この樹の結界はある条件無しには敗れないらしい。つまりディアナ、ソフィア様に呪いの話を聞くのは難しいというわけだ。」



「この樹の根は……。」


「うん?どうしたのタケル?」


「この樹の根はその……ソフィア様という方から発している魔法結界から成されているという事ですよね?」


僕の中で一つの閃きがあった。


「ディアナ、僕の魔法の気質は『時』という物のようだ。」



「『時』?時間という事かしら?それは過去に戻れたり、未来を知れたり、そういう力なの?」



「残念ながらそんなに都合の良い力ではないみたいだね。僕に扱えるのは『時の繋がり』という物だよ。」



「ほう……時の繋がりか。それはいったいどういう力なんだい?」

興味を抱いたのか、少し前のめり気味にノエル様が質問してきた。


「つまり……いや説明するより…出来るかわからないけれど一度やってみますね。」


謙遜はしてみたけれど、本当は出来る自信があった。僕はもう地球という星にいた時の

『時任尊』ではなく、言わばこの世界に適した人格『トキマカセノタケル』という人格に成りつつあったのだろう。

銀色の杖持ち替えて時計の部分の鎖を引いた。すると杖のように思っていた物が弓状に変化して光の糸を張りつめる。

それから昔から知っていたかのように僕は唱える。


待宵まつよい


右手光の矢が現れる。

それを光の糸にかけて僕はその樹の根を目掛けて放った。

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