第41話 歴史を知らずに正義を語る

「ヨハン。ブラックティーをいれてくれるかい?」と今の状況がさも何にごともない日常か様にハーデースは言った。



ワゴンを押して来たのは他ならぬ軍師ヨハンだった。ヨハンは手際よく茶葉を真っ白なティーポットに入れて良く熱しられたお湯を高い位置から注いだ。その方がいれてある茶葉が広がるからだ。

それからしばらく沈黙を守った。

茶葉を蒸らす事が一番その葉の香りを引き立てる。それからきれいな紅色の茶をやはり白く小さなカップに注いだ。



いったい何を見せられているのだ?!と

混乱しながらも、チャウはそのアンバランスな精神と時の流れを受け入れる事しか出来なかった。



冥竜王ハーデース。

ただ名を名乗っただけなのに、その威圧的で強靭な存在感に、チャウは腰の力が抜けてよろけそうになった。それにも関わらず今、目の前で準備されているのは、まるで優雅な貴族の茶会だ。

そうしているうちに、ブラックティーの乾燥した茶葉がゆっくりと潤いを与えられたかのように、心地の良い香りが漂わせる。

チャウはあまりの困惑に頭をかかえる。

それをアルベルトが支える。


「大丈夫か……?」



「え?!」


いつもの抑揚のない機械的な喋り方でない事におどろいてマジマジとアルベルトの顔を見る。


「まさか……アルベルト?お前?」



あきらかにいつもの定まらない視線ではなく

鋭く精力のある目つきに思える。



「あー……。お前と、あのメイクウという女には、随分といいようにもてあそばれたようだな。」



チャウにとって絶望的な状況だった。


冥竜王ハーデースの存在感に威圧され、

そのうえ自分が部下のようにあつかっていた、木偶人形のアルベルトが正気に戻るなんて……。



「まーそう構えるな。今はお前といがみあってる場合じゃなさそうだ。お前だってそうだろう?」



「いったい……なぜ?いやむしろ、いつ正気をとりもどしたの?」



「いつと言われればきっと今し方……だろうな。まるで朝の起き抜けに入れてもらった紅茶の香りで目覚める様に……そうか……おそらくブラックティーから香る独特な香りのせいだろう……。しかもこの香りは単調ではない。おそらくいくつかの葉をブレンドしているのだろう。それにこのスパイシーな鼻をつく香りは……香辛料だろう。それが鼻の奥から心を揺さぶり精神を落ち着かせる感じが、どうやら深い眠りから目覚めさしたみたいだ。」



私をとがめない?いやまさか……これはフリに違いない。あれだけいい様に使っていたんだ。私はきっとこのあとコテンパンにしてやられるのだろう。

AZULの騎士団長に勝てる気がしない。

警戒心を解いてはならない……。

と自分に言い聞かせて、

あくまで構える姿勢をくずさないチャウ。



「それで私をどうしようっていうんだ。」

そう思いながら気丈に振る舞うつもりも、

声が震える。



「どうもしないさ……。今対峙すべき相手はお前じゃないと言っているだろう?メイクウ様を救い出さなければならないという目的はお前も一緒だろう?」



メイクウ様を救いだす?

正気に戻ったアルベルトが?

どういう事??



「なにやら疑ってるようだがな、俺は嘘は嫌いだ。白か?黒か?そういうタイプなんだよ。」




そう言いながらハーデースの方に視線をやる。



「おやおやせっかく君を惑わす呪いから解放させてやったのに、どういう見解だい?騎士殿……君にかけられたたぐいから少し解放されたんじゃないかい?」



「それはどうも感謝いたしますよ。」


と社交的にお礼を言って見せた。


「けれどもせっかく光を見出したメイクウをまた冥にいざなうのはいただけないね。」



と冥竜王相手に自分の正義を振りかざす。



「冥に誘う?ふふふ……まるで馬鹿げているね。お前に何がわかるというのだ?のはnonsenseて物さ……。まー立っているのも何だから座りなさいよ。お前たちの知らないねじゆがんだ真実を教えてあげるから。」


少し不快そうにそして諭す様にそう言った。

そうしてワゴンにテーブルクロスを敷き、

ブラックティーの入ったティーカップが三つ並べられた。


その前に簡易的な椅子を3脚並べる。

そしてヨハンは一歩下がってそのまま執事のように背を伸ばして立っていた。



「騎士殿そういえばまだ名前を聞いていなかったね。」



「これは失礼いたしました。」


と一歩下がって頭を下げる。


「私はAZUL王国騎士団長のアズール アルベルト と申します。」



「やはりAZULの息子か……。」



「アルベルト。ならばやはり君には私の話を聞く権利が……いや聞く義務があるだろう。

だからこそ私はお前の呪いを解いたのさ。

呪いの解か方は簡単だよ。呪いをかけた者の好みの香りを焚き上げるだけだからね。だからこそ私はメイクウの好みのブラックティーを用意させたのさ。」



「ではハーデース。何故私に聞く義務があるのだ?」



「それは何が正義で?何が悪なのか?今一度自分の頭で判断する為だよ。人の歴史を知った上でね。」



ハーデースがそう言うと、ヨハン以外の3人は黙って席についた。


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