第21話 情報を掴め

俺は本棟へ着いた。警備員からの追及には、心臓が飛び出る思いだった。

闇雲に二人を探しても見つかることはないだろう。

まずは情報が欲しい。

二人の居場所に関するものがあれば最高であるが、入国管理局がどこにいるのかさえ分かれば、恐らく二人もそこにかくまわれていると推測されるからだ。

本棟は地下二階から地上三階建ての建物で、主に会議室や電波望遠鏡の操作室がメインではあるが、食堂やトレーニングジム、温泉と多岐にわたる施設が存在している。

迷わないようにフロアマップを確認してみるか。

地下のフロアは電源設備や機械室とのことだ。一階は警備室と会議室に温泉もここだ。二階にも会議室と食堂があり、研究棟や西棟、東棟への連絡通路がある。俺が今いるのもこのフロアここだ。

三階には電波望遠鏡の操作室と、一部の研究室があるようだ。

本棟で匿われているとしたら、地下ぐらいかな。電源室や機械室と偽って、内部に部屋を作ることぐらいできるであろう。

だが、二人がそこにいる確証がない。研究者は地下室に立ち入ることは少ないだろうから、ウロウロしているところを警備員に見つかるとやばい。

だけでなく、パスがないから室内に入ることすらできない。


さてと、フロアマップは頭に叩き込んだから、次にやることをリスト化するか。

一つ目、ララとセレスシスさんに関する情報収集

これは匿われている場所が特定できればしたい。

二つ目、入国管理局に関する情報収集

催眠シグナル防ぎ方は、美晴の助言通りにすれば問題ないだろう。だが、武術に長けている人物がいる様だ。救出の際には戦うことも検討しなければならない。

どのぐらい強いのかとか、そのほかの武器に関する情報なんてのも欲しいところ。

三つ目、パスを手に入れる

これがないと施設内を探索できない。可能であればレベルの高いパスが欲しい。

レベルによって入れる部屋が決まっているからな。できる限り最高レベルのを手に入れなくては……。

どれもこれもハードルが高すぎて、今にもしっぽを巻いて逃げてしまいたいほどではある。

それでも、俺は二人を助けたい。もう一度宇宙についてやララの惑星について話をしたいし、一番は天使のような笑顔を見られたらと思う。

よし、本棟での行動を開始する。


向かうは二階にある談話室だ。

ここはこの電波天文台で唯一、寛げるスペースになっている。

研究者も警備員も掃除のおばちゃんですら、ここで休憩をする場所なのだ。

だから情報も必ずここに集まると、俺は踏んだ。

そこの角を曲がれば談話室の入口だ。入ると壁際に様々な自販機が置いてある。

飲み物からお菓子に簡単な日用品も、二四時間ここで購入が可能な、便利な談話室だ。入ると複数人の白衣を着た研究者が目についた。奥のソファー席には、ターゲットである黒服=入国管理局員二名を発見した。


自動販売機でコーヒーを買い、怪しまれないように黒服の隣の席を確保した。

些細な情報も聞き漏らさないように、耳を欹てて聞いた。

しばらくはメモをするほどでもない、たわいのない続いていた。

「でさ、俺は言ってやったんだよ。そんな女はいないってな」

「だな。随分と奇特な女だよ。あははははは」

黒服の一人がふと腕時計を見た。

「そうだ、お前そろそろ交代の時間じゃないのか?」

「えっ、もうそんな時間かよ。やだなお姫様たちのお守なんて」

“お姫様たち”とはララとセレスシスさんのことかな。

「そういうなって、これも仕事だ」

「わかってるさ、でも思うんだ。俺はなんであの時、自衛隊を辞めてまでこの職に就いたのかって」

黒服は元自衛官なのか。通りで合気道二段の美晴が手も足も出ないわけだ。

おれなんて武術の一つも学んでこなかったから、鉢合わせになったことを考えると、何かしらの対策は必要だろう。これは今後の課題ということで。

「それ以上言うな。これは最初に自分で決めたことだろ」

「わかっている。今はガキのお守をするさ。だがな俺はこの星を外敵から守っていると自負している」

そう言うと缶コーヒーぐびっと飲み干した。

「“お姫様たち”をガキ呼ばわりするな。聞かれたら大ごとだぞ。俺もそうさ、自身のすべてを捨てて、この星を守ると決めたんだ。俺らは同じだ目標を掲げているさ」

「悪かった。任務に戻る」

手前の黒服が席を立った。

「そうだ、西棟に付いたらお姫様のところに行く前に、上嶋さんにこれを渡してくれ」

「上嶋さん?あぁ外務省のか、わかったよ。じゃあな」

“お姫様は西棟”にいるのか。

やっとわかったぞ。ララとセルシスさんは西棟に匿われているんだ。

黒服二人は席を立ち談話室を後にした。


西棟か、厄介なところにいるぞ。そこは合宿の時ですら足を踏み入れたことはない。

研究棟よりも警備が厳重で、間違えて橋を踏み入れたら警備員にすごいにらまれたのを覚えている。

どうしたものか。そう簡単に入れそうもないぞ。確実にレベルの高いパスがいるな。


俺はちびちびとコーヒーを飲みつつ思案する。

運よくパスを手に入れたとしても、西棟の内部がどうなっているのか全く分からない。

外観から予測するには地上二階建ての建物で、上から見ると六角形のような形をしている建物である。西棟の入口には警備員が常駐していて、パスとセットで行うのが網膜スキャンだ。

例えパスがあっても、生体認証技術を突破するのは容易ではない。

どうやっても答えが出ない。


「あっ玲香先輩。もう西棟での研究は終わりですか?」

美桜みよか。うん今日は終わりにしようと思っている。これからお風呂に行くのか」

「えぇ、そうなんですよ。よかったら……せんぱいも……ご一緒しませんか?」

「うーん、そうだな。研究棟に戻って続きをとも思っていたが、休息するのも悪くない」

「そーですよ。玲香先輩は頑張りすぎなんです。私といっぱい休息しましょ」

「そう、くっつくなって」

「私と玲香先輩の中じゃないですか。今夜は寝かしませんからね。先輩」

「美桜……寝かしてもらわないと、明日の研究に響くんだが……おおっい、引っ張るなって」

美桜が引っ張る形で、二人は談話室を去っていった。

玲香先輩か。これは使えそうだ。


俺は作戦を閃いた。

玲香先輩と美桜さんがお風呂に入っている間、パスは外してしまう。

その隙に美緒先輩のパスをいただけばいいんだ。

しかも美緒先輩は西棟で研究をしているとのことで、権限レベルが高そうだ。

さっそく実行に移そう。


だがまてまてまて、女湯にどうやって入ればいいんだ?

男の俺が堂々と女湯に入っていったら事案になる。速攻バットエンドじゃないか。

全然いい作戦じゃないぜ。

また振出しかよ。


その時、談話室の入口をネコが通り過ぎた。

「ネコか。なんでネコがここに居るんだ……」

ネコは入口に座ると耳を足でかき始めた。ネコの首輪が揺れている。

揺れていてわからないが、首輪にはどこかで見たことのある丸いものが付いていた。

耳かきが終わりまた座る。あれは懐中時計じゃないか。

はて同じようなものを先ほど見た覚えがある。

家ではなく、彩星の研究室でもなく……そうだ懐中時計ウサギだ。

あのウサギと同じ首輪をしている。飼い主が一緒なのか全く同じ首輪だ。


俺はあの時、ウサギになってここに潜入できたんだ。

ならば同じように変身をして女湯に潜り込み、パスを持ち出せばオーケー。

攻略の糸口が見つかったぞ。

ありがとうネコ?……すでに懐中時計ネコは、談話室の入口からはいなくなっていた。

ネコは気まぐれともいうし、この出会いもラッキーだったのかな。

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