第9話 侵食する者

オーヴァル……

この星はいびつな楕円を描いている。

その中でもAZUL王国のあるこの島は

楕円の先端らしく日照時間は異様に短く

夜がとても長い。

一日は28時間で構成されているらしく、わたしの住む世界とは1日4時間ほどのズレが生じると推測される。


さて私が問題にしたいのはこの星に

定期的に落ちる流星の事だ。

このAZUL王国の建国のきっかけとなった

『red meteor赤き流星』もその一つだ。

流星とはすなわち隕石の事だ。


数々の文献を目にして私が推測するには、

どうやらおよそ200年に一度程度の割合でこの島に隕石が落下しているようだ。

太陽を軸に公転する星の定めとでもいうのだろうか……。


隕石の前には必ず同じ兆候がみられる。

月のない夜の次の夜に月が二つ現れる。

一つはいつもの黄色い月、

そしてもう一つが赤い月だ。



。。。。。



カツン、カツン、カツン……

と室内に鳴り響く足音。

本の背表紙のタイトルを一つ一つじっくりと見ながら、棚と棚の間を革のブーツで歩く音が書庫の中に響き渡っていた。


AZUL城の地下には様々な文献がまとめられた書庫がある。この島にまつわる歴史的な事や伝統的事、AZUL建国より以前のものまで取り揃えてある。


ノエルは気になって仕方がなかったのだ。「歴史を語り継ぐ呪い」

「時の神とトキマカセノミコト」

そして占い師セルポワから語られてあきらかになったディアナの秘密……。


本当は今すぐにでも父親である

「レオンハルト王」に聞いて伺いたいところだが、王も王妃も生憎今は大陸に出向いていて、連絡の取りようがない。それにいつ帰るかもわからない。


何か手掛かりになる物がないかと、本棚の端からタイトルをみて探っていた。



「ん?これは!!」



書庫室のすみの本棚にいくつかの製本されていないファイルを見つけた。

そのいくつかのファイルの中に気になるタイトルが目にはいってきた。タイトルというよりは作成者の方に目が入ったのだ。


題名は『オーヴァルレポート』

作成者は『トキマカセノミコト』


幼い頃から本を読むのが好きで、

この書庫は自分の居場所のように思っていた。いつだって片手には本を手にしていたノエル。実際この書庫の本は半分くらいはすでに読んだのではないだろうか?

けれども今までこの未製本の棚には目がいかなかったし、

「時の神」「トキマカセノミコト」

という文面に出会った事もなかった。


「まさかこんな近くに手掛かりがあるとはね

……。」


よく考えてみればトキマカセノミコトや、

ディアナの事は長い歴史の中でたかだか15年くらい前の話だ。その事に関わる書籍文献などあるわけがない。


「全くわたしとした事がやはり少し動揺があるようだ……。」


そんな事を口にだしながらレポートをめくり始めた。


。。。。。。


もうカインは遥か先の方まで行ってしまった。鎧を着た人間には到底追いつかないという諦めの気持ちと、カインなら大丈夫という安心感がアルベルトの中で複雑に絡み合っていた。


とはいえ先程からどうやら雲行きか怪しい。

雲行きというのは正確ではないかもしれない。何かが太陽の光を遮っているという感じさ否めない。

いずれにしても雨に濡れるという事は厄介な事だ。蒼き王国AZULを象徴する、聡明なデザインの青い鎧は錆びつき、剣や槍も手入れが必要になる。そうなれば何か良からぬ事が起きた時には対応しかねるからだ。



「急いだ方がよさそうだな……。」



再び走り出すアルベルト。


しかし少し歩いたところで足を止めて立ち止まる。


耳鳴りがする。

それに…風の匂い?


まるで怪鳥が風を切るような音が鳴り響く。

不快な音に顔噛める……間も無く後方から激しく突風が吹き付ける。

思わず足を踏ん張り踏みとどまる。

そしての翳りに違和感を感じてゆっくりと空をみあげてみた。



「ん……?これは日蝕か?」



見ると太陽を丸みを帯びた影が少しずつむしばんでいく。

そしてまた風を切る音が鳴る。

と同時に蝕まれた太陽を大きな影が横切る。



「日蝕ね……たしかにそうも言えるわ。

面白い考えね。けれども残念ながら少し違うわ。」




突風に耐え抜いて声の主を探す為にゆっくりと声のする方へと視線をむける。



鋭い目つきの朱い翼竜が翼をはためかせてこちらを向いていた。

口には手綱がひかれて、

その背中には女がまたがっている。

その女もこちらを見ている。

女は真紅のドレスに黒地に金の模様の入ったボレロを羽織り、ドレスには竜に跨がるためか長めのスリットが入っている。

その切り込み部分から黒い長めのブーツを履いた白い足を覗かせていた。



「なんだお前は?」



女は静かに話し始める。


「200年という歳月はとても長い。時間をかけてゆっくりと星の流れの赴くままにこの時を待っていた……らしいわ。」



「いったい誰の話だ?何の事だか俺にはさっぱりわからない。」



「そうね。どこの誰だか知らないあなたに、こんな事言っても意味はないけれど、

赤き月Vermilion《ヴァーミリオン》は崩壊が始まっているの。だから何千年も前から他の星への移住を余儀なくされてきた……。

けれども王はこう言ったわ。

移住なんて選択肢は無い。

服従すべく星をみつけて、

その星を朱が染めればよい。

この星は侵食に相応しい。

今こそ我々はこの島を中心にこの星全体に侵食するべき時なのだと。」


背中がゾクゾクとした。

気配というものが感じられなかったからだ。


「龍騎妃メイクゥそれが私の名前よ。あなたは?」



「AZUL王国騎士団長のアルベルトだ。

しかしメイクゥ侵食とは穏やかではないな。それにヴァーミリオンというのは?いったいどこの国なんだ?」


「ふふふ……。どこの国ですって?井の中の蛙大海を知らずってね……どこかで聞いたことあるわ。それはあなたみたいな人の事をいうのね。わかってないわねアルベルト。星レベルの話よ。それにあなたに質問する権利はないわ。もうすぐ我が星ヴァーミリオンの

太陽への侵蝕が完了する。

そうすればこの星オーヴァルの強力な引力でヴァーミリオンは星そのものごとこの星に引き込まれるわ。」



「言っている意味がわからないな。」



「つまり朱き月ヴァーミリオンはオーヴァルに接触してこ冥竜皇様の侵略が始まるという意味よ。」



「……最初は聞き間違えかと思ったよ。

やはり侵食=侵略ととってよさそうだな。

……ならば女とて容赦しない。」


アルベルトは槍を地に差し、腰の剣を抜き翼竜目掛けて投げつけた。


伝心雷鳴でんしんらいめい


アルベルトがイナズマの魔法を唱える

剣を目掛けてplasmaが落ちる。

その剣がplasmaを帯びてメイクゥを切り付ける。



が……。まるで撥水加工された傘が水を弾くようにplasmaを帯びた剣は弾かれる。


「全く理解力に乏しい人ね。」


メイクゥは左手に持っている小さな金色の杖を空にかざすと目を見開いて唱えた。


曰月イワクツキ


アルベルトに大きな闇玉に包まれる。


「あなたを見かけた時から私は、あなたを取り入れたいと思ったわ。だから私を理解して受け入れるの。この闇玉の中で負の思考と戦い答えを出しなさい。この思考の中でアルベルト、あなたは気がつくでしょう。私たちが求める朱き月の正義に。私にはまだやらなければならない事があるの。また後で迎えに来るわ。だからそれまで大人しくしていてね。」


メイクゥは翼竜の手綱をひいた。

そして再び空に消えていった……。



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