第18話 竜騎妃メイクウ 〜何の為に生きるのうか〜

このAZULという島国に降りたった時に、

初めて来たはずなのに、心地よい故郷にようやく辿り着いた様な不思議な感覚に陥った。

だけど私にしてみれば、それはそれほど大した問題ではなかった。何故ならば私は18歳より前の記憶がない。私の知らない私がひょっとしたらこの地に何かしらの関わりを持っていたかもしれないから。


今の私は、ある時気がつくと王座の横に立っていたのだ。私がどうしてよいかわからずに戸惑っていると王座に座る吊り目で鼻が高くて白くて長い髭の老人が私に近づいてきてそしてゆっくりと抱きしめた。生まれてきた子供をあやす様に頭を撫でながら優しく優しくだきしめた。そして王は私の耳元でこう言った。



「よく帰ってきたね。メイクウ。」



前の記憶なんてちっとも思い出せなかったけれども、その抱擁と言葉に「ここが私の居場所なのかも」と薄っすらとそう感じた。



それからこのAZULに来た時にもう一つ違う感覚を感じた。同じ波長?というか何か近いたぐいの者に呼ばれる感覚……。



「うん。この辺から感じるな……降りるよリラ。アルベルト、しっかりつかまってね♡」


そのまま城下町ラマから少し離れた場所に降下していく。


町から少し離れた場所に一軒の家がある。

大きくもなく小さくも無い。けれどもしっかりとした門を構えている石造りの民家。

民家の横にリラを待たせて扉に手をかける。

それからいきなり開けるのも…と思い直し手を叩く。


ダンダンダン!!


と荒っぽく音をたてた。


「誰かいないの?」


空き家とかではない。生活の匂いがする。それでもう一度扉を叩く。


ダンダンダン!!


返事はない。仕方なしに扉に手をかけると鍵などかかっておらず、すんなりと扉が開く。


中では手を握り祈りを込める老婆が恐怖のあまりか「ゔーぁー」うめき声震えながらこちらを見ている。


「おい。」


口をパクパクさせながら首を横に振る老婆。

そしてまた目を瞑り手を握りしめてうめきながら祈る。


「なんだ…口が聞けないのか、わるいけれど勝手に邪魔するわよ。誰かが呼んでいるのよ私の事を……アルベルトいくわよ。」


いくつかの部屋があるが一番奥の部屋からその呼び寄せる波長を感じる。だから迷わずに

その部屋を目指して扉に手をかける。


ゆっくりと警戒しながら中を覗くと、

少しやつれた中年の人間の女性が大きな水晶玉を手に椅子に座り祈りを捧げている。そのすぐ横にはベットがあってそこには若い娘が横たわっている。どうやら祈りを捧げているのはこの娘の母親のようだ。


「あなたは誰?いったい何の様かしら?」


警戒した目でこちらをみながら母親は気丈に振る舞いそう言ったが、おそらくほとんどの生命力をベットに注いでいるのだろう。その声は力強いが覇気がない様に思えた。

どうせ抵抗できないだろうし、無駄な争いは避けたい。母親の質問には答えずにベットの女に話しかける。



「ねー……あなたでしょう?私を呼んでいるのは。」


ぴくりとも動かない。静かに死んだように眠っている。しばらく太陽の光を浴びていないのだろう。きれいな、真っ白な透けるような白さの顔をしている。


母親は相変わらず警戒心の強い目つきで言う。


「話しかけてもだめよ。娘はね、もうずっと目を覚ましていないのよ。あなたが誰だか、それにに何が目的か知らないけれど……。」


そこまで言うと息切れしたのか黙りこんでしまった。



なんだか哀れに思えて来たがしかたがない。

私には関係のない事だ。少しだけ母親に視線を向けてもう一度娘に話しかける。



「なるほど何かが君の存在を閉じ込めているのね。ならば私が解放してあげるよ。」


少し息を整えてやはり母親は覇気のない力強い声で話を続けた。


「閉じ込める?解放?何を言ってるの。このはね、小さい時にね『レムヒル』に襲われたのよ。それから決して目を覚さない眠りについてしまったの。今だって私が魔法の手を緩めてしまったら……。」



母親の言葉に耳を傾けずに

杖を構えるメイクウ。

低い声で呪いのように唱える


「發悠・気送はつゆ・きそう



すると大きな気泡が娘を包み込み……


『パーン!!』


そして弾けた。

それと同時に娘はゾンビのように起き上がり、しばらく遠くの方をジーと眺めていた。



「そんな……まさか……クラム?クラム大丈夫なの?」



「……。」


「……クラム?」


「うるさいなー聞こえてるよ。少し黙ってくれないか?今さー精神と肉体を繋いでいるんだ。」



「クラム……。ヒクッ…ヒクッ…。」

10年以上声もあげず、微動たりしなかった娘が動いている。動いた娘を見て母親が感激の涙を流し始める……。


「本当にうるさいよ。黙って……。」


そう言って手の平を母親にかざす。


「え?」


そして娘は唱える。

「ミレムアム。」


母親はその場に倒れ込み眠りにつく。


「おいおい良いのかい?魔法で手荒に母親を眠らせてしまって。」


と私は彼女に聞く。


「悪いがね、『クラム』てのはこの体の名前事で私じゃない。この体の主はやはりまだ眠りについているのだよ。そもそももっと早くこの体を支配するはずだったのに、この娘の魔力が思ったよりも強力でね。その上この母親ときたらあきもせずにずーっと魔力を送り込むものだから、なかなか内から外に出ることが出来なくて困っていたんだよ。」


「それでずっとシグナルを発していたんだね?ところで君はいったい何者なの?」


「うん。人間のいうところのレムヒルという個体さ。けれども人間のやつらは少し勘違いをしている。我々の種族は人の血を吸って生きる吸血虫ではない。人に寄生して生きる、言わば寄生虫なんだよ。だから本当はそこら辺に沢山いるはずだよ、人間の顔をしたレムヒルの一族がね。気がついていないだけさ。」



「そうなの。それであなたは望みが叶ったけれど、その後どう生きていくつもり?寄生した事で人間の世界を乗っ取ろうとでも?」



「いやわからないよ。使命なんていうのは生きながらにして感じていく事なんじゃないのかい?」


「おいおい……。君は本当に今まで眠りについていたのかい?まるで人間のような理性的な事を言うじゃないか?」



「よく言うわ。あなたも同じような匂いがするわ。あなたには生きる使命があるわけ?」



「生きる使命?ん……わからない……。けれども私は恩義のある冥竜王様の生き方に同調しようと思っている。王の為に生きるのも、また人の生き方じゃない?」



「ふふふふ。面白い人ね。とりあえず私もついていこうかしら?」



「それはそうでしょう。そうして貰わないと困るわ。その為にここに来たんだもの。」



2人で目を見合わす。

そしてニッコリと笑い合う。


「あなたの名前は?」


「竜騎妃メイクウ。こちらの男はアルベルト。

これでも2人とも人間よ。」


「ふん。不思議は人ね冥竜王の部下なのに人間なの?それにそちら男はたしかAZUL王国の第二皇子じゃない?」



「あなたなんでそんな事知ってるの?今まで人の体で眠っていたのに?」



「さーね……母体が虫だけに虫の知らせって奴に敏感なのかしらね。あなたについていくわメイクウ。いやメイクウ様。」


「あなたはなんと呼べばよい?」


「そうですね。私は人の体に媒体する寄生虫。人を喰らうという意味も含めて

『チャウ』とでも呼んでください。」



「わかった。ではチャウ我々の目的はまずはAZUL王国を手中にしてこの惑星オーヴァルを、冥竜王様と一緒に統一していく事。そろそろ長い夜が明けるわ。我々の月ヴァーミリオンの朱い粒子がこの星を覆い太陽の光は我が月の色を取り込むの。もう昨日までの蒼い世界は終わりを告げたの。」



「なるほど。星を自分の色に染めたのね。それで当面の目標は何?私はどうすればいい?」



「そうね。城下町の完全占拠、それから当面ほ目標はAZUL城の落城。」







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