冥竜王と冥火の呪
第39話 目覚め
混沌とした眠り……
頭の中で創造された世界は、
光と
『トキマカセノミコト』
という名前を聞いて、
夢の世界を跨ぎながら、
唐突に頭角を現した、
『壱与』という存在。
それから時々ほんの少し現れる
別世界の人格。
彼女たちは私であり、
私は彼女たちであるのだ。
ではいったい……、
「竜騎姫メイクウとは一体何者なのだろうか?」
などと自らの存在についての疑念を思わず口にだして言ってみる。
チャウの話によれば、あのAZUL城に巨樹の
結界を張った神官は、おそらく夢世界でトキマカセノミコトに冬青の種を与えた神官だろう。もう少し早くこのオーヴァルという星に降り立っていたら、或いは直接本人に会う事ができたであろうか……。
いやあれはAZULの姫君が生まれる前の話。
つまり私はまだ存在していないか……。
それにトキマカセノミコトが望んだのはやはり、来世以降の壱与の魂との出会いだ。
とその時『ガチャリ』と扉が開いた。
「メイクウさまー!!もうお身体大丈夫ですか?」
とチャウが飛び込んできた。
なぜだかあの日以来チャウは私に好意的で、
それでいて上官としてではなく、まるで妹のように懐いてくる。
「やあーチャウ。お前は日に日に人間らしくなってるね。」
「それを言うならメイクウ様は日に日に優しくなってますよ。惚れちゃいそう。」
とか言いながら、にこやかに近づいて自然に腕に腕を絡めてすりすりと体を寄せる。
「バカを言うな……寄生虫のくせに。」
その腕を迷惑そうにでも優しく払いのける。
「あーそれ言います?やっぱり優しくないですねー。」
と少しプイっとそっぽむいて見せる。
「あーそうだよ。私はやさしくなんてないさ。ところでチャウ……」
まるで違うキャラだけど、こちらのチャウが嫌いじゃない。けれども私はもう決めたのだ。
このチャウとアルベルトのパーティーも、
今日限りで解散するべきだと。
それはやはり生きる目的がまるで変わってしまったからだ。
最初の目的である、AZULの占拠、オーヴァルへの侵略は、冥竜王様の恨みつらみ晴らしたい気持ちと名誉の回復の為。
けれども壱与という魂の人格が目覚めた今、誰よりも……何よりも……
だからこそチャウやアルベルトを自分の私情に巻き込むわけにはいかないのだ。
「どうしたんですか?あらたまって。」
と何かを感じとったのだろう。
先程じゃれてきた態度とは一転して
心配そうにこちらを見つめる。
「唐突で悪いけど、私侵略はやめるわ。」
「なーんだそんな事か。それで?」
「それで??
「うーん。話したければ聞きますよ。」
「なんだか納得いかないな……。まー良い。
「へー……どんな事ですか?」
「どんな事って……人を探したい。会わなければならない人がいるんだ。」
「うーん!!!ロマンチックってやつですねーー!!わーなんかテンションあがるわ!!
あれ?でもアルベルトはどうするの?」
「まーね。男前なんだけどね……呪術の呪いで自分に主従させてるだけだからね。彼の呪術を解くわ。それでね、チャウ。あなたも自由にして良いのよ。私に恩義なんて感じる必要はないわ。だからあなたも私の元を去って好きに生きなさい。」
「嫌です。」
と真剣な眼差しでそう言った。
けれどその後の彼女はなんとも言い難い、
何かに見捨てられたような……
置き去りにされたような……。
そんな不安な表情でそして少し怒りの目でそれから悲しみの目でこちらを強く見つめた。
「私はメイクウ様を慕って勝手についてきているだけだから。それに……所詮は寄生虫。行く宛なんてないですから……だから迷惑でなければ……ついて行きたいです。」
なるほど彼女も孤独なのは一緒なんだな。
それも良く理解できる。
「わかったわ。仕方のない娘ね……。」
正直言っている事とは逆にホッとした。
私だって本当はまだ自分の人格が安定しない状況で一人になるのは少し怖いと感じたからだ。
「わかったわ。けれどもこれからは、私とあなたは上官と部下ではないわ。良い仲間でいてくる?」
思いもよらぬ言葉にチャウの表情が綻ぶ。
「当たり前じゃないですか!!なんだかとても嬉しいわ!!それでメイクウ様、私は何をすれば良い?」
「ほら、言ってる側から……様付けはいらないよ。私はこれからアルベルトの呪いを解き、それからこの隊の指揮をヨハンに申しつけます。それでその後で冥竜王様にお暇をもらう話をつけに一度ヴァーミリオンに戻りますとりあえずチャウ、この部屋にアルベルトを連れてきてほしい。それから呪いを解くための冷たい聖水とドクダミの花粉、彼の髪の毛を二、三本、お願いね。」
「オッケー。わかったわメイクウさ……じゃなかった。んーどうしたら、いったいなんと呼べばいいのかしら?……あーそうだ。
わかったわ『メイ』。」
「『メイ』?」
「うん。だって流石にいきなり『メイクウ』は呼びにくいわ。私の名前『チャウ』も勝手につけたあだ名みたいなものだからね。だから愛称で呼ぶ事にするわ。」
「メイか……それも悪くないかもね……。」
新しい自分を始めるようだった。
ただでさえ3つもの人格を抱えているのに。
けれども昨日までとは違う。
少なくとも一つの人格と生きる目的に目覚めたのだから。
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