第34話 太陽でありたい月
創造するという事は、
新しき時の始まりのようだ。
物の
人智にそぐわぬ概念
それはある人にとっては不快で、
それはある人にとっては革新である。
感性とは生まれ持った才能で、
それは意図して作りだすものではなく、
それは意図して創りだすものなのだろう。
黄色い小さな種を見ながら、
一つの構想が頭の中を巡った。
それはやはり必要に迫られなければ、
思いつきもしない呪術の構成。
古き良きを受け継ぎながら、
新しきを取り入れる。
先人たちの生き方を粗末にしてはならない。
歴史を軽薄にする行為は罪である反面、
新しきを蔑ろにするのは
変化を求めない保守的な
愚かな行為なのかもしれない。
「これは冬青という植物の種子なんだ。」
左手の
ついに意を決して伝える。
「これから『継魂儀』という術を使って君と壱与様の魂を繋げるのだけど、この呪術は意志の伝承術であって二つの魂の共存させるというわけではないんだ。」
「うん。」
「つまりどちらか一つ、意思の強い魂がその肉体に残るわけだ。それがどういう事かはわかるね?」
「わかるわ。」
心なしか
「ある者は子孫や継承者に力を譲り、ある者は子孫や継承者の肉体を奪い永遠の生命を得ようとした。故にこの呪術はある時代から禁術とされてきたのだ。」
「理解するわ。つまり私は壱与様という方に吸収されていく事をあなたは望んでいるのね。大丈夫よ。乗っ取ろうなんて思わない。
人を救う魂になるなら本望よ。」
先程の声とは違い何か決意のはっきりとした声でそう言った。
「いや違うんだ。」
と慌てて訂正するトキマカセノミコト。
「何が違うというの?」
「うん。私は君と壱与様に魂の共存を目論んでいるんだ。」
「でも今出来ないって……。」
「うん。だから私も創造を形にしようと考えているわけだ。」
そう言いながら黄色い種を右手に持った。
「今から君にこの冬青の種を時の糸で結びつける。君はこの種を受け入れて、君の中で育てなければならない。」
「どういう事なの?」
「この冬青というのは、他の樹に寄生する、宿木という類の寄生植物なんだ。葉素は親樹から吸収するけれど、親樹には危害を加えない。親樹を守る木に育つわけだ。」
「私にその宿木になれというわけ?」
「まー厳密に言えば先程も話したけれど共存を最も望んでいるんだよ。壱与様を助けて、君は壱与様の中で生き続ける。悪い条件じゃないと思うんだ。」
「でも……何かきっとデメリットがあるのでしょう?そうでなければ、わざわざ合意を得ないでしょう?」
「デメリットというか…つまり今から行うのは、私の想像力で創り出す創造呪術。上手くいくかも形にすらなるかどうかわからないわけだ。この呪術の完成には私の術的感性と新しき術の形を想像する創造力、そして君や壱与様が僕の力を信じて受け入れる事が必要はわけなんだ。それは決して具体的ではなくて、
「トキマカセノミコト様。こう言ってはなんだけどまるで詐欺師ね。抽象的な事案に好印象は持たない物でしょう?」
「うん。まーわからなくもないけど、つまりこれは人間の情に良く似ているのかもしれないね。一緒に頑張ろう!!とかお前の事を応援してるなんて言う友情や、君しかいないとか、愛しているとかいう愛情は形の無い物だから、それを成立させるのはやはり信頼しか無いわけだからね。」
「理解するわ。私ったら人間になる前から人間の心情を知りすぎね。生きる事は簡単ではないのね。いいわやりましょう。そもそも私があなたの差し伸べた手を取ったのは、あなたという人間を信用したからだからね。
何故信頼したか?と言われたら……なんとなくよ。とにかく私はトキマカセノミコト様、あなたを信頼して受け入れる。それで良いのね。それから私はどうすればいいの?」
「そうだね。イメージしてほしい。自分の在るべき場所をね。自分の存在を認めて、生きていける為の居場所をね。」
「わかったわ。」
トキマカセノミコトはコクリと頷き。
ニッコリと微笑みかけた。
「私も君を信じるよ。私を受け入れてくれると。」
黄色い種を左手に持った。
右手には銀の懐中時計。
それを細い針の様な剣に再び変化させる。
それから思い描いた新しき呪術に力を与えるために頭に浮かんだ呪術を唱える。
「時の糸よ、我に新しき力を与えてくれ。」
目の前に彩りどりの無数の糸が浮かび上がる。その糸の一つが
それはまるで雲間にさす一縷の光のようで、
それはまるで新しい夜明けの様であった。
その美しき眩い糸に冬青の黄色い種子を結び付ける。
「
「終わったの?」
「あー終わった。」
「けれども何も変わらないわ?」
「そうだね。宿木の力を発揮するのは壱与様への継魂が成立してからだ。けれども私は君に力が宿ったと感じているよ。」
「そうなのね。なんだか私は変化を感じないけれど、トキマカセノミコト様、あなたは大丈夫なの?なんだか呪術を使う度に……どういうのかしら、生気が薄くなっている様に思うけど……。」
「うん。わからない……けれども今は気を抜いている暇はないからね。気が張っているうちは大丈夫さ。」
「無理はしないでね。でも心なしかあなた少し出会った時より老け込んだ顔をしているわ。」
「そうかい?生憎自分の姿を映し出す八咫鏡は割れてしまった。今自分の姿を映し出すのはせいぜい泉の水面くらいな物だからね。」
「自覚が無いというのは悪い様で本人に取っては好都合なのかもしれないわね。」
「そうかもしれないね。」
「トキマカセノミコト様、私はね…妹の魂の不安をぬぐいたくて彼女と神具を交換したわ……。けれども時が経つに連れて、私のした事が本当に正しい事なのか?という疑念に苛まれるの。これで私の魂としての役割が終わってしまい、
「ミソラ、それは違うね。明日の事をわかっていて明ける朝なんてないんだよ。陽はいつも当たり前の様に星に光を与えて、月は長い周期を経て重力を担い続ける。つまりそもそも君は日々当たり前の様に光を放つ太陽ではなくて、暗き闇に光を放つ月のような魂なんじゃないかな?」
「では元々は神具の選択が間違っていた?という事?」
「いやそれも違うね。元々宿されるべき力には敢えて目もくれず、二人で二つの力を共有しようとした。つまり二人して本能的に二つの力を共存させようとしたのだろうね。それは私のあまりにも都合よい解釈だろうか?」
「ううん。私はあなたを信じる事にして良かったわ。私は全ての人をは光で照らす存在でありたかった。陽の光の下に生まれ陽の宿命を背負いそしい太陽の様に光を放つ存在でいたかったの……。
きっと私は
「いいじゃないか……曖昧という事は、決して悪じゃないさ。きっと光の翳らす闇の心も、闇を照らす光の心も、太陽でありたい月にしかわからないのではないかい?」
「太陽でありたい月」
それはミソラにとって自分の存在を確かなものにするそんな響きの様に感じられた。
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