第31話 交錯する魂と2人の姫 ②歴史を語り継ぐ担い手

月の祠の祭壇

失っていた意識を取り戻す様に急に辺りの景色が見えてくる。祭壇の前でレオンハルトと御使の2人が倒れ込んでいる。

どうやら『天赦日』を放った際の魔力共有の反動で意識を失っているようだった。


それから段々と自分の状況を思い返し、

連れ帰った彼女たましいがどこにいるのか気になりキョロキョロとまわりを見渡す……それで自分の左手が青白く光っているのに気がつく。


《ちょっと私はここにいるよ。いなくなったかと思ったの?》


と左手の光が話しかけてきた。


《誰だ?って顔してるわ。私は、あなたについて来た魂よ。ちゃんとあなたの手の中にいるわ。》


「話す事ができるのかい?」


《気がついているかわからないけど、

あなたの心の中に話しかけてるのよ》



「なるほどそういうことか…。えーと……その、魂……。んー私は君をなんと呼べばよいだろうか?」



「なんと呼ぶ?……つまり名前というやつね。そうね……あなただってわかっているとは思うけど、私は新しき生命として生まれるはずの、その……なんというのかしら……そう、いわゆる種、種みたいな物よ。あなたは最初から名前のついた種に出会った事はある?たとえば向日葵の種は最初はただの名もない種だった。けれど芽をだして膨らんで花が咲いてそして初めてこの花には向日葵という名前があたえられるわかけ。つまりその……私をどう呼ぶかは、私を拾ってくれたあなたが決めるべきよ。」


「わたしが、君の名前を……。」



「しっ!!静かに……誰か来たわ。私もしばらく静かにするわ。」



彼女たましいが早口で言い終えた

その時、背後から人の気配がした。

それと同時に彼女たましいはシュンと黙り込んだ。



「魂の保護はうまくいったの?」



おそるおそる振り向いて見ると、

神官長のソファアが立っていた。



「ソフィア……。うん。イメージ通りに事は進んでいるよ。ソフィアは大丈夫かい?」



「私は大丈夫よ。レオンハルト様やこの2人よりは魔力に耐える力が少しだけ強いみたい。それでそのあなたの手に青白く光それが魂というやつなの?」


コクリと頷く。


「これはまさに今アナベル妃の中にみごもっていた、二つの魂のうちの一つです。

私は今からこの魂を私の世界へ持ち帰ります。……けれども……これは善意での行為でもなんでもないのです。」


「善意ではない?とらどういう事?」


「偽善者でいるのはいやなんだ。』


『偽善者?けれどもトキマカセ、あなたは王妃を苦しめる腹痛の原因たる物に辿り着いた。それがその青白き光ではないの?』


『うん。その事には偽りはないけれど、私はある方を、救う為に一つの大きな生命力を必要としているのです。だから私は彷徨う魂を求めてこの地に辿り着いたのです。だから良い人の顔をしながら、実は自分の利益の為に動いてはいるのです。だから感謝などしないでほしい。どうかこの事は私の懺悔としてあなたが受け止めてほしいのです。』



『…懺悔ね。人間なんて者は或いはそういう者なのではないのですか?誰かの為に誠意を尽くす。その為には何かを失わなければならない。けれどもそこに悪意がないのであれば、その事に何の問題があるというのですか?……あなたにとって守るべき人、ある方とは誰の事ですか?』



『我が国の王妃です。もちろんこの魂を殺してしまうわけではない。王妃の中で共に生きてもらいます。』



『なるほど。けれどもこの国の人々は双子の姫の誕生を楽しみにしています。それにアナベル妃は魂の一つが消滅した事にひどく落ち込むかもしれません。それはどうされるのですか?』



「それはこちらが責任を持って処理いたします。記憶の改竄かいざんという魔法をかけます。」



「記憶の改竄?そんな事が可能なのですが?そんな事が出来たら人は人を信用する事が出来なくなってしまうのでは?」


「そうですね。だからこそその呪術を扱えるのは時の神の御使にして、時の管理者。 『トキノ一族』だけなのです。

ソフィア様……残念だけれどゆっくり話している時間はあまりないので、一方的ではありますがお話はここまでにさせていただきます。もしあなたの元に再びトキマカセを名乗る者が現れたならこの銀時計をお渡しください。あなた方の為に役立つように念をこめておきます。どうかお互いに良い人と良い国に恵まれます様にお祈りいたします。』



自分の体に限界を感じていた。『時の宙』という大術を使い、何日も実体から離れて異世界に精神体を作り出し、その上その精神体でさらに精神を『天赦日』で飛ばすという荒技を使ったのだから。

疲労の色は隠せない。精神体ももはや薄らと足元のあたりから透けて消えかけていた。



「トキマカセ、あなた体が……出会った時からの違和感はそれだったのね。その記憶の改竄というやつをあなたが使ったら、私もあなたたちの事を忘れてしまうのかしら?」



「いや。ソフィアあなたは忘れてしまっては困ります。私はあなたにその懐中時計を預けました。つまりあなたには歴史を語る継ぐ担い手になってもらわなければなりません。」



「歴史を語り継ぐ担い手……ね。いずれにしても、もう動き出した歯車は止められないようね。私もそれを受け止めるし、覚悟を決めて沈黙を守るわ。」



「お願い…いた……し…ま…」



返事半ばで精神体が耐えきれなくなり、

意識を失いそうになる……。

すっかり沈黙してる魂を守る為に左手だけに意識を集中して力の全てを注いだ。

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