空の彼方が落ちる時 SKYFALL
雨月 史
プロローグ
第1話 something not to forget 忘れてはいけない何か
そんな彼女の様子を僕はいつも教室の隅で、
誰にも気が付かれないようにこっそりと見ていた。
朝教室に入る時も、昼休みも、
友達と話している時も、
授業の最中も……。
「something not to forget はい、じゃー
「はい……。忘れてはいけない何か」
「はい。オッケー。そこテストに出るから忘れないように!」
学校にいる時はそれとなく彼女を目で追い続けた。
つまり僕はただ彼女に
一方的に想いを寄せていたのだ。
なんだかまるでストーカーみたいと思うかもしれないけれど……。
青春の一ページって、
そういうものではないだろうか?
それである時、気になって聞いてみた。
「神崎ってさ、いつも空を見てるよね?」
何の前置きもなく唐突に単刀直入ストレートにそう質問したにも関わらず、彼女はまるでその質問を待っていたかの様に答えた。
「うん。そうね。
「青い空が黒い闇に?」
「そう。境目とか、……うーんなんて言えば良いのかな?空の終着点はあるのかな?」
「空の終着点ね……。わからないな。」
「そうだよね。わからないよね。けれどもね、私には不思議でしかたがないの。何人かの人がこの青い空を超えてその先の
「地球はやっぱり青かった」
ってね。なんでみんな、そのあるはずの、
青と黒の狭間について語らないのかしら?」
「んー……なんでだろうね?」
「私って変わってるでしょう?興味ないよね、そういう空想哲学的な話。」
「興味……あるよ。」
空の話よりも君にね……。
「本当に?今度私とその理由を探してみない?」
探す?いったいどうやって?
そう思いながらも、
「そうだね。ぜひ探してみたいね。」
と答えた。
正直彼女が僕にどのような答えをもとめているのか、さっぱり要領を得なかったが、
彼女が僕に一緒に探そうと提案してくれた事に対して、同意すべきだと思ったのだ。
空の境目ね……大気圏の事だろうか?
いや彼女が言っているのはそんな事ではなくて、みんなが見落としている何か大事な物の様な気がしてならなかった。
高校2年の夏の事だった。
その不可解でミステリアスな言葉を残して、
彼女は学校からいなくなった。
そうなると決まっていたかのように、
僕は彼女に質問して、
彼女は僕に問いかけ、
そして姿を消したのだ。
けれども不可解なのはそれだけではなかった。神崎が姿を消した事を誰も気が付いていなかったし、そして誰も神崎の事を知らなかった。
それどころか初めから神崎美宙は存在しない……。僕は悪い夢でも見ているかのようだったけれど他の人に言わせれば、神崎美宙の存在する世界の方が夢だという事だった。
それから数日間僕は高熱を出して寝込んだ。
そして目を覚ました時には、
彼女の事を一切覚えていなかった。
それから時間の流れるまま卒業した。
彼女の事を思い出せないまま……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
This is the end
ここが終着点
Hold your breath and count to ten
息を止めて、10数えるの
Feel the earth move and then
地球の動きを感じて
Hear my heart burst again
私の心が破裂する音をまた聴いて
For this is the end
この場所が最後になるように
I've drowned and dreamed this moment
私は沈んでいき、この瞬間の夢を見ていた
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あの日以来僕は……、
忘れてはいけない何かを思い出す為に……。
高校を卒業したあと僕は
大学に進学して何事なかったように日常を
過ごし、人並みに就職をした。
それでも僕は心に残った
いったい何に対して、
どのような疑問をもち、
どんな違和感を感じているかも、
全くわかっていなかった。
頭の中を
「something not to forget」
忘れてはいけない何か……。
思い出さなければならない約束。
結局のところ僕は……
彼女の事を忘れたわけでもなく、
覚えていなかったわけでもなく、
遠い遠い記憶の彼方に、
押し入れの奥にしまわれた、
大切な何かのように、
思い出せなかったんだ。
「SKYFALL」
落ちゆく空を見るまでは……。
……。
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