第12話 蝕まられる。
『
すこしずつ侵していく。
またはくいこんで悪くする。
蝕むという言葉はこういう時の為にあるのかもしれない。文字通り太陽は沈む事なく時間をかけてゆっくりと蝕まれていったのだ。
細い弓状の
それは1日の終わりに感じる絶望感にも似て、
という不安に
そんな気持ちと似ているように思えるのだ。
「どうしたのタケル。とてもひどい顔をしてるわ。具合でも悪いの?」
心配してディアナが声をかけてきた。
いったい僕はどんな顔をしていたというのだろうか?
「大丈夫…というか、いや……まぁなんかいろんな事が急に起きすぎて、正直困惑しているのかもしれないね。でも大丈夫だよ。別に問題ないよ。」
「ならいいけど。」
あの祠を出てからそんなに長い時間は経っていないのに、空には明るさなどなかった。
もう半分以上暗い闇に染まった森をしばらく歩くと大きな建物が見えて来た。おそらくあれがAZUL城なのだろう。この森は城の裏手らしく、本当に森の中から急に現れたと言う感じがした。ディアナもカインも二人とも何も語らずただ歩みを進める。
はじめからこうなる運命だったのだろうか?
もしかしたら今日ではない日に出会っていたら、
「あれがAZUL城よ。」
とか言って紹介してくれたかも知れない。
そう思うと僕はやはり来るべくして、
この地にたどり着いたのかも知れない。
「
あたりの薄暗さにディアナが小さな手持ちのランタンに火を灯した。すると少し前を行くカインが急に立ち止まった。
それからディアナの方を向いて、ランタンの火を消せ、というようなジェスチャーをしたので、ディアナは慌ててランタンの火に息を吹きかけた。
ふわりと火が揺らいで、光の残像を残して辺りは再び薄暗い闇に落ちた。
静寂……いや何やらざわめいている。
よく見ると城の方がぼんやりと明るい。耳を澄ますと何かが風を切る音がするし.小さな雑踏と気忙しく動く何やらの気配を感じた。
辺りを気にしながらカインが静かに近づいて来た。
「城を囲まれている。」
「いったい誰に?」
「わからない。とりあえず城に近づけるかどうか、少し様子をみた方がいいな。」
「カイン……。」
「んどうした?」
「城内の地下に繋がる隠し通路があるのを知ってる?」
「え?
「うん。この先にある城の裏手に災害時の備蓄用の貯蔵庫があるの。その棚の後ろに隠し扉がある。そこは城の書庫につながっているの。」
カインは驚いた顔をしていたし、
もちろん僕はそんな事知るわけもなかった。
「王族の避難経路だからね、ごく一部の限られた人しか知らないわ。」
「そうか。よし……それならば一刻も早く
ノエル様に合流して。敵襲に対応する作戦をたてねーとな。」
「それに神官長様にもお会いして、アルベルト兄さんの呪いの事も聞かないと。」
3人で目を見合わせて同時に頷く。
先程まではカインを先頭に進んでいたが、
ディアナが前にたって城の裏手にある貯蔵庫への迂回路へ向かった。
。。。。。。
城門で構えていた兵士たちが何やらザワザワと動きはじめた。先程AZULの歩兵が伝達しに来てから1時間くらいはすぎたであろうか。
ようやく動きがありそうだと多くの竜人たちが身構えているのを、メイクウが白けた目で見ていた。
「メイクウ様。敵兵達が皆、城の中へ入っていきます。」
1人の竜人がメイクウに声をかけた。
「やっと観念したのかしらね。待たせてすぎよ。本当に…。刻はもう十分に満ちたわ。
そう思わない?ヨハン」
「どうされますか?」
「城へ向かう。」
「はっ。わかりました。」
ヨハンと呼ばれた竜人と2人の竜人がメイクウの近くに集まって来て護衛の為に後ろからついてきた。
「他の者は待機だ。いつでも戦えるようにしておけ。」
とヨハンが大きな声で叫んだ。
空を舞っていた竜騎士たちが地上に次々と降りたっていく。城門は開放されていて門衛はおろか兵士すら一人もいない。
「どちらにしても、もう間も無く陽の光は完全に遮られて、陽の光を失ったオーヴァルは強烈な磁力が発生する。そしてこの地にヴァーミリオンが降り落ちる。そう磁力で惹かれ合う二つの星を侵略というべきではない。
これは侵略ではなくて星の融合なのだ。
あとはどちらが国を担うか?という事だろう。」
そう1人でブツブツ言いながら城門の前で立ち止まるメイクウとヨハンと2人の護衛。不気味なほどに静かで、本当に城内に人がいるのか疑わしいほどだった。
とその時………。
「地鳴り?」
と1人の護衛が口に出す。
ゴゴゴゴゴゴっと大地を揺るがす音が鳴り響く。ヨハンがメイクウの前に立ち、
他の2人も身構える。
地鳴りする音からわずかに遅れて大地がゆれる。突如として城門の奥の城の地中から何かが盛り上がってすごい勢いで空に伸びていく。
「なんだこれは!!」
地割れとその振動で護衛の竜人が体勢を崩して倒れ込む。そこに土を割り空を目掛け伸びる物体がその竜人体を貫いて伸びていく。
「植物か?!!!」
「メイクウ様!!」
無造作にの伸びゆく無数の木々をヨハンと残った1人の護衛が大きな剣で斬り払う。それを避けながら後退するメイクウ。
「ちっくしょー!!なんなのよこの樹は!!いいわ、あくまで戦う姿勢というわけね。
それならば全て焼き払ってやるわ!!」
金色の杖をかざして睨みつけるように、
城に向かって呪いの様な低い声で
呪文を放つ……。
「
太陽を蝕した赤き月から火の華が降り注ぐ。
まるで散りゆく花びらのように、
ゆらゆらときれいに舞い散る。
その見た目とは裏腹に積まれた
けれども樹は伸び続ける。
城を囲い全く火がつかない。
つかないどころか火の華をよせつけずに
成長しながら薙ぎ払う。
脈々と生命の流動を響かせながら
大樹はAZUL城をあっという間に飲み込んでしまった。
あまりに突然の出来事に、
「ふふふふ。」
込み上げる様に笑うメイクウ。
その笑いで我にかえるヨハン。
「斧を持て!!力のある者たちで、樹を斬り払え!!それから火薬を張達して火を……。」
「やめなさい。無駄なことよ。」
冷静に言い放つ。
「考えてもみなさいよ。鋼鉄をも貫く私の『月華』を物ともせず薙ぎ払った。なのにあなた達が力づくで何が出来るというの?」
「しかしメイクウ様!!」
「こういう時に必要なのは力じゃないわ。」
不敵な笑みを浮かべながら、
自らの頭を指さす。
「城は後回しにして、城下町へ向かうわ。
先に町を落とすわ。兵士たちは皆尻尾を巻いて雲隠れ。戦わずして勝利したも当然だ。
ヨハン、隊を率いなさい。それから無駄な殺生はしないでね。あたらしいくにの大事な労働力だからね。」
「かしこまりました。」
ヨハンは部隊長の竜人を呼び寄せて指示を出し始めた。
「ふん。国を堕とすのなんて象様ない事だ。けれども私にもプライドというものがある。
このままで済むと思うなよ……、」
大樹に向かってそう吐き捨てて、
自分の愛竜を呼び寄せた。
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