第42話 冥への誘い
カップに注がれたブラックティーをハーデースはゆっくりと鼻の近くまで持っていくと大きな鷲鼻でゆっくりと香りを吸い込んだ。
それから目を細めて少しカップを離しながら
その美しい紅色の液体を愛おしそうに
「ブラックティーというのは不思議な飲み物だね。この
前置きのような詩文を聞きながら素直な感想をアルベルトは口にした。
「悪名高い冥竜王もやはり、歴史を語る詩人のようだね。」
全く嫌味のつもりなくそう言った。
それをふふと苦笑いする。
「冥とは即ち闇の事。それは、理解しているかい?」
アルベルトの表情を見て、それから少し沈黙して今から伝えるべく事をじっくりと頭の中で整理した。
「生命という存在はどんな小さな虫ケラでも与えられた命を全うする事に執着するものだ。
例えばその吸血虫のお嬢ちゃんのようにね。
生きて行くうえで仕方がなく、他の生命に媒体してそれ故に、魂や…時には命を奪う。
これは人間だって同じでしょう?
生きる為に生命を狩り、
自分の血肉に……生命力に変える。
そうしなければ生きていけないのだからね。
これはやはり生きる為の矛盾。
つまり闇「冥」でしかないんだよ。
とはいえそれは所謂生命の理だ。
けれども感情を持つ人型の生命体にとって、
最も複雑で最も醜く、
そして最も悲観的な『冥』がある。
何の事だかわかるかい?アルベルト。」
しっかりとした答えなどみつならず、
黙ることしかできない。
「それはね……『嫉妬』だよ。
つまり心の闇というやつだ。」
それから今度はチャウの方に向き直して
「それはお前が一番強く感じているんじゃないかいお嬢ちゃん。」
と言った。
「お前は人間に媒体して人として生きる事を選んだ。それ故に
嫉妬、怒り、妬み、嘆き、憎悪、羨み……
それらが
「チッ。」
と舌打ちしたものの否定できないチャウ。
「さて本題はここからだよアルベルト。」
とブラックティーを少し啜って一息ついた。
「私はね、その冥という力の最たる部分にいる。だてに冥竜王を名乗ってるわけじゃない。
その昔……もうどれくらい昔だったかね……。全知全能の神を目指した私の力を恐れて、他の神々は私の力を羨み、妬み、そして私の力を赤き星へと封じた。
私は憎んだよ。
私を封じ込めた、その全てを……全ての神をね。そうして増幅した怨みつらみは、
新しき『冥』を生み出すわけだ。
私の憎悪は強大だ。
星々の生命の『冥』はみんな私の元にあつまるんだ。それがまた私の冥を増し、力の源となり、そしてあらたな誘いを生み出す。それこそがアルベルト、お前が先程くちにした、『冥への誘い』であるわけだ。
この世の中に生命が存在する限り『冥』は増すばかり正直誘わずとも待っているだけで、
私の力は増幅するのが世の常さ。」
始めは理解などできるはずがない。
そう思っていたアルベルトだったが、
『冥』という物の考えに少し聞き入っていた。そんな彼の表情を見ながら、ハーデースは話を続けた。
「AZULの一族であるお前の祖の話だがね、
どうしてこの星が、この島がAZULと名付けられどのように誕生したかを、
お前は知っているかい?」
アルベルトはコクリと頷いた。
「この島の原住民は
そこに人間たちが入り込んできたわけだ。
けれども友好的で知的な人間たちを竜人は
快く受け入れた。けれどお前の知っての通り、この島にある時、私の赤き星ヴァーミリオンの欠片が落ちてきた。
その運命が意図的だったのか?
それとも批意図的だったのか?
それは知る由もないがね。
その時一人の竜人が犠牲になったんだ。
この街の名前の由来となった『ラマ』という男だよ。
この島は…いやこの星はね、その時にラマがこのヴァーミリオンの欠片を受け止めたからこそ存在しているわけだ。
竜人にはね、『冥』を受け止める資質があるのさ。彼がヴァーミリオンの欠片を受け止めたというのは人柱という事ではなくて、彼が守りたい何かの為にその『冥』を受け入れたという事だよ。
赤き流星とは人型生命体の怨みつらみの塊なわけだ。
怒りや苦しみは誰かに受け止められたら、
緩和するものだろう?
ここからの話は……
ヨハンお前から話すといい。」
この話の流れで何故ヨハンに?
アルベルトとチャウは目を見合わせた。
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