交錯する魂と二人の姫

第22話 待つ事と信じる理由

小さな小屋の蔦で塞がった窓から

太陽の光の差し込んできた。

長い夜は終わり新しい朝が始まる。

朝焼けがやけに赤く見えて、

少し薄気味悪く感じる……。


カイン部屋の角で積まれた箱の上に座り俯いて動かない。おそらく眠りについている。

ノエルはやはりどこから見つけた椅子に腰を掛けて何やら書物を読みいっている。


そしてそわそわと落ち着かないディアナ。

小さな部屋を右に左に動き回り

時々小窓から空を眺めたり、

棚の物に手をやったりしていた。



「二人ともよく落ち着いていられるわね。」


「ディアナ…心配なのはわかるけれど、

待つ事もまた信頼だとは思わないかい?」


「でも…タケルが光の矢を放ってからもう2時間以上たつわ。当の本人は眠った様に動かないし、かといってそれがタケルの言う時を繋ぐという事だという確証などないでしょう?

何をどう信じればいいというの?」


「ディアナ……感情とか、気持ちとか、形の無い物というのは本当に厄介だね。目に見え無い物を信じるということは、やはり時間をかけて築き上げた信頼以上の何物でもないからね。」



「そうよ。私たちとタケルは出会ってまだ一日たったばかりよ。その何を信じて待てばよいの?」



「けれどもディアナ、目に見えている物が全てか?と言われたらそれは違うと思うんだ。

にこやかにしている人が本当に機嫌が良いかなんてわかりはしないし、一見怒っているのかと感じた時も、本当は誰よりも心配をしているのかもしれない。つまり人への信頼なんて物は過ごした時間が全てではないと思うんだ。私は少なくともこの僅か2時間少し前に会った、どこかの異世界?ともわからぬ所から来たというタケルという人間を信じてみようと思えたけどね。」



「それは何故なの?ノエル兄さん?」



「そんな事は簡単さ。」


「え?」


「ディアナ、君が連れてきたからだよ。それ以上の信頼があるかい?ディアナはタケルに何か嫌悪感を感じるかい?」



「ううん。感じない。」



「じゃーどういう風に感じるんだい?」


「そうね……昔から知っている、信頼できる…そうね幼なじみみたいな……そんな感じかな?なんでだろうね?」



「それはおそらく……」


ダンダンダン扉を叩く音。

扉の方に目をやるとそこには先程まで眠っていたであろうカインが剣の束に手を添わせて立っている。そしてノエルに目線を送る。


ダンダンダン!!

より強く扉が叩かれる。


「誰かいるのか?」


聞き覚えのある声だった。


「私は騎士団のアルベルトだ。怪我人を一人抱えている。少し休ませてもらえないか?」


カインがこちらを見る。

私はノエル兄さんを見る。

3人で目を見合わせた後に、


「アルベルトなのかい?」


「え??ノエル兄さん?なんでこんなところに?やはり城が何か樹の魔物にでも占拠されたのか?」


「カイン、開けてやりなさい。」


少し警戒しなかがらゆっくりと扉を開けると、少しすすけた蒼い鎧に身を包んだアルベルトが立っていた。そしてその横には赤の強い紫色のローブにすっぽりと身を包んだ細身の女が立っていた。


「アル!!お前心配してたんだぞ!!」


「そうよ。なんだか黒い闇の玉にすっかり侵されて声をかけても反応しなかったんだから!!」


「しかしいったいどうやってその闇の玉から抜け出したんだ?」



「カイン、ディアナ、それにノエル兄さん。

心配かけてすまなかったね。質問に答えたいのはやまやまなんだが、今はこのひとに何か食べる物を用意してやってくれないか?」



「怪我とかはないのかい?」



「うん。具合が悪いというより貧血らしくてな。」


「わかったわ。」


ディアナは棚の備蓄品の中からレトルトパックになったスープを探し出して、紙のコップに移し替えた。それを陰火を応用した魔法『緩火ゆるび』で、温めて女性に手渡した。



「冷たい手ね。はい、コーンスープよ。あなた名前は?」


スープを手にすると女性は温もりを求める様にカップをさすりながら、ゆっくりとひとくちすすった。


「ありがとう。とても温まります。私はチャウと言います。」



「チャウは俺を救ってくれたんだ。」



ノエルが興味ありげに近づいてくる。

「いったいどの様にしてアルベルトを救ったのだい?」



「はい。私は解毒、呪解、ち……とか、なんでも吸い上げる力があるのです。」


「ち……?吸い上げる?」


「どの様に?」


「それは……お見せできません。あまりにもはしたない姿なので。ご容赦ください。」



カインも会話に入り込む。

「まーそれは無理矢理聞きはしないけど……それよりアルお前にその呪いをかけたのってのはいったい何処のどいつなんだよ?」


険しい顔つきでアルベルトが答える。

「うん。『竜騎妃メイクウ』……と名乗っていた。赤い竜を操る女でな、すごく美しくて可憐でそれでいて艶やか。そして強力な魔力……。」



「ん?」


ディアナとカインは顔を見合わせた……。


「美しくて可憐で?」



「それでいて艶やか?」



アルベルトという人間は、

AZULという国を思い、

兄を慕い

妹を大切にする。

そしてカインと共に

AZUL騎士団をまとめ上げ、

まー言わば男らしい、男の中の漢

そんな男気溢れる彼から


『美しい』 『可憐』  『艶やか』


なんて言葉が出るなんて信じ難い事だった。

少し唖然として二人とも次に出す言葉がみあたらなかった。するとノエルが……


「ほぉー……美しく可憐。是非お会いしたいものですね。それでその女性はいったい何者なんですか?」



「わかりません。ですがこの国へ攻め込んできた何者かである事は間違えないです。」


「あの……。」


と遠慮がちにチャウが口を挟む。


「どうしました?」


「あのアルベルト様にはご相談したのですが、私病気の母がいまして、それで本当は今日この国の神官長様にお会いしたかったのです。アルベルト様にお助けできたのも何かのご縁。ところがどうでしょう。城にきたらこの有り様。どうにかこの城内におられる神官長様にお会いする事は出来ないでしょうか?」


カインがチャウの方をジッと眺めている。


「なるほど。しかし私たちもどうしてこの城がこの様な大きな樹に侵されているのかわかりませんし、城に入る術もわからないのです…。」


え?


いやいやノエル兄さんは入る術はわからなくても、何故この城がこの状態に至ったのかわかっているはずなのに?……とディアナは思った。それに……、


ディアナがカインに近寄り小さな声で話しかける。


「カインどうしたの?何か珍しいものでも見るような顔して。」


「そりゃ、お前…アルの口からあんな言葉が出るなんて……奇怪でしかないだろ。それに……」



「それに?」



「あのチャウって女……なんかどっかで見た事あるような気がするんだよな……。」


「何処かって…いったいどこで?」


「お前…それがわかれば悩まないだろ。」


「そっか……。」



「どうしたディアナ?何か気になる事でもあるのかい?」



「んーん。ごめんなさいなんでも無いわ。」



「まーとにかく、アルも帰ってきた事だし、ノエル様次の作戦を考えましょう。」


「うん。そうだな。その前にみんな小一時間で良い。交代で一眠りしよう。こんな時だからこそ、眠りが必要だ。」


「……確かに長い一日だった、もうクタクタだよ。」



「いやカインはさっきも寝てたじゃない。」


「zzzz………。」


「てもう寝てるし。」


「ディアナも少し眠りなさい。」


そうして交代で眠りにつく事にした。

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