第33話 交錯する魂と2人の姫 ④月と太陽

荒れ果てた大地を一人の男が眺めている。


黄色い砂が空気中をまい、

不揃いの岩々があちらこちらに転がり、

照りつける太陽は、

焦がすほどに大地を焼き付けていた……。

太陽の光は眩しく美しく、

そして時には疎ましいのだ。

新しい朝を迎える度に、

輝く光を浴びて鬱々とした気持ちを

晴らすその光は、

時には心の扉を閉ざしたくなるほどに

鬱陶しいほどにまぶしく燃え盛り

目を覆わざるおえないのだ。

灼熱の光に煮えたぎった気持ちを

沈めるのは冷めたい風、

冷たい風に晒されて乾き果てた

心を潤す空の雫。

狂おしいほどにあなた想う。

思い焦がれて慟哭する。

宙を見上げて、

男は思うのだ。

暑すぎても寒すぎても駄目なのだ。

そして前向き過ぎても

それに後ろ向きすぎても、

きっとこの世界は成り立たないのだと。



。。。。。


荒れ果てた大地を一人の女が眺めている。


夜のとばりが光を閉ざし

光の無い世界は生命の音だけが響き渡る。

風がサワサワと大地を揺らす音

小さな虫たちが羽を擦り合わせる音

小さな声でひしめき合い、

鳥たちが甲高い声でわめきちらし、

獣が闇を切り裂くように遠吠えする。

生命のざわめき。


「本当の静寂などこの世にあるのだろうか?」


女が耳を塞ぎそう願うや否や、

突然全ての音がピタリと遮断される。

ふと突然の静寂に戸惑い、

不安な気持ちになり、

辺りをみわたして、

それから空を見上げると

ポツンと一つ星が瞬いている。

最初は一つだけ。

一縷の望みの様に小さな光がまだあるのではないかとじっくりと空を凝視する。

二つ目を見つけたと思い、

思わず口角があがり頬が緩むけれど、

二つのどころか無数の星が闇夜いっぱいに広がっている。

無数の点の誰が自分を救う星なのかと、

返って心を乱される。

西の空に目をやると大きな大きな黄金色の月が閉ざされた闇に光を与える。


なるほど私は本当はみんなを照らす太陽よりも闇を優しくを照らす月の光を望んでいるのだとあらためて気付かされる。


けれども本当は知っているのだ。

その月や星さえも太陽が無くては、

輝かない事を……。



。。。。。。


天井を見ながら今さっきまで見ていた夢と

現実のはざまの世界の情景が、いったい何を意味をするのか?

そんな事を考えていた。

それで、ふと彼女たましいに問いてみたくなった。



「ミソラ……。」


すっかり深い眠りについていたトキマカセノミコトが突然目を覚ましてそう言った。


「あら?目覚めたの?少しは休めたかしら?あなたが眠りについても私は何の心配もしなかったわ。何故ならあなたが安らかに落ちていくのを感じたからよ。」


「そうか。私はいったいどれくらい眠りに落ちていたのだろうか?」



「うん。あなたが眠りに着いてから2度ほど陽が昇りその2度目の太陽が、今落ちかけているわ。」


「なるほど。ありがとう。」


見覚えのある部屋だった。

井草でできた敷物に寝かされ麻できた布を被せられている。どうやら太陽の社の中の一つの部屋に連れてこられたらしい。


「あのスサノとかいう男があなたを担ぎ込んでここまで来たわ。それからこの部屋には腰の曲がった老婆が何度か様子を見にきたわ。」



「そうか……。ところでミソラ。」


と改めた口調でそう言われて少し身構えるミソラ。



「な、なに?」



「君は荒れ果てた大地に一人取り残されたらいったい何を思う?」


「なんの話?」



「ここまで連れてきてこんな事を言うのは、、気に病むけれど、心理的な適合…というか……君が王妃……壱与を支える器のある魂なのか不安になったんだ。」



「ふふふ。仕方のない人ね。それで私が適合しない魂と感じたらどうするつもり?」



「そりゃ諦めるさ。私がこの左手の力を抜いたらそれで終わる。」


「素敵な名前までつけておいて?」


「それは……。」


「ごめんなさい困らせて。あなたの言い分はわかるわ。そうね……私がもし荒れ果てた大地に一人取り残されたら……、新しき世界を創造できる事に喜びを感じるわ。

まずは雨風を凌げる建屋作り出し、

作物の種を探すわ。

それから耳を澄ませて水の流れを見つける。」


「もし、建屋の材料が見つからなかったらどうする?」


「そうね、見つからなかったらそれでも探すわ。探して見つからなければ、それは私の運命はそういう物だったのだと受け入れるしかないでしょう。」


「ではせっかく見つけた種が食べられる様な物ではなかったら?」


「それは食べられる様に工夫するわ。」


「川や泉が見つからなかったら?」


「うん。暫く耐え忍んで、雨が降るのを待つわ。その雨水を貯める手立てを考える。」



「ふふふふふ。」


笑いが込み上げてきた。


「何故笑うの?至って真面目に考えたのよ。」



「そうだね。私が間違っていたよ。君と出会ったその時から、君に惹かれていたんだ。

だから一生懸命考えて名前をつけた。壱与様を救えるのはミソラ、君しか考えられないね。……けれども君みたいな前向きな魂が何故…はじかれなければならなかったのだろうか?」



「……さあね。わからないわ。ただ一つ言えるとすれば、自分を犠牲にしてでも守らなければならない者があったから……かしらね。」



魂にも関わらずミソラは黄昏れる様な声をだした。


「それは妹の事かい?」



「そうね。不安の多い彼女には複雑に絡み合った道を行くのは少し難しい。だからきっと私たちが杖を持ち替えて運命さだめとは、違う道を選んだのも、私たちが勝手に書き換えたのでは無く、それもまた運命だったのよ。じゃなければトキマカセノミコト様。

私はあなたに、そしてあなたは私に出会う事は出来なかったのだから。」



「そうかもしれないね。ミソラ君に出会えて良かったよ。なるべく君という存在が薄まらない様に力を尽くしてみるけれど、何せやったことの無い術だから……。」



「何を言ってるの。時の宙を越えて私という魂を拾ってくれたじゃない。あなたは失敗しない男よ。自信を持って!!」


「でも…。」


「でもじゃない。ifはやってみなけれぼわからない答えよ。だからお願い。王妃様…壱与様をそして私を救ってくれる?」


太陽は全てを照らす光

けれども太陽常闇を知らない。

月は一人では輝かない。

闇夜を照らす月の光は

太陽なくしては成り立たない。

結局月と太陽は一つにはなれない。

けれど月の気持ちを知る太陽があってもいいかもしれない。




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