第37話 トキマカセノミコト 舞い散る

『ミソラ……。』


心の声でそう呼びかけたが返事はない。



『ミソラ聞こえているかい?』

もう一度そう問いかけると左手の青白く緩い光が、新しい種が芽吹いた様に青々と光を取り戻してきた。


『あ……うん。すっかり眠りについていたわ……。私ったら魂のクセに夢なんて見てたみたい。タンポポの種のようにフワリフワリあちらこちらと飛び回る夢。けれども中々私の納得できる場所は見つからないの……。

それでやっとの思いで、大きな大きな樹の上で、素敵な眺めの良い場所を見つけたの。』



『そうか……もしかしたら冬青の種がうまく君に着床したのかもしれないね。』



『そうね。そうあって欲しいわ。それでもう良いの?壱与様と話はついたの?』



心の会話中は瞑想しているようなもので、

もちろんその間は周りなど見えていない。

だから壱与が近づいている事に全く気が付かなかった。



「その青い光……それが魂なの?」


と気がつけば壱与が自分の左側に立っていた。そしてそのままミソラに手を伸ばす。


「え?!壱与様!!」


「大丈夫よ。だいたいこれから私の中で共存するんでしょ?あなたはいったいどんな魂なのかしら?」



『私は……。』


とミソラが壱与の手を通して話しかけてきた。


『あなたはその……魂さん?不思議ねどういうことかしら?あなたの声が聞けるなんて思ってもみなかったわ。』



『私はトキマカセノミコト様からミソラと名付けられた、彷徨える魂でございます。私がトキマカセノミコト様に拾われ貴方の元で生きる事を選んだ経緯いきさつを聞いてくださいますか?』



『聞く……というか感じるわ。もうあなたのという魂の流動が脈々と流れてくるようだわ。』



そして二人の鼓動の音が重なりあう様に響き渡る。


『私たちは相反する様で求め合っている。それは心に染み入る心地良い音の不協和音のよう。


陽と陰が時を介して一つになる。

それは太陽を蝕む月のよう。

陰と陽が時を介して一つになる。

それは月を纏う太陽のよう。』



壱与から発せられる黄金色の光と

ミソラから漏れる赤い光に

トキマカセノミコトは好機を感じた。


「なんと……私がいざなわずとも二つの魂が共鳴し合うとは……。ようやく二つの魂を一つにするというを守る事ができそうだよ。」



銀の懐中時計に念をかけて縫針の様な二本の小刀に変化させる。


「時の神、黒迺朱くろのす神。

遠くかけ離れた二つの魂は、あらゆる軌跡をつなぎ合わせて宿命の出会いを果たしたのだ。古きは新しきを求めて、新しきは古きを尊ぶだろう。どうか新しき歴史をこの我が生涯をかけた創造を受け入れたまえ。」


光と共に時の糸がトキマカセの目の前を川の様にながれていく。幾重にも連なるその彩りの糸は人の持つ気質の糸だ。時の流れとは即ち人と人の繋がりを指す。

様々な糸が重なり絡まり解けて繋がる互いに

「時の糸」


それは即ち人の持つ力や

黄金色の糸を左手の針に、

赤色の糸を右手の針に通すと、


「秘術……二針舞にしんのまい


剣を持ち糸を結いて舞たるすべ


「舞いて結ぶは夢の跡

時流れるは白妙しろたえ

にしきの糸に結びけり」


術に至るまでのプロセスをこの数日間ずっと考えてきた。きっと私ががこの世に生を受けた理由はこの時の為だったのだろう。

大事なのは結果ではない。

そこに行き立つ為の過程である。


ゆい



二つの糸は紡がれて

一つへと糸に螺旋する。

生命の静脈の様に運命の音が鼓動する。


「ミソラ」と壱与が呼びかけ


「壱与様」とミソラが受け答える。



ミソラがトキマカセノミコトの手を離れて壱与の中へと重なり合っていく。


そして剣を手に舞い、光る糸を紡いだ。

その姿はまるで春の日差しの中舞う薄紅色の桜を思わせ、青き光に翳らす新緑の様で、赤い夕暮れに散る黄金色の葉を感じさせて、銀世界に吹き荒れる粉雪のような

時の経過を美しくも儚くさせる舞だった。


そして……。


トキマカセノミコトは

その場で倒れ込んだのだ。

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