第10話 落日

蒼い空に轟く雷鳴……。


カインはその雷の主がアルベルトであると、すぐに確信しているようだった。


「急ごう……。アルのやつが何かと戦ってる。しかもあの技をつかうなんて、獣人の親玉を殺った時以来だ。これは尋常じゃないぜ何かあったに決まってる!!」



空を見上げると徐々に太陽が月に侵食されてるのが目に見てわかる。


「これは皆既日蝕だな。」


僕も何が起きているのか、わけがわからないなりに、状況を口にだして整理してみる。

とにかく何か危機的な空気を感じていた。

それはただなんとなくではなく感じたわけではなく、左手に持つこの書物からも何やらざわめいている様だった。

それでもう一度本を開こうと試みるが、

やっぱり本は開かない。


「何やってんだよタケル。メルトいくぞ。」


「ウォーン!!」



カインが走り出すと後を追うように銀狼のメルトが駆け出した。



「ディアナ行こう。」


「うん。」


不安げな顔をしながらディアナも走り始めたので僕も彼女を追いかけた。


。。。。。。


ペン先をインクのは瓶に沈めた。

ガラスでできたペンをゆっくりと瓶からあげると、先端のうねりに青いインクが絡み付いて伝っていく。インクがペン先から垂れないのを確認すると茶色の皮のカバーのついた手帳にカツカツと書き込んでいく。

その繊細で丁寧な字はノエルの性格そのものをあらわすようだ。


『オーヴァルレポート』はとても興味深い内容だった。それにノエルの知りたい疑問に繋がる手掛かりも多く記載されていた。


一度レポートを読み終えてから、

何度も気になる部分を指でなぞりながら、

自身のメモ帳に愛用のガラスペンで必要に感じた事を書き込む……。もうどれくらい時間がたったのだろうか?と気になり時計に目をやる。もう夕方の15時を回っていた。

オーヴァルの夜は長い。もうすぐ日が暮れる……。


「刻の繋がりか……。なるほど考えもつかない発想だな。時間軸の違う世界が存在するという事か。つまりはこの『トキマカセノミコト』という者も異次元のたみということだ。」



オーヴァルの星の特性。

200年のサイクルで起きる流星。

異次元の民トキマカセノミコト。

姿を消したディアナの双子の姉妹。

そして祈りの儀式後に姿を消した、

トキマカセノミコト……。

手帳にも今、口に出してる事を自分なりに図解してみる。



その図解を見ながら一つの可能性をおもいつく。


ディアナの双子の姉妹は『刻の繋がり』

という何らかの方法によって、

異次元に移されたのではないだろうか?


「いやいや……なかなか想像を超えた発想だと我ながら感心するよ……。」


少し自分自身に呆れ笑いしながら首をふる。


レポートが書かれたのは当然トキマカセノミコトが姿を消す前だろう。だからそこは双子の姫の話は記載されている部分などない。


「いやそれより今一番の問題とすべきはこの赤き月と200年に一度起こる流星の話だな。

もし巨大な隕石が落下したらAZULは元より、オーヴァル自体が大変な事になるだろう。」


セルポワの残した言葉。

『もうすぐ歴史が変動する何かが起こる。そう時の呪い疼いている……。』


その言葉には今読んだばかりのレポートがぎゅっと詰め込まれているように感じた。

今年はAZUL王国が建国してちょうど200年、何かが起きても不思議では無い……。



「ん?!」


何やら廊下が騒わがしい。

何人かが慌ただしくこの書庫に向かってかけてくる足音が近づいてくる。

そして勢いよく扉が開かれる。


「静かに開けてくれ。騒々しいな。どうしたのだい?ここは神聖なる書庫だよ。」



「申し訳ありません。しかしノエル殿下、それどころではありません。敵襲です。」



「敵襲?大陸の各国とは友好同盟を結んでいるというのに?ましてや今は王はその大陸の国々との友好会議に出席している。いったい何者が我が国に攻め入ると言うのだ?」


「わかりませぬ。おびただしい数の竜の騎士団が城の外を囲んでおります。それで

竜騎妃メイクゥと名乗る女が王を呼べと。」



「竜の騎士団?それは興味深いね。それでアルベルトは何と言っているんだい?」



「それが……昼頃にカイン隊長と城を出たきりまだ帰りませぬ。」



「……なるほどね。うーん……。」


「ノエル殿下ご指示をいただけますか?」


「わかった……。私は争いは好まない。少し交渉したいので暫し待たれよと、そのメイクゥなる者に伝えもらえるかい?しかし万が一の時は格部隊長に全力で城を護るように指示を与えてほしい。それから神官長をすぐにここに来るように伝えてもらえるかい?」


「はっ……わかりました。」



兵士は再び乱暴に扉を開閉し慌ただしく部屋を出ていった。



「さて……どうしたものか。」


生まれてはじめて敵襲に城を囲まれているというにも関わらず驚くほど冷静だった。


「まーなるようになる。神の赴くままに。」


ノエルは腰から下げた自らの神具である

『王家の蒼い月の紋の入った煌びやかなつるぎ』に手をかけながら、神官長が到着するまで祈りを捧げた。




。。。。。。



雷の見えた方にしばらく進むと、

カインが何かの前で立ち尽くしている。

その周りを警戒する様にメルトが動き回っていた。


「カイン?いったいどうしたの?」



「ディアナ……。」

そう言ってカインは無言で視線を闇玉の方へ向けた。


「何……これ?」



ディアナの顔がみるみるうちに強張っていく。不安の色をあらわにして左手の親指を噛む。


「何かあったんですか?」

と僕が聞く。


見るとディアナとカインの前に黒い球状の霧が何かを?いや……人を取り囲んでいる。


「どうなってるのこれ?」


「わからないわ。でもこれは…封印、呪いの類ねきっと……。」


指を噛みながらディアナがそう言った。


「とりあえずこの闇玉の中からアルを助け出さないと。」


そう言ってカインが闇玉に手を出すと、

メルトが前に立ちはだかりカインを静止した。


「何だよ?」


顎を突き出して闇玉の周りをさす。

何かの拍子に闇玉に触れてしまったようで、

たくさんの虫がその周りに息絶えて死んでいた。


「容易に手は出せないって事かよ……。くそー!!いったい誰がアルをこんな姿にしやがったんだ!!どうすりゃいい……。」



「とにかく……。」


「とにかくどうした?ディアナ?」


「うん。とにかく一度城に帰ろう。神官長かノエル兄さんなら何か知っているかもしれない。」



「けどよ。このままアルを放っていくのかよ?」



「ウォン。」


「メルト?」

強い眼差しでカインを見るメルト。


「……わかったよ。お前に任せる。

タケル、ディアナ、アルはメルトに見張ってもらおう。本当は俺が先にひとっ走りしたいところだが、ディアナを1人にするわけにはいかないしな。」



悔しいけれど残念ながら返す言葉もなかった。何かがあった時に今の僕ではディアナは守れる気がしない。


空を見ると太陽はもうほとんど月に侵食されていた。の光は三日月のように細い弓状の光を辛うじて放ちながら、

西の空に落ちようとしていた。

そして僕たちは暗雲漂う城へと向かった。

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