第2話 青い空と黒い闇の境目
忘れてはいけない何か……。
新しい年を迎えるたびに、
その疑念はその言葉とは裏腹に
僕の中から薄れていった。
けれども薄れながらも、時々何かのタイミングで思い出す……深く深く青い空の記憶。
昔から人と群れるのが苦手だった。
別に人が嫌いなわけではない。
だから誘われれば飲みに行くし、
遊びにもいく。
けれども僕から人を誘う事はない。
それはきっと自分の世界を理解してもらおうと思わないからだ。
逆に言えば共感してほしい相手に巡り合うことがなかったし、相手に共感してもらう自信もなかったのだと思う。
だから彼女も作った事がない。
興味がないわけでもないし、
自分で言うのもどうかと思うけれど、
20数年生きてきて何度か女性側から近づいてくれる事もあった。
けれども僕は何故かよく分からないけれど、
その度に忘れてしまった約束を、
思い出さなければならないという
不確かな衝動にかられたのだ……。
「
都心部からわずか30分ほど車を走らすだけで、あたりはすっかり
市内は観光客でいっぱいだけれど、
僕の
人が選ばないところに行きたがる。
昔から滝を見るとのが好きだった。
大きな有名な滝も気持ちがよいが、
ひっそりとする自然の中で重力に任せるままに、落ちていく滝の音が良い。
静寂の中の轟音は日常で溜め込んだ
さんざめいく心の雑念を全て洗い流してくれる様な気持ちにするのだ。
とめどなく続く山道。
登り降りを繰り返し、
日頃の運動不足は解消される。
ただ何かに向かって無心に進むと、
まさに修行僧の極地とでもいうのだろうか。
余計な雑念がなくなっていくのを感じる。
そんな時は決まって考えてしまうのだ。
忘れてはいけない何かについて。
何かに
まるで前に進めないという事だ。
今までも何度か忘れてはいけない何かについて考えてみた事はある。でもどれだけ考えても「青い空」という、
キーワード以外思い出せないのだ。
この説明し難い複雑な気持ちをいったい誰と共有できるというのだろうか?
だから僕は1人で突き進むのだ。
思い悩んで誰かに打ち明けたところで、
答えなどでないのだから……。
友達や彼女なんて無理矢理作るものではない。きっと必要な時がくれば
それを「運命」というのかもしれない。
「あれ?こんな道あったかな?」
何度かこの滝を訪れたけれど、
今日は川の水かさがやけに浅い。
今まで気が付かなかった
飛び石の様な道が姿を見せていた。
興味本位でその飛び石を渡っていく。
滝の近くまで続いている……というか、
滝の裏手?まで歩いて行けそうだ。
「おー!!これはすごいな。こんな光景が見られたなんて!!驚きだ。」
ちょうど滝の裏側に出る事ができた。
裏側から滝の流れを眺めて、
その先に見える山の景色が幻想的に思えた。
上を見上げると滝越しに青い空が見えていた。
「あの娘もまだ空を見ているのだろうか?」
……あれ?ん?
あの娘って誰だ?
うーんわからないや。
それから写真を何枚か撮って、元来た山道に戻ろうとした。けれどもどうやらまだ先に進めるみたいだったので、いったい何処に続くのか気になり、探究的好奇心でさらに奥に進むことにした。
滝越しの陽の光は次第に届かなくなり、
仕方がなくスマホのライトをつけて先に進んだ。どうやら滝の裏が洞窟の様になっているようだ。少しぬかるんでいるものの、
歩けないほどの感じではなかった。
20〜30メートルほど進んだであろうか?
先の方にスポットライトのような、
丸ーい光が見えた。
「そこまで行って引き換えそうかな…。」
そう思い半ば吸い込まれる様に丸い光の方へと向かった。
「なるほど……そういう事か!」
どうやらその部分の天井面に大きな穴が空いているのだ。
その穴を通して太陽の光が窟内を照らす。
光の真下には大きな黒い石がある。
なんとなく
艶やかに黒光りしている。
大きな大きな
直径150センチはありそうな石だ。
「隕石かな?」
この穴は隕石でも落ちて空いたのではないか?と想像もできる。
その隕石?の上を見上げると、
澄み渡るような青い空が見えた。
まーるく切り抜かれた青い空
「まるで空の穴の様だな。」
そう言いながら隕石 に手を触れた……
「ん?!」
強烈な思念が僕の頭の中を揺さぶる。
「なんだこれ?」
よく見ると隕石にはなにやら文字が刻まれているが、象形文字のような今まで見た事もないその文字が……。
先程手を触れた時に頭に入ってきた思念が、
その文字を僕の中に刻んでいく。
So overdue, I owe them
ひどく行き過ぎた夢だけど、私はそれを夢見ていたの
Swept away, I'm stolen
でも、夢は片付けられ 私はつれさられていく
Let the sky fall, when it crumbles
空を落とすの ボロボロになったら
We will stand tall
私たちは胸を張って立ち上がり
Face it all together
一緒に立ち向かってく すべてのことに
Let the sky fall, when it crumbles
空を落とすの ボロボロになったら
We will stand tall
私たちは胸を張って立ち上がり
Face it all together
一緒に立ち向かってく すべてのことに
At skyfall
崩れた空に立ち向かう
頭の中の霧が晴れて
鮮明な光景が目に浮かぶ。
青い空と学生服の女の子。
忘れていた何か、
思い出さなければならない記憶。
神崎美宙はいつも空ばかり見ていた。
何故今その事を思い出したのか
それはまだ一つの事として繋がらないけれど、
「At skyfall」
隕石に照らす空の光からは、
異世界の空気感が滲み出て、
この世界とは違う色に思えた。
その空の光の落ちた先へ進むべきだと、
本能的にそう感じた。
どうやら僕は呼ばれたらしい……。
もう一つの可能性のある空
「Another Sky」へ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます