第7話 空の終着点と新しい時の始まり
「神様お願いします。」
なんていうのは実に抽象的なものだと思う。
どんな困難が訪れようと、
どんなに危機的状況に立たされても、
みんな「神様一生のお願い」
なんて祈るわけだから調子の良い話だ。
僕の家は小さいけれど、この辺りではそれなりに有名な由緒ある神社だ。だから幼い時から賽銭箱にお金を投げ入れて、長い時間拝む人をずっと見続けていた。正月には初詣に多くの人が訪れ、事あるごとに色々な人が御祈祷に訪れた。うちの神社は『刻』を祀る神社らしい。
「神様って言ってもな、人と同じでそれぞれ個性があってな、その神に見合った役割がある。この神社では2つ神様を祀ってある。
一つ目の神様は『
日本神話の天地開闢において登場する神様だ。名は天の真中を領する神を意味する。『古事記』では神々の中で最初に登場する神で、天の永久性を象徴する神とされる。
2つ目は『聖神』だ。この神様は、日知り=日を知るというところから暦を司る神なんだ。『天の永久性』それから『日知る』神を祀るということは、『
だからお前も『刻』つまりは時間を祀る者として一刻一刻を無駄にしてはならない。」
爺ちゃんがよくそう言っていたのを思い出す。
僕もなんとなくそのうちこの神社の神主さんになるんだろうな……。と小学生くらいまではそう思っていたものだ。
。。。。。。。。。。
長い長いトンネルを歩いているようだった。
暗闇の中を歩いているようで、
けれども決して深い闇ではなかった。
言ってみれば
誰かの思い出を辿る旅をしているような…
そんな気分だった。
適切では無いかもしれないせるけれど、
人が黄泉の世界に旅立つ時に見る、
走馬灯のようでもあるのかもしれない。
それで急に爺ちゃんの事を思い出したのかも知れない。
延々と続くこの空の終着点にはいったい何があるのだろうか?
世界の果てにたどり着いた時、
人はいったい何を思うのだろうか?
。。。。。。。。。。。。。。
暖かい手が僕の頬を叩いた。
痛みよりも優しさの伝わるこの手は、
いったい誰の手だろうか?
「
ゆっくりと目を開くとぼんやりと金色の髪の娘が謎の呪文を唱えながら僕の心臓に手を当て撫でているのが見えた。
「神崎!!!」
一瞬その娘が「神崎美宙」と重なった。
僕はあの時すっかり思い出したのだ。
神崎がいなくなったあの日の事を。
そうか……僕はあの
そして窟内に差した
吸い込まれるように入っていったのだった。
「意識を取り戻して良かったわ。大丈夫?
あなたはどうしてこんなところにいるの?
それから『カンザキ?』って何かしら?あなたはいったい誰なの?」
どう見ても
だから今いる場所が、日本であるどころか、自分が生きている世界とは違う、別の世界である事を受け入れざるを得なかったし、
それを受け入れない理由もなかった。
「ありがとう。君が助けてくれたんだね。
少し体が痛いけれど、とりあえず大丈夫みたいだ。えーと……いろいろと質問に答えたいんいんだけど……とりあえず君の名前を教えてほしいな。それからここは何処なのかな?」
「私ったら……ごめんなさい。気を失っていたんだものね。少し混乱しているのね。私の名前は『ディアナ』といいます。このAzure王国の城主の娘なの。ここはそのAzure王国の眠れる森の月の祠。それであなたの名前は?」
「僕は……えーと名前は…時任尊。」
「トキトウタケル?大陸の人?」
「大陸?……いやわからない。今君に助けらたこの場所が何処かもわからないんだ。あっさっき言っていたよね。なんだったかな?
アズール王国?」
「どういう事?記憶がないの?」
「僕は……。」
正直答えに困った。
だって記憶が無いわけじゃないから。
おそらく僕は今、
僕の知らない別の世界へたどり着いたのだ。
それは普通は受け入れ難い出来事だ。
あの日あの石に触った事で、初めからそうなる事がわかっていたかのように受け入れられるのだ。
では僕はいったい何の為に、
この世界を受け入れなければないのか?
きっとその理由は二つだ。
一つ目は青い空と黒い闇の狭間を探す事。
二つ目は一つ目の疑問をなげかけた
「神崎美宙」を探し出す事。
僕にはこの世界へと繋がる一つの結びつき
に、彼女が関わっているとしか思えなかったのだ……。
さてこの説明し難い状況と、これからのどうするのかを、いったいどのようにして、ディアナという少女に伝えたらよいのだろうか?
そしてこの右も左もわからない世界で、いったい何を頼りに生きて行けば良いのだろうか?
「タケルでいいよ。ディアナあらためて助けてくれてありがとう。実は僕は…人を探しているんだ。さっき言った、『カンザキ』というのはその娘名前で……女の子なんだけど。彼女は……」
そこまで言って口籠る。
よくよく考えてみれば、彼女の存在がなかった事になったあの日以来、僕は神崎に会っていないわけだから、彼女がどんな姿か?身なりも背格好もわかるわけがない。
つまり現在の彼女の特徴を知らない僕がどうやって彼女を探せばよいというのだろうか?
「ん?彼女は?どうしたの?」
「うん…彼女とはもう長い事会っていないから、今はどんな様子かわからないんだ。」
「長い事会っていないその『カンザキ』という人をどうして今探している?」
「それは……」
彼女に好意をもっていたから?
隕石に触れて運命を感じたから?
いろいろ考えたけれど結局僕は、
「彼女の事を忘れてしまっていた僕の償いだから……かな……。」
そう答えた。
その深く長く重い沈黙を察してくれたのか、
しばらく彼女はただ僕を悲しげな目で見つめて長くて短い静寂を2人は共有した。
「わかったわ。とりあえず城に向かいましょう。私の兄は博学でいろいろな事を知っているの。だから何か『カンザキ』に繋がる手がかりがみつかるかもしれないわ。」
「ありがとうディアナそうしてもらえると助かるよ。ところで君は城主の娘と言っていたけれど、それは要するにこの国のお姫様なのかい?」
「ふふふ。そうね。」
そう言って静かに笑いゆっくりと立ち上がって僕に手を差し伸べた。
僕は右手でその手を取って立ち上がりジーパンについた土を払った。
窟内は薄暗く足元も悪い。
その上あの隕石以外はどうやら夢闇の滝とは、勝手もちがうようで、ディアナの後をついて歩いた。頭を打ったわけでもないのに、
目の奥がグワングワンして、台風の前の気候変動時におこる偏頭痛のような症状があった。
「体の方は大丈夫?大分疲労感が感じられたけれど。」
「うん。大丈夫……。そういえばさっき僕が目を覚ました時に、何やら唱えている感じがしたけれど……。」
「あー…
治癒の魔法よ。少しだけ身体の疲労を取り除く力があるわ。」
「まっ…魔法ね……。なるほど。」
そんな馬鹿な!?という発想が思い浮かばないのだから、あの隕石に触れた事で、やはり何もかもが普通では(僕の世界での常識ではと言った方がよいだろうか?)受け入れ難い事も脳内に当たり前の事だと認識されるように書き換えられたみたいだ。
しばらく20〜30メートルくらいだろうか?
何せ勝手のわからない薄暗い道を歩いていたものだから距離感がちっともつかめなかった。ようやく入口らしき光が見えてきた。
随分と長い時間、閉所にいた気がして外の光を見たら心から晴れ晴れしてきた。
「この祠から城までは30分くらい歩くけれど大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。」
「ところでさっきから気になっていたんだけど、その大事そうに持っている本は、
いったい何の本なの?」
「え?」
本当だ。僕は無意識に古びていて
「あー……さて何の本だろうね?いや…わからない。本当に何だろうこの本は?」
そうして右手で本を開こうとした……けれどもすぐにやめた……?
というか正確にはやめざるおえなかった。
自分の意思とは違う何かがそうさせないのだ。けれども僕は意固地になって開けようとも思わなかった。
「わからないの?自分の持ち物なのにね。
タケルって本当に面白い人ね……。」
囁く様に呟くようにそう言いながらディアナは小さく微笑んだ。
入口に近づくに連れて外界からの風が頬を抜ける。心地よい風に季節の花々と森林独特の
陽の光に伸びるディアナの影に、
何となく哀愁が漂っていた。
ディアナから少し
助けてあげたい気持ちが湧いてきた。
そういうところに、やはり何か『神崎美宙』に近い、空気感があるのかもしれない。
木々から鳥たちの囀りがきこえて、
タヌキのような動物と小さな角の生えた鹿のような生き物が悠々と走り去っていった。
やはりどこか非現実的な世界を見ながら、
まず何をすべきか?
を考え始めた。
どちらにしても僕が今どういう状況でこの場所に辿り着いて、いったい何をしたいのかを整理する時間が欲しかったし、
僕が別の世界から来た事をディアナに説明しなければならないと思った。
。。。。。。
祠を出ると僕の住む世界では(少なくとも日本では)見た事もない深い深い蒼色の空が目に入ってきた。それで改めてここは僕の知らない世界なのだと実感したのだ。
それから目を瞑って大きく深呼吸をしてこれから先の事を考えてみた。
新しいことへの挑戦、未知の世界へ踏み出すという不安はたしかにあった。
けれどもそれを上まる使命感が強く湧いてきた。
僕はきっと呼ばれたのだ。
神崎美宙を救い出す為に……。
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