第14話 竜騎妃メイクウ 〜シナリオ通りの生き方〜

城が大樹にのまれても、

城下町「ラマ」は普段と変わらない賑わいを見せていた。夜が長いAZUL王国では日暮れと共に色とりどりのランプに火が灯され、

食べ物を売る露店が立ち並ぶ。

鶏を焼いた物や、米粉で作った麺、それに小麦粉の生地にお肉や魚介を詰めたスープなどがズラリと並んでいる。夜の町は何事もなかったように活気に溢れていた。


露天街を抜けると今度は石造りの家が立ち並び、その中央には戸建てよりも少しばかり大きい建物があった。この町ラマの町役場だ。

その役場の前を竜人りとの兵士が武器を手に占拠している。



「いいわねー。活気がある町は嫌いじゃないわ。楽しい気持ちになってくる……。それでどうするの?町長さん。答えは決まった?」



「どうするも何も……『従わない』という選択肢はないのだろう。」


と背の高い竜人りとの紳士が椅子に座ったまま静かにそう言った。

「ラマ」の町長「カラゾフ」だ。

彼の目の前には5人の町役場の役員が武器を突きつけられていた。


「まー無いわけではないけどね、ただ無いというよりは、従うか従わないか?では無くて、生きるのか?死ぬのか?という、選択だけどね。」


少し含み笑い顔でメイクウがそう言うと、


カラゾフ町長はガタンと音を立てて椅子から立ち上がった。


「いいだろう。町の主権はお前たち受け渡そう。だがな、町の人間に手をあげるような事があれば、我々住民は一致団結してこの命を投げ出してでも戦うつもりだ。」


沸々と湧き出る怒りをおさえながらカラゾフはそう言った。


「ですって、ヨハン。」


少ししらけた返事して事をヨハンにふる。


「あとは任せるわ。私は少しやる事があるから、今晩は戻らないと思う。

長い夜が終わるころには、完全にこの役場を占拠して、城を潰す準備をしたいわ。」



「しかしメイクウ様、城があの様子では潰すも何も……。」



「私をなめてるの?何も考えなしに闇雲に動いてるわけじゃないわ。考えがあるから動くのよ。じゃーよろしくねー!!」


そう言って建物を後にした。



。。。。。。。


竜の手綱を手に空へ向かう。

時々1人にならないと自分がいったい誰なのか?何のために生きているのか?

そういう事がわからなくなる。

わたしが生きる理由……。

それは失われた故郷を取り戻したいから?


だと冥竜王様は言った。



「元の鞘に戻るだけじゃないか。

もともとヴァーミリオンはこの星の一部だったのさ。なのに戦いを制した冥竜王わたしはは、他の創造主達によって疎外されたのだよ。オーヴァルから星は切り離されて、

我が種族は無かった事にされたわけだ。」


「それが私の戦う理由なの?」


「そうだよメイクウ。君は生まれてすぐに長い眠りについた。けれども眠っていたのは肉体だけなのだろう?頭の中は他の世界を生きて来た。だから戦う理由がわからないのだね。」


「戦う理由……?」




長い眠り……

ある朝目を覚ますと、

私という人間は

全く違う存在になっていた。

昨日までの自分は

いったい誰だったのか?

それすらわからなくなっていた。

けれども不思議と不安なんてなかった。

きっとあの娘が助けにきてくれるから。

頭の片隅を掠める優しい記憶……。



「静寂の夜が怖いならば、私の杖と交換しようか?」


「え?でも……、その夜がどんなところかわからないけれど、落ちていってしまうかもしれないし、気持ちが下がってしまったら、不安という概念から這い上がれなくなってしまうかもしれないよ?」


私は言った。


「不安な気持ちが出て来たら、あなたと過ごした楽しい時を思い出すわ。それで這い上がれなくなってしまったら……。」


「這い上がれなくなったら?」



「あなたが助けにきてくれるでしょう?」


私はそう言ってニッコリと微笑んだ。




何の記憶なのか?

その彼女がいったい誰なのか?

ちっともわからないけれど、

もし私が誤った道を進んでいたら、

きっと彼女が手を差し伸べてくれる

そんな気がしていた。

私が戦う理由は結局、

誰だかわからない彼女に出会う為……

なのかもしれない。



どちらにしても今の私……

竜騎妃メイクウはきっと本当の私ではない、与えられたシナリオ通りに生きているだけなのだ。


心の中ではそう思っていても、

頭と体はやはり竜騎妃メイクウなのだ。

その生き方に抵抗する事はできない。



「あの辺りだったかしら。」


目下の森に視線をおとす。

手綱を引いて愛竜に声をかける。


「リラ……ストップだ。」


愛竜のリラの翼がはばたく力が少し弱まるのがわかる。手綱を緩めて首筋を優しく撫でてやりながら声をかける。



「そろそろ染まる頃だろう……。下まで降りるよリラ。」



頭の中では計算されたシナリオが

何度も巡っている。

何かをめがけて森へ降り立つ。


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