第21話 時任尊 〜時を継ぐさだめ〜

「15年前、二つの生命をみごもったアナベル王妃は原因不明の腹痛にみまわれたの。あなたは知ってるかわからないけれど、このAZUL王国はずっと男系家系で血のつながりのある姫君は一人もいなかったの……。だからAZUL王国初の姫君の誕生を失敗に終わらすわけにはいかなかった。助産師もそれから我々神官もどうにかして二人の姫を救おうと必死だった。


けれどもどんな回復魔法も、施術もなんの効果もなかった。どうにも出来ずにレオンハルト王を含めてみんな途方に暮れていた。

そこに現れたのがトキマカセノミコトだった。


彼は言ったわ、


『運命のたねに、二つの実はならない。一つの命を護るには一つの命を剪定しなければならない。』


『運命の種?選ぶ?』


『宿命を背負うのは1人だけだ。それはあなたたちで決めるべきだ。』


けれども剪定なんて出来なかった。

生まれてくる生命を自分達の都合で選ぶことなんてね。」



「なるほど……。でもそれでは何故、ディアナだけが生まれて、その生命の存在は無かった事になったの?」



「トキマカセノミコトは言ったわ。


『私がこの島に流れ着いたのも何かの運命さだめかもしれないし、刻の繋がりの意図するものかもしれない。私に今できることがあるとすれば、ただ死にゆく生命から刻の繋がりを変える祈りを捧げる事だけだ……。

ただしそれを刻の繋がりを公にされてはならぬ。』


とね。みんなそれに賭けるしか無かったのよ。それでトキマカセノミコトと私とレオンハルト様と二人の神官で新月の夜に祈ったの。そして次の朝ディアナ様が生まれて、

トキマカセノミコトは姿を消した。


祈りに参加した私を含む4人は沈黙を守った。時の呪いがかからない様にね。」


「……壮絶なお話ですね。けれども……その話では結局もう一つの生命の行方はわかりませんね。」


「うん。実はこの話には続きがあるの。」


「え?」


「祈りを捧げた時、煌々たる神の御幸の光はそこにいる全ての者に視界を奪った。


闇の中にいくつかの光の線が走った。

時を刻む黄色い光と運命を繋ぐ赤色の光。

何かと何かが繋がる音は祠の中に響き渡った。


この時我々はみんな意識を失った。


私以外はね……。


トキマカセノミコトは、私の精神に入ってきたの。まさに今あなたが私の精神に入ってきてるようにね……。


『ソフィア様。今私の精神を受け入れられるのはあなただけのようだ。だから私はあなたに私の思いを託したい。』


そう言うと彼は左手を広げた。

手の平には白い光の魂が脈々と光を揺らがしていた。


『これはまさに今アナベル妃の中にみごもっていた、二つの魂のうちの一つです。私は今からこの魂を私の世界へ持ち帰ります。けれども、これは善意での行為でもなんでもないのです。偽善者でいるのはいやなんだ。』


『どういうことです?』


『私はある方を、救う為に一つの大きな生命力を必要としているのです。だから私は彷徨う魂を求めてこの地に辿り着いたのです。だから感謝などしないでほしいし、どうかこの事は私の懺悔としてあなたが受け止めてほしいのです。』



『…懺悔……ある方とは誰の事ですか?』



『我が国の王妃様です。もちろんこの魂を殺してしまうわけではない。王妃の中で共に生きてもらいます。』



『わかりました。けれどもこの国の人々は双子の姫の誕生を楽しみにしています。それにアナベル妃は魂の一つが消滅した事にひどく落ち込むかもしれません。』



『それはこちらが責任を持って処理いたします。記憶の改竄かいざんという魔法をかけます。ソフィア様……残念だけれどゆっくり話している時間はあまりないので、一方的ではありますがお話はここまでにさせていただきます。もしあなたの元に再びトキマカセを名乗る者が現れたならこの銀時計をお渡しください。あなた方の為に役立つように念をこめておきます。どうかお互いに良い人と良い国に恵まれます様にお祈りいたします。』


このやりとりは私しか知らないわ。

当然レオンハルト侯もね。」


少し頭の整理が必要だった。

つまりアナベル妃の中に妊った双子は、

一人はディアナで、もう一人はトキマカセノミコトが自分の世界に連れて行き、

なんらかの理由でその国の王妃様の体内で共存させられていた……と言う事だろうか?


という事はトキマカセノミコトは僕の先祖の可能性があるわけだから、双子の子は僕の住む世界に連れてこられた?ということになる。なるほどそれなら見つかるわけもないし、しかも記憶の改竄をされているのなら、

この世界の人が知るわけもない。


……ていうか記憶の改竄ってトキマカセノミコトっていったい何者なんだ?うちの家ってそんな力を持っているわけ?父さんも爺ちゃんも、そりゃそれなりに神社の行事もこなしていたし、尊敬はするけども……。こんな事なら大学、神道科に行っとくべきだったな、

親族推薦蹴って我が道ゆくは、やはりリスキーだったかも……いやいやいまそんな事言ってる場合じゃなかった。


「おい聞いてるの?タケル?大丈夫?」



「あ……うん。なんかいろんな事が交錯しすぎて……いったい僕は何からしたらよいのだろうか?神崎を探すのか?アルベルト様と繋がるのか?謎の竜騎士と戦ってこの国を救うのか……。」



「なに……そんなに難しく考えるな。複雑な様に見えて、君が持つ点と点を繋いでいけば、自ずと求めている答えに辿り着くはずさ。運命の糸というのは一本の糸で繋がっているのさ。それが時々絡まろうが、切れてしまおうがまたらほどいたり結び直したりしたらいいんだ。トキマカセノミコトは言っていたよ。時の神は時を左右するのではなくて、時の繋がりを司るのだとね。」


「時の繋がり……ね。」



「まずはアルベルト様にかかる闇の玉を払拭して、それから次にどう進むかを考えればいいんじゃないかしら?」


「そうかも知れないね。」


逃げてきた運命には逆えぬものだ。

僕はやはり時の神の呪縛から離れられないのかもしれない。

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